鉄の試練/5
30mmハンドキャノン、ダイダロスが携行する全長3メートル程の標準的な対物ライフル、火薬ではなくエネルギーフィールドの流動特性効果によって加速した弾丸を撃ち出す。
1マガジン30発で、バーストモードでは3秒で1マガジンを対象に撃ち込む事が出来る。
その破壊力は標準的なダイダロスであればシールド機能していなければ瞬く間にスクラップとなる程だ。
トロール達に砲口を向けながら、CYDはポジションを確認する。
『アルフィ、炸裂音が鳴ります、耳を塞ぐなどの対処を推奨します』
「4つ数えるまで待って」
『了解』
CYDの機体の出っ張りを掴んでいる為に片腕が塞がってるアルフィは風魔法で「空気の耳栓」を作り片耳を塞ぐ。
「もういい」
『OK.Fire』
アルフィがもう片方の耳を塞ぐと同時にドンと、空気が揺れ、同時にトロールの一体が水風船の様に爆ぜた。
「凄い威力、まるで大砲みたい」
『標準的なダイダロス用ライフルです、30発までなら連続して撃てます』
「この技術欲しい」
『戦闘が終われば技術の説明をします、戦闘続行』
何が起きたのか理解していないトロール達、CYDは次のターゲットをロックする。
『Fire』
『Fire』
『Fire』
エネルギーフィールドと弾頭の干渉によって三度起こる水色のマズルフラッシュ、トロール達の肉体を撃ち抜いて尚、弾は止まらず後ろの木々を吹き飛ばす。
残ターゲット23、トロール達は仲間達が目の前の巨人にやられたという事を理解するが、逃げる事なく向かってくる。
自分達の数と力の利こそ絶対だと思っているのだ。
『近接戦をします、揺れに注意してください』
ハンドキャノンのグリップを握っていない左手はフリーだ、腰をひねり、左腕のフレームと装甲に多くエネルギーを供給して対衝撃エネルギーフィールドを纏わせる。
そして左手が空を切り、トロールの顔面に叩き込まれる拳。
容易く吹き飛ぶ禿げ上がったトロールの頭部、続けてもう一撃、今度はトロールが振りかぶった木の棍棒諸共トロールの上半身が吹き飛ぶ。
後ろから回り込んで来ていた3体のトロール達には体を捻り、右手のハンドキャノンから30mm口径の砲弾を浴びせる、爆裂、残り18体、ここに来て3分の1がやられたという事を自覚して離れていたトロール達は逃走を図り始めた。
だが容赦なくCYDはハンドキャノンを離れていたトロール達に撃ち込む、逃がせばこれ以上の数で再び襲ってくる可能性があるからだ。
4度引き金を引き、残り14体、残ったトロール達は逃げられない事を悟り捨て身の覚悟で向かってくる。
「残りは私に任せて」
『何をするつもりですか』
「魔法を見せる、10数えるまで待って」
『了解』
CYDがハンドキャノンを背中にマウントし、腰を低くするとアルフィが地面へと降り、鞄から何かを取り出すその間、CYDはシールドによる防御を行う体制に入った。
飛び掛ってきたトロールを右手で掴み、岩に向けて投げつける、潰れる、残り13体。
同時に二体でかかってきたトロールはエネルギーシールドを展開し強引に弾く。
一体は健在だが、もう一体はぶつかりどころが悪かったのか動かなくなった、残り12体。
「準備ができた、乗せて」
『了解』
左手で円形のシールドを張りながら、球体状の結晶のはまったプレートを持ったアルフィを右手で掴み、CYDは彼女を機体上へと乗せる。
「これが魔法の力『太陽の視線』起動」
プレートにはまった球体が輝きと共に赤い光線を放つ。
それは大地を焼きながら、トロール達へと降り注ぐ。
するとトロール達は瞬く間に炎上、あるいは焼き断たれる。
そしてその光線はアルフィがプレートを傾ける事で向きを変え、他のトロール達も巻き込んでいく。
『強力な熱線兵器です、しかし熱は大丈夫なのですか?」
「空気層があるから平気」
光線が止んだ時、焼け焦げた大地に立っていたトロールの数は0。
「魔法はこういう事ができる、ただ……これは使う準備に時間が掛かるし、味方を巻き込みかねないから使いにくい類だけど威力だけはあるタイプだからあまり参考にならないけど……」
『これはあなたがつくったのですか?』
「……そう、魔法自体は師匠が使っていたものだけど、魔法道具に落とし込んだのは私」
『魔法の脅威度とあなたへの戦力評価を修正しなければなりません、今の魔法は我々の戦場でも脅威となります』
「それは褒めているの……?」
『はい、まだこの世界の魔法の平均的な戦力指数を測りきれていませんが、現状ではかなりの脅威と判断します』
「だったら、気をつけて、これ以上の魔法を魔族は使ってくるから」
先は、随分と荒れそうだとCYDは推測する。
『了解、ではそろそろ行きましょう、再びトロールの様に何かが集まってくる可能性もあります』