鉄の試練/7
夕暮れのジュギーツの街、街を覆う様に作られた石の壁は破壊されて、その中では凄惨な戦いが繰り広げられていた。
人々が逃げ惑う中、紫色の装甲を纏った7メートル級の魔王軍のゴーレム「ボルバロ」がハンドメイスで建物を片端から砕き、その上を「飛行」する青い肌をした魔族の「魔法兵」達が火の魔法を放つ。
魔王軍の基本的な部隊編成はゴーレム一体にゴーレム操縦者一人、魔法兵3人の随伴、街の中には今12体のゴーレムが居る為、少なくとも36人の魔法兵が居る、そして魔法兵が操る小さなゴーレムなども含めば数は更に増える。
ジュギーツの街は人類圏の西端の国「マルキア王国」の重要な生産拠点、西側にあった事でかつての人類同士での争いの戦火から逃れていたこの街であるが、西から来る魔族にとっては最も狙いやすいものとなってしまった。
しかし人々もただやられている訳ではない、魔王軍の侵攻に対抗する為に防衛騎士達が常駐していた。
「ゴーレムを潰して魔族共を追い出せ!」
この街ではゴーレム製造が盛んである、となれば当然熟練のゴーレム乗りも居る。
「騎士団だけにいい顔させるな!俺達も意地を見せる時だ!」
騎士団、民間のゴーレム、あわせて合計30体のゴーレムが出撃し、魔王軍に立ち向かう。
それぞれが槍やメイスを手に突撃していく、石畳を陥没させ、大地を揺らす足音にゴーレム・ボルバロ達が破壊活動を中断して防衛側のゴーレム「ゴルトン」に向かっていく。
粘土の肉と、鋼の骨、そして鉄の甲冑を纏った二体の巨大な人型がぶつかる、勢いよく振りかぶられた互いのメイスが鎧を打つ、よろめいたのは防衛側のゴーレム・ゴルトンだ。
ゴーレムは肉となる粘土に溜め込まれた魔力によって力強くなる性質がある。
魔族は人族より多くの魔力を持つ事ができ、人族より早く魔力を回復でき、魔力を操る技術も上だ。
瞬間的にボルバロの中の魔力の流れを制御して腕力を強化、そしてゴルトンに打ち勝ったのだ。
ボルバロはよろめいたゴルトンの腹にメイスを打ち込み、中のゴーレム乗りを揺さぶりつつ、ゴルトンを打ち倒し、トドメにゴルトンの腹を踏み潰し、中に居たゴーレム乗りを始末する。
「所詮人族の作った出来損ないのゴーレム、我々のボルバロの敵では……」
戦場では一瞬の油断が命取りとなる、建物の影から飛び出してきた別のゴルトンが随伴の魔法兵を纏めて踏み潰し、蹴散らしながらボルバロの懐に飛び込み、炎を纏い赤熱したショートダガーでそのわき腹を突き刺す。
「油断大敵ってな」
あっという間に一体のボルバロを始末したのは「ロメイン・ボルト」ゴーレム乗り歴15年の髭面のベテラン傭兵だ。
防衛隊の中には非常事態故に高額で雇われた傭兵も混じっている。
味方がやられた事に気づいた二体のボルバロが向かってくる事に気づくと、鎧の隙間から煙幕を展開、ロメインの操るゴルトンはすばやく身を引く。
「くっ!煙幕か!卑きょ……」
「まあ取っとくか」
煙幕に気を取られていたボルバロ達の右側に回りこみ、再びショートダガーで近く居たボルバロの腹部の突き刺しゴーレム乗りを始末、そして動かなくなったそのボルバロを盾にしつつ、二体目のボルバロに接近する。
「許せ!」
魔王軍には人質を意味を成さない、生き恥は許されないのだ。
盾にされたボルバロ諸共大型メイスでゴルトンを叩き潰そうとするが、それより早くロメインは盾としたボルバロを蹴り飛ばしぶつける事でメイスを振り下ろそうとしたボルバロを後ろに倒れさせる。
「終わりだ」
そしてゴーレムの鎧の胴体の隙間にダガーを突き刺しトドメを刺す。
「さて、なんとかなりそうかぁ……?」
