鉄の試練/3
小さな月に照らされた草原の道を巨人と少女が行く、そこに信頼も絆もなく、あるのは互いの目的だけ。
「……遥かな昔、魔法・自然・学術の3柱の神がこの世界とそこに住まう生き物を作った。魔法の神は魔族を、自然の神は動物達を、学術の神は人間を作った。
学術の神の子である人間は学術こそが最もすぐれていると信じ、魔法の神の子である魔族は魔法こそが最も優れていると信じた、だから争った、その争いは今も続いている」
アルフィが語るのはこの世界でもっともよく知られる、創世の神話。
「人が使う魔法は魔族の使う魔法より強くない、何せ種族としての成り立ちが違うから、でも人の学術はそれを克服する為に魔法道具という概念を作った」
アルフィが手にしたのはボウガンと矢、矢の穂先は鉄でも石でもなく、緋色の液体の入ったガラスのビンだ。
「これで大体街まで3分の1だから、今日はこの辺りで休もう」
放たれた矢は草地に突き刺さり、砕けたビンから飛び散った液体が燃え上がる。
『それが魔道具ですか?』
「そう、一番簡単なものでポーションって呼ばれる、魔法の効果を持った薬液、色々な効果を付与できるけどこれは水気に触れると燃え上がるモノ、火矢としても使えるし、乾いた薪の無い時にも使える……師匠が教えてくれた」
『なるほど便利ですね、しかし、いいのですか?この様な使い方をしてしまって』
「あなたみたいなのが居るから獣共も襲ってこないとは思うけど、獣除けの意味も入ってるから別にいい」
草地全てを燃やすわけにはいかないが為に、火の回りの草を「風の刃」によって切り裂いて、アルフィは背負ってきた鞄を地に下ろして腰掛け、CYDも腰を下ろす。
「次はサイダ、あなたの番、あなたが何なのか知りたい」
『私は戦闘用に作られたパワードアーマー、ダイダロス……いわば人間が乗り込む事で手足の様に動かせて自律行動も可能な巨大な鎧と思っていただければいいです』
「人なら誰でもいいの?私でもあなたを動かせる?」
『動かす為にはパイロット登録が必要です、アルフィ、今のあなたはあくまで外部協力者であり、友軍として認識していない現状ではパイロットとして登録する事ができません』
「確かにまだ出会って間もない相手に心を許して身を任せられるわけない」
『軍事規定です、故にあなたがこの先も共に行動する中で規定を満たしていけば、パイロットとして登録できる日も来るかも知れません』
頭部のモノアイセンサーと各部のカメラを輝かせ、CYDは周囲の警戒を行いながらもアルフィと語らう。
『ここまで来ましたが共に行動をする上で、互いの目的をはっきりさせておく必要があります』
「そう、私は街についたら、まず仕事を探す、魔法道具を作るにしても材料費が必要だから……そして準備が整ったら魔王軍と戦う」
『何の為に?』
「復讐、それだけ」
復讐、この世界の戦いを止める理由のないCYDにとっては別に関係の無い、いやむしろ都合のいい目的であった。
『了解、私の目的ですが任務の執行の為に帰還の方法を探します……しかし私にはこの世界の知識が欠乏しています、そこで取引を提案します』
「取引?」
『私の目的を手伝ってください。その対価として私は持てるだけの知識、技術、あるいは戦力を、あなたの目的の為に提供しましょう』
「つまりは私の復讐に協力する代わりに、あなたが帰る為の手段を探す手伝いをしろと?」
戦力、おそらくはこの世界では未知の技術、知識、CYDが持つ手札は多い、交渉のカードとしては十分だろう。
『そういう事です、引き受けてくれますか?』
「……わかった、引き受ける」
CYDの推測どおり、アルフィは案内役を引き受けてくれた。
「ただし……契約は両方の目的が達成されるか、どちらかの目的が達成できない状態、つまりは死ぬ時まで。私が道半ばで倒れれば無効になるし、あなたが動けなくなっても無効になる、それでもいいなら」
『了解、極力互いに倒れる事の無いように努力をしましょう』