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第十四話 碧空、燕青と会い死の宣告を受ける

【第十四話】碧空、燕青と会い死の宣告を受ける



「こちらは碧空殿のお宅でしょうか」


 玄関に凛とした声が響いた。

 対応に出ていた祖母がわずかに慌てた様子で碧空を呼びにくる。


「空や。お客様がきているよ。一体どこで知り合ったんだい?」


 碧空はその来客を目にして、祖母の動揺の理由を悟った。


 ハッとするような美少年であった。

 年の頃は十四。

 濡れ羽色の髪。

 涼しげな目元。

 すっと通った鼻筋。

 質素だが仕立てのいい服を着て、自然体ながら見惚れるような立ち姿。


 どこの天子か貴公子か。

 もし碧空が年頃の女子だったら一目惚れしておかしくない。

 生憎中身は男子だからそれはないけれど。


「かっこいい子、一体どこの男の子だろうね」


 たまたま見かけたのだろう、近所の人がひそひそと会話している。

 だが、この美少年当人は、噂されるのが嫌いなのだろうか。

 あの男の子かっこいい、とか口にされる度に眉間のしわが深くなっていく。


「私が碧空ですが、失礼ですがどなたでしょうか」


 もちろん、初対面である。

 こんな美少年を忘れるはずはない。


「三峰山翡翠洞は厳角児が弟子、海燕青と申します。本日は道友の紹介で参りました」

「紹介、ですか?」


 洞府の名乗りをあげたということはこの人も仙人なのか。

 とそこで碧空は先日の話に思い至った。


「ということはあなたは莉音お姉ちゃんの言っていた」

「いかにも、私は……」

「お料理の先生」

「いや、ちがう!」

「あれ?」


 てっきりその件だと思ったのだが。


「ではなんのご用事で」

「私の専門は召鬼しょうき。その件です」

「はあ。しょうき」

「召鬼は鬼を召すと書く。平たくいえば悪霊退治や幽霊の鎮魂の専門家だ」

「それは、つまり……」


 碧空の家に霊能力者がやってきた。


「ちなみに莉音お姉ちゃんは?」

「遅刻である」


 燕青は腹立たしげに言った。



「さて、では改めて。こやつが迷惑をかけて申し訳ない」


 大いに遅刻した莉音を隣に立たせて、燕青は頭を下げた。


「いえいえ、頭をあげてください。莉音お姉ちゃ……莉音様が遅刻するのはいつものことですし。仙人様と私たちとは時間感覚がちがうのは承知していますから」

「いや、確かに時間の流れに頓着しないものは多いが……こやつはそんなに遅刻するのか」

「ええ、まぁ」

「昼に来ると言って夕刻に訪れるといった感じか」


 燕青は呆れたように言ったが。


「いえ、一日単位で」

「申し訳ない! ほら、お前も頭を下げろ」

「ごめんなさいなのだ」


 一層、深々と頭を下げさせてしまった。

 人気のない、小さな滝のそばまで移動してきていてよかった。

 年長の二人に謝らせている幼児なんて異様な光景、他人に見られたくない。


 しかもその二人というのが、目を疑うような美少年美少女なのだから。


「まぁ、そう咎めるほどのことではありませんから」

「いや、それ以外のこともだ。聞けば長嘯ちょうしょうの術を用いて虫をけしかけたり、誘眠香を使って眠らせたりして迷惑をかけたそうではないか」

「はぁ、そうでしたね。後は岩のように重くなったのを背負わされたり」

「ほほぉ。全て話せと言ったがまだあったのだな? お前というやつは」

「くひぃぃ……いひゃい、いひゃいぃ!」


 燕青はこめかみをひきつらせて、莉音のほっぺたをひっぱる。

 その二人の様子に碧空は表情をほころばせる。


「仲がいいんですね」

「別によくはない」

「ええー。なぜだー。我と燕青は仲よしではないかー」

「同じ時期に洞府に入ったこと、師匠同士が交流があること。それだけだ」

「うむ。それだけあれば仲よしになる理由は十分だな」

「仲はよくないというのに」


 どう見てもじゃれているようにしか見えない。

 それに、莉音の悪さを聞いて、自分は悪くないのに一緒に謝るというのは二人の親密さの現れだと思う。

 恋人同士とまでは言わないまでも、いい仲なのではないか。


「こほん。私はしっかりとしたいだけだ、いわれもなく仙道が仙術を用いて下界に干渉するべきではないと、私は考えている」


 ふと将儀が梨泥棒したのを思い出した。

 ややこしくなりそうだから黙っておこう。


「なー? 召鬼の道士なのに禁術の道士みたいなやつだろー?」


 莉音がさもおかしそうに笑いかけてくるが、その冗談ちっともわからない。

 謝罪も終わり、しばらく歓談した後。


「さて、それではそろそろお暇するとしよう」

「ふな? ちょっと待て。本題がまだだぞ」

「その娘の体調が悪いという話か。ふむ、どれ顔を見せてみよ」

「燕青は勉強家だから面相が見れるのだ」

「面相ですか?」

「面相によって相手の状態や寿命を知る。召鬼の術者には基礎的な技術だ。どれ……」


 燕青がじっと碧空を見つめてくる。

 きれいな顔だ。

 同性でもついドキドキしてしまう。


「目をそらすな」


 居心地悪くて目を泳がせていたら怒られた。

 そして、顎をクイッと引かれる。

 キスされるかと思って、碧空は大いに緊張した。


「どうだったー?」


 能天気に声をかけてくる莉音に、燕青は事も無げに答えた。


「うむ。死相が出ている。これは一月もたずに死ぬな」



「え?」

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