表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/47

第三四話 碧空、鳳王の噂を聞く

【第三四話】碧空、鳳王の噂を聞く



 碧空一行はショッピング気分で、邑の通りを巡る。


「あ、すごーい石鹸がある」


 碧空が店先で見つけた石鹸を後ろからのぞいて、莉音が目を輝かせる。


「本当なのだ。美味しそうだな」

「いやいや莉音お姉ちゃん。あれは食べ物じゃないから」


 今度は燕青が店先で見つけたものに目を奪われている。


「む。この器はきれいだね。かわいいね。なにかな。これはなにかな」

「へぇ、陶器ですね。いいなぁ。うちの邑じゃまだ木製の器使ってるからなぁ」

「陶器というのか。仙界にある器とは違う素材だ。それになにより意匠が違う。かわいい」

「本当ですね。これは動物の絵かな」


 ふいに碧空が香ばしい匂いを感じて視線を巡らすと、肉串を売る屋台を見つけた。

 猪の肉だろうか。


 ぐぅぅ。


 碧空のお腹の音が反射的に発動してしまって大変恥ずかしい。


「食べるか。私が買ってこよう」

「い、いえいえ、そんなごちそうになるわけには」


 玉鼎真人がポンと碧空の頭に手を置く。


「遠慮することはない。貴君の精神は成熟しているとはいえ、まだ子供だ。よく食べ、よく育て」

「あ、ありがとうございます」


 玉鼎真人がよくしてくれるので恐縮しきりな碧空である。


「玉鼎師伯、我らもー」

「莉音は修行中の身だろうが」


 仙道は生臭禁止であるが、莉音があまりにねだるので玉鼎真人は莉音たちの分も買ってあげた。

 結構甘い人なのかも知れない。


 ちなみに、玉鼎真人がこの邑の貨幣を得るために立派な鉄剣を売った為、ちょっとした騒ぎになりかけたのは内緒の話だ。



「お嬢ちゃんかわいいから牛乳をおまけしてあげようね」

「わーい。おばちゃんありがとうございます」


 邑内で聞き込みをしていて自然とこの邑の状況もわかってきた。


 人材育成。生活改善。農業改革。富国強兵。

 などなど。


 当代の王になって関邑は急速に発展した。


「この邑がこんなに賑わっているのもみーんな鳳王ほうおう様のおかげさ。足を向けて眠れないよ」


 と牛乳配りのおばさんが言う。


 鳳王ほうおう

 現王の息子。つまり王子にあたる。


 その人物が産まれた夜に、この関邑の都上空にまばゆい円光を放つ鳳凰が光臨したという。

 瑞獣に祝福された天子を敬って、人々はその王を鳳王と呼んでいる。


 その鳳王が邑人へ牛乳の積極的な摂取を推奨しているのだという。


「数々の改革に、牛の家畜化にも成功しているなんて。まるで現代知識の恩恵チートでもあるみたいですね……」


 もしかして。

 鳳王とは転生者……?


 鳳凰の夜に誕生したとあらば、おそらく碧空と同年。

 幼くしてこれだけの才能を発揮したとあらば大いにあり得ることだ。


 転生者同士なら接触しておくべきだろうか。

 なんだかこう、この世界に与える影響とか話し合った方が……?


「碧空がなんだかまた考えごとしてるのだー」

「え? なんですか、莉音お姉ちゃん」

「難しいこと考える振りが好きなのか? 楽しい気分のときくらい、もっとしたいようにしてもいいのだぞ」

「お姉ちゃんみたいに?」


 碧空を抱え上げて、ほっぺたにスリスリする莉音に対して言ってみる。

 されるがままの状態でうっかり批判が混じってしまったが、莉音は気にせず心からの笑顔で頷くので、毎度のごとく碧空の方が折れる。


 いや。


「莉音お姉ちゃんのいうことも、もっともかなぁ」


 自分ではこれが自然なつもりだけれども。

 転生してから、わりと楽しい。

 でもその楽しさを素直に享受してきただろうか。


「ほら、まただぞー」


 莉音にほっぺたをむにむにされる、スキンシップは嫌いじゃない。

 そうこうしていると、声をかけてくる者がいた。


「なあ、おい。さっき鉄剣を換金したってのはお前らか」 

「はい?」


 声をかけられて振り返ると、そこには精悍な若者がいたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