鉄の試練/1
森を出て、舗装されてこそいないが「道」という「人の痕跡」を追い鉄の巨人、CYDが辿り着いたのは瓦礫と化した街。
まともに抵抗できずに殺された人間達の姿、争いの世界で存在してきたCYDにとっては見慣れた光景でこそあるが、CYDがまず注目したのは建造物の残骸と、死体の破損具合の歪さ。
石をくみ上げたような建造物と見つからない機械の残骸。
外宇宙に進出し、様々な惑星に植民地を持つようになった人類、それが何故いまさら機械無しで中世の様な建造物を築くのか、観光都市ですらそんな徹底はしないであろう。
ここでタイムスリップという可能性を考慮するがそれにしては死体の損壊が歪すぎる。
刃物による切断などで死んだモノはまだわかる、だが凍結した死体、雷撃によってズタズタに破壊された死体、レーザーの様な高温で溶断されたような跡。
これがもし人間ではなく異種の生命体であったなら、未知なる異星文明圏の惑星に辿り着いたものだと判断できたが、死体はあまりにも人間に酷似している。
CYDは自分に専門的な解析ができない事に力不足を感じながらも調査を続ける。
せめて、生存している者がいれば意思疎通により情報を得られる、ならばと起動するのはソナーパルス。
これは周囲の生体反応あるいは電磁波に反応するレーダーの一種、CYDの機体につまれているモノはそこまで機能の良いモノではないがそれで十分であった。
生体反応1、崩れた建物の下に埋もれていた「子供」を発見したCYDは瓦礫を手で慎重に除去する。
ダイダロスの原型は人の手足の延長として作られた脳波操縦型の汎用パワードスーツ、この様な災害救助などの作業も得意だ。
パイロットの保護機能の一部である簡易診断プログラムの結果、擦り傷や軽度の打撲などだけで命に関わる怪我はないと判断したCYDは救助した「少女」をそっと持ち上げて井戸の近くへと運ぶ。
井戸から汲み上げた水は大よそ良く知る「水」そのものであり、毒性も検知されない。
CYDは破損の少ない布切れに水を浸して絞り、少女の顔をやさしく拭う。
銀の様な、普段目にしない変わった髪色にもまた注目する、遺伝子的に見て「人間」との差異を考察しながらCYDは少女が目を覚ますのを待つ。
悪夢のフラッシュバック、記憶の再現。
街を襲う魔族の兵士、振り下ろされる剣を杖で受け止めた時の腕の痺れ、蹴り飛ばされた時の痛み。
「伏せてなさい、アルフィ……私がなんとかするわ」
薄れていく意識の中、家族の居なかった自分をここまで育ててくれた母の様な師匠エルナーザ。
最後に見たのは背中から胸に掛けて剣によって突き刺された、たった一人の家族の姿。
届かないと分かっていても、無意識に伸ばした手が何か金属質のモノにふれる。
そして少女アルフィは目を覚ます。
『起きましたか』
夜空の下、焚き火の音とエコーの掛かった男の声が聞こえた。
アルフィは起き上がりその声の主を探すが、その「男」の姿は見えない。
「誰……?」
『私はサイクロプス型ダイダロス、CYD-8385、上を見上げてください、これが私です』
炎の照らされる紺色の巨体、青白い光のセンサーが発光させるその姿を見てアルフィは絶句する。
ゴーレムと呼ばれる魔法によって動かす巨大な人形兵器、アルフィがCYDの姿を見て思い浮かべたのはソレだった、しかし古代の遺跡から発掘されたものでも、言葉を話すようなゴーレムなんて聞いた事すらない。
『あなたの名前を教えてください』
「……アルフィ・セアル」
『アルフィ・セアル、私はこの空の向こうからやってきました、帰る手段を探していますが何か知りませんか?』
「わからない、空の向こうなんて……聞いた事ない」
目の前の存在は当然の様に空の向こうという、星占術などを得意とする者なら知らなくもないだろうがアルフィはただの「魔法道具職人見習い」だ。
そんな事には詳しくない。
『そうですか、それでは次に……ここで何があったのですか?』
CYDの問いにアルフィはその惨劇を思い出し、震えだす、たった一人の家族はどうなったのか、周りに住んでいた人達はどうなったのか、知りたくは無かった、しかし理解してしまった。
ここに自分とこの得体の知れないゴーレム一体。
「……魔族に襲われた、皆……殺された」
『はい、確かにあなた以外の生存者はありませんでした。魔族とは一体どんな存在ですか?』
「……魔族は、青い肌をしていて、角があって人間より魔法を使いこなせる種族、ずっと昔から人間と争ってる」
『魔法、魔法とは?』
「あなた、魔法を知らないの?ゴーレムなのに?」
聞けば聞くだけ疑問が沸く、CYDはあまりにこの星を知らない。
『聞くべき事が多すぎます、人の居る場所を目指しながら話しませんか?』
「……わかった、でもここから一番近い街でも結構かかるから……夜が明けたら準備しよう」
任務更新:アルフィ・セアルと共に街を目指す、その為の準備をする。