第二七話 碧空家族、山賊に囚われる
【第二七話】碧空家族、山賊に囚われる
父母は姿の見えない碧空を心配していたが、事情を説明したら納得した。
「今度はねずみなんだね」
「あっさり信じますね」
「今さら空がなにと付き合っても驚かないよ」
まだ仙道に幽霊、猿くらいなのだが。
信頼されているのか、それはそれで複雑な心境である。
父たちと相談して北の土地は避けようということになったが、さりとて次にいくところなどない。
そろそろ腰を落ち着けられる場所を見つけて祖母を休ませてあげたいが。
「私は家族一緒でいられるなら、どこだっていいんだよ。でもそれすらないっていうなら、どこまでも探そうじゃないか」
祖母が男気ある発言をするので逆に困る。
「……家族を失うのは、もうこりごりだからね」
そんなわけで放浪の旅を再開した。
のだが。
「なぜこんなことに……」
その翌日。
碧空たちは縄で縛り上げられていた。
山賊に捕まったのだった。
まさかこの世界にも山賊がいるとはなぁ、と碧空はのんきに思う。
流通が盛んではないので、山賊野党の類いは成り立たないと思いこんでいた。
でも思えばゆくゆくは盗賊だらけの梁山泊の舞台になるわけだし、封神演義にも聞仲の部下になった盗賊がいたなぁ。あれは原作だっけ。
あ、いや、でも前世と似ているだけで違う世界だもんな。
というか、そもそも水滸伝や封神演義はフィクションか。
……なんて現実逃避している場合ではなかった。
「ごめんな。俺がついていながら……」
「お父さんのせいじゃないよ」
「そうじゃ。気にするな。むしろむやみに抵抗してケガせんでよかったわ」
山道を登っていたら前後を挟まれて、碧空たちはあっさり降伏した。
地の利も向こうにあり、戦力差は明らかだったからだ。
縛られているが、手荒なことはされておらず、身につけている物もとられていない。
山賊は屈強な男十人。対してこちらは男一人と女子供が三人。
抵抗したところで簡単に取り押さえられると思っているのだろう。
「食糧も金目のものも、なんにも持っていないな」
「どうやら追放民のようです、晁雲さん」
山賊たちが荷を漁った報告をしている相手。
右頬に火傷跡のある、この晁雲と呼ばれる男が、この山賊の頭領であるらしい。
晁雲は品定めをするように捕虜を順に見ていく。酷薄な目つきである。
その視線が碧空のところで止まった。
「おい、なんでこんなガキまで縛ってやがる」
「へ? そりゃあ、捕虜ですんで、逃げられるかも知れませんし」
「逃げたガキ一人ぐらいすぐ捕まえられるだろ。外してやれ」
「はぁ」
縄を外された碧空に、晁雲はポイと木の実を投げてよこす。
「おいガキ。この辺は獣や妖怪が多くて、子供一人じゃとても生きていけない。せいぜい大人しくしてることだな」
「はい。わかりました」
「ふん。素直なガキじゃねえか」
山賊だけど、そんなに悪い人じゃないかも知れない。
かじった木の実は酸っぱかった。
晁雲たちは元はここより南西の土地の人である。
狩猟と畑作を主として小さな邑を営んできたが、あるとき天災にあって邑が壊滅。王の一族もみな死んでしまった。
晁雲は生き残りをまとめて、定住先を求めてこの土地にやってきたのだ。
そんな話を道々に聞いた。
山賊の中には子供好きな人がいて、碧空によくおやつをくれる。ここでも碧空の庇護欲をかきたてる特性は発揮された。
のみならず、山賊は祖母にも親切であった。道の悪さに難儀していると、どれ峠を越えるまで背負ってやろうと言ってくる。
食糧はすべて取り上げられてしまったが、代わりに山賊たちが自分たちの分から分けてくれる。
彼らも事情だけに質素な食事であったが、碧空たちが放浪中で食べていたものよりマシなほどであった。
親切にされる程に不安が募っていく。
捕虜にもコストがかかる。物を奪うだけなら殺した方が色々と簡単だ。
殺すのに気が進まないなら、さっさと解放してしまえばいい。
なのになぜわざわざ彼らのアジト兼集落に連れて行くのか。
その答えはしばらくして教えられることになる。
「お前たちにはこの土地を鎮めるための、人柱になってもらう」
……ああ。そういうことなのね。