鉄の試練/2
夜が明けるとアルフィはまず、「家族」の墓を作った。
本当であれば犠牲者全員の分の墓も作りたかったが、全員の墓を作っているだけの余裕はない。
残りの遺体の埋葬をCYDに押し付け、食料、衣服、容器、金銭、そして仕事道具、アルフィは使えそうなものをかき集める。
今のアルフィを突き動かすのは魔族に対する深い怒り、それが生きる為の力となる。
かろうじて無事なビンに、ポーションと呼ばれる薬液を詰め、詰め込めるだけ鞄に詰め込む。
「かならず、仇はとるから……」
優しかった師匠であり育ての親も、職人として大成するだろうと期待してくれていた者達も、もういない、全ては奪われた、残るのは怒りの火だけ、強くなって魔族に同じ痛みを味あわせる事だけが今の願いだ。
その為には得体の知れないゴーレムだって利用する。
魔法、自然界に存在する風・水・土・火の四つの属性を操る未知の技術。
アルフィがCYDに見せたのは最も分かりやすい炎の魔法、肉体に蓄積した魔力から炎を作り出す発火。
これが住人達の死体の損壊の原因だと理解したCYDは、この星の文明は魔法と呼ばれる技術を中心としているが故に機械技術が発展していないのだと推測する。
このままでは科学技術によって宇宙へと帰還し、任務を遂行するのは不可能だ。
魔法の技術も取り入れなければならない。
その為に利用できるものは利用する、アルフィは自分を魔法道具職人だと言った。
魔法道具とは魔法の効果を物品に宿す事で持ち主の魔力を消耗する事なく、また魔法の知識がなくとも、魔法を使う事のできるモノだと聞いた。
それはつまりは、この技術を持ち帰る事で「N.E.F」が新たな技術アドバンテージが得られるかもしれないという事だ。
しかし、その為にもまずは帰還の方法を探さなければならない。
時間の流れの違い、次元の違い、平行世界、例えどんな壁があったとしても、帰還し、任務を遂行する。
そうでなければ、自分に全てを託した者達の死が無駄になってしまう。
存在し、探求し、帰還し、任務を果たす、それがCYDの新たな優先任務。
「ねぇ、あなたの名前はなんと呼べばいいの?」
『前のパイロット、主人はサイダと呼んでいました』
「じゃあサイダ、準備が整ったから街を出てこれから東へ向かう……そこには大きな街があるから、そこでお互いに情報を集めよう……と言いたい所だけど」
『何か問題が?」
「あなたは目立ちすぎる、一応は遺跡で見つかったゴーレムで通すけど、実際着いた先でどうなるかは分からないから、それだけは覚悟してて」
『了解、こちらからも一つ、道中で敵対する勢力と遭遇した場合、相手を攻撃、殺傷する場合があります、事前にそれだけは伝えておきます』
「わかった、じゃあ行こうサイダ……どのくらいの付き合いになるかはわからないけど、よろしくね」
こうして一人と一機の旅は始まった。