3体のボルバロを撃破したロメインは街の戦況を見る、どうやら防衛側にも被害は出ているが概ね順調なようだ。
「にしても魔王軍もご苦労なこった、こんな所までゴーレムを運んでくるなんてな」
ゴーレムはその重さから「空輸」が難しい、魔王軍がゴーレムを運ぶには大陸中央の「砂漠」を通らねばならない。
たかが街を攻撃する為だけにこれだけの数のゴーレムを運んできたにしては随分手間に見合わない。
「何かカラクリがあるようだが……まぁ、これはお国のお偉いさんが考える事か」
ロメインにとっては敵が魔族だろうが人間だろうが関係ない、金になるから仕事をする。
それだけだった。
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「サイダ、そこの壁の穴から街に入ろう」
『了解』
アルフィとサイダがジュギーツの街に辿り着いた時には既に日は完全に暮れていた、しかしまだ戦闘は続いていた。
まず目に入ったのは倒れたゴルトンにメイスでトドメを刺そうとするボルバロの姿。
『どちらが敵ですか』
「紫色の方!銀のは王国のゴーレム!」
『了解、ハンドキャノン、オンライン』
CYDは即座にハンドキャノンを構え、30mmの弾丸でボルバロの頭を吹き飛ばし転ばせる。
「私は倒れてる方のゴーレムに乗っている人を助けにいくから、敵の相手をお願い」
『了解、気をつけて』
左手で機体上部に乗っていたアルフィを足元に降ろし、CYDが先程転ばせたボルバロの元へ向かう。
そしてスキャンによって胴体部分に生体反応を検知したCYDはボルバロの装甲をこじ開け中に居た「魔族」を左手で引き摺り出す。
青い肌に、黒い二本の角、未知の種族との邂逅である。
そして数秒のスキャンにより肉体のデータを取った後、CYDは魔族のゴーレム乗りを握りつぶした。
「助かった、あれは君の仲間のゴーレムか?」
一方アルフィは足を炎の魔法により溶かされ潰されて動けなくなったゴルトンの胸の装甲を開かせ、中に居た騎士団所属のゴーレム乗りに手を貸して降りさせる。
「はい、仲間です。色々事情はありますけど、この街が襲われているのを見て助太刀に来ました」
「助かる、だがあれはどこのゴーレムなんだ?」
「……遺跡で発掘したゴーレムです、自分の意思を持っていて乗る事は出来ないですけど、味方……です」
アルフィの説明に少し驚いた騎士団のゴーレム乗りだが、助けられた事は事実。
「意思を持った魔法道具は聞いた事があるが、まさか意思を持ったゴーレムとはな……とにかく助かった」
ひとまずは味方と判断、助けられた事に改めて礼を言う。
『アルフィ、まだ敵は居ます……私が行くのでここで待機を』
「わかった」
魔族の生体反応パターンを登録したCYDは街の中にある同一の反応をターゲットとし、戦闘を開始した。
まずは飛行する魔法兵、弓やボウガンから放たれる矢、そして騎士団の電撃魔法を回避する魔族の魔法兵をロック、30mm弾を撃ち込み次々と血煙へと変える。
炸裂音に気付き向かってくるボルバロに向かってブーストを吹かしてダッシュ、懐へと潜り込みハンドキャノンを接射、中の魔族を処刑。
生き残っていた魔法兵が放ってきた巨大な火の玉、それをCYDは脅威と認識し、シールドを展開した上でボルバロを盾として受け止める。
そしてそのままハンドキャノンで一人を狙撃、もう一人は飛んできた矢に当たり墜落。
残りの魔族の反応4、恐らく勝ち目がないと撤退しようとする者達だ。
だが飛行魔法で壁を飛び越えようと飛び上がったその瞬間、魔族達を30mmの弾丸が襲った。
『排除完了』
魔族反応0、つまりは殲滅完了であった。