黄金の角を撃て/3
夕暮れの森の中を大きな足音を立て、巨人の一団が行く。
それはミノストが率いるゴーレム部隊であった。
大陸を分け隔てる砂漠と荒野を越えて今、魔王軍の一部隊はジュギーツの街を目の前にしていた。
「ミノスト様、指示を」
「えー?普通に僕が壁を吹き飛ばして後は各自蹂躙、夜明けまでに街を完全に破壊し尽くす。そんな感じかな」
「わかりました」
「じゃあパパッとやって、本隊と合流するよ」
ミノストは街の防壁の見える場所まで辿り着くと黄金に角を持ったゴーレム・ディアロンを先行させ、巨大な斧杖を掲げて魔法を唱える。
「『エクスプロージョン』」
落雷の様な轟音と共に閃光が走り、衝撃波と爆炎が街の一区画諸共に防壁を破壊していく。
ゴーレムの操縦にはゴーレムのボディに魔力を神経の様に浸透させる必要がある、故にゴーレム乗りは魔力の消費の多い魔法を使わない、あるいは使えない。
しかしミノストは違う、膨大な量の魔力を持つ彼はゴーレムを動かしながらも強力な魔法を放つ事が出来る。
これこそが彼が「黄金」と呼ばれる所以、大規模破壊を得意とする火焔魔法「エクスプロージョン」を放ち、総崩れとなった敵をゴーレム・ディアロンで刈り取り、炎の照り返しでゴーレムが黄金に輝く様に見える事からミノストは「黄金」と呼ばれる。
「さぁ、行け。収穫の時間だ」
ミノストにとって戦いは楽しむ物ではなく、ただの仕事だ。
だから楽を出来る部分は楽をする、部下達に指示を出して自分は護衛を二人残して街の外で待機する事にした。
一方でジュギーツの街は突然の大爆発に大混乱だ、壁が崩落し、壁の近くにあった区画が燃えている。
そして街に侵入してくるゴーレム・ボルバロの部隊、魔法兵の随伴こそないが腰から下げているのは「焼却弾」投擲した先で爆発して炎を広げる所謂「焼夷弾」に分類される武器だ。
逃げ惑う人々を掻き分けて一番最初に動いたのは傭兵達だった、大手の商会などの護衛として雇われていた彼らは雇い主を守るためにそれぞれのゴーレムでボルバロに向かっていく。
しかし、このボルバロ部隊は前に街を襲った部隊とは大きく違った。
それは武器が大砲であった事だ。
先行した傭兵達のゴーレムに向けて、爆発音と共に凄まじい速度で砲弾が鋼鉄の鎧を貫き、上半身に大穴を開けられたゴーレムが仰向けに倒れ、ある者は着弾と共に爆発する砲弾で粉々に吹き飛んだ。
砲弾は丁寧に魔法によって強化されており、魔法によって強化されたゴーレムの装甲をも貫通する。
それを見た傭兵達は建物を壁にして身を隠すが、石で出来た建物など気休めにしかならず、建物諸共に撃ち抜かれる始末。
しかし傭兵達もただやられているだけでは終わらない、傭兵の質はピンからキリまで国家同士の小競り合いの多い東側で経験を積んで来た傭兵達はゴーレム用の銃を構えボルバロの頭を狙う。
ゴーレムは人間の体の延長、多くの場合視界を確保する為の「目」を頭につける。
ボルバロもそれにもれず、首を動かして視野を確保している事に気付いた傭兵達は一体のボルバロの頭へ向けて一斉射撃。
いくら装甲が厚くとも首や関節などは魔力粘土の比率が多く衝撃を受け続ければ破壊される。
首を吹き飛ばされ盛大に倒れる一体のボルバロ、魔王軍がそれに気をとられた隙を狙い、ある者は命あっての物種と逃げ出し、ある者は信用と報酬と名声の為に戦場に残って次のボルバロに狙いを定める。
しかし次の瞬間、残った傭兵達のゴーレムが光に包まれて吹き飛んだ。
「何を入り口でもたもたしてるのさ」
崩壊した壁の向こうから覗くのはミノストのゴーレム・ディアロン、なかなか街の中に入っていかない部隊を見て呆れながら「エクスプロージョン」を唱えて傭兵達のゴーレムを吹き飛ばしたのだ。
残っていたゴーレム達はこの一撃でほぼ壊滅状態、一足先に逃げ居ていた者以外は中の操縦者が無事でもゴーレムは無残な状態だ。
「申し訳ありません、人類側のゴーレムにもなかなか手強い者が……」
「いいからとっとと行きなよ、置いて行くよ」
「はっ!」
戦闘不能と化したゴーレム達を無視して先行していくボルバロの一団、首のもげた機体は頭を拾い応急処置をして遅れてついていく。
12体のボルバロによってジュギーツの街は蹂躙されていく、炎で、砲で、メイスで、あらゆるものを破壊しながら進んでいく。
しかし、ここでようやく騎士団のゴーレム・ゴルトンの部隊が到着、その数21体。
「随分派手にやってくれた、この落とし前はつけさせてやる」
騎士達の隊長であるロディアスの操るゴーレム「ゴルトロン」が魔法によって強化された盾と槍を構え一番に駆け出す。
それに続き騎士達もゴーレムを走らせ、侵略者へと立ち向かう。




