黄金の角を撃て/1
大陸を二分する巨大な砂漠。
数百年前、人類と魔族の争いで使われた禁術のいくつかによって跡形も無く破壊され不毛の土地となってしまった場所であり、今も二つの種族を分かつ壁の代わりとなり、皮肉にも百年近い平和を作っていた。
しかし、今その砂漠の夜を越える一団が居た。
黄金の二本角、青と金の鎧を纏い宝玉の埋め込まれた杖を持って先行するゴーレム「ディアロン」に続いて進んでいくのは14体のゴーレム「ボルバロ」だ。
この一団は西から東へ向かって進む、つまりは人類の領域へ侵攻する魔王軍の一団である。
「いやー便利だねぇ「観測衛星」って奴は、わざわざ危ない場所を通らなくて住むし、前線に行かなくてすむんだからさぁ」
「しかし、本当に信用していいのですか?我々は体よく利用されているだけでは……」
「どうにもならないよ、今の魔王様が信用してるんだから、それに君らじゃ「彼ら」のゴーレムには勝てないでしょ」
ゴーレムの中に乗せられた交信用の魔法道具で会話するのは魔族達。
古くから魔族を纏め上げ、人類と戦う者を魔王と呼び、魔王は四人の信頼する配下「四天王」という役職を選ぶ。
ゴーレム「ディアロン」を操る魔族の少年はそんな四天王の一人「黄金のミノスト」、魔族統一戦争にて現魔王の部下として大きな武勲を挙げた最年少の将だ。
「確かに信用ならないって気持ちもわかるけど彼らは魔王様に従う事で利こそあれど裏切れば待っているのは破滅だけ、彼らのゴーレムは確かに強力だけど、僕らや魔王様には敵わない」
豪華に飾り付けられたゴーレムの中でミノストは不敵に笑う。
「まぁ、そんな事よりも、まずはジュギーツだっけ?斥候の奴らが落とし損ねた街を潰しにいこう、本当は「青褪めた死」に押し付けたかったけど今は彼らも前線を崩すのに忙しいからね」
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人類域の西端、マルキア王国に隣接する様に広がる荒野。
ここは人類と魔族の戦いの最前線、砂漠の向こうからやってくる魔族を迎え撃つ為に作られた要塞からは無数の砲口が覗き、戦と聞いてやってきた傭兵達、同盟国として魔族との戦いに参加する他軍の部隊、そして「教会」の「聖戦士」達が集まっていた。
主力であるゴーレムは旧い物から新しい物まで様々、当てにならなさそうなものまで含めれば300はいる。
対して荒野の向こうからやってくる魔王軍のゴーレムの数は200程度、随伴するのは粘土だけで作られた小型ゴーレムや魔法兵、そして航空戦力であるドラゴンライダー達。
これは消耗戦だ。
戦いの火蓋を切ったのは人類側の大砲だった、まずは厄介なドラゴンライダーやゴーレムを減らそうと先制攻撃を開始。
魔王軍のゴーレム達は盾を構え、後ろに控える魔法兵達を守りながら前進を開始、それに合わせて人類連合側のゴーレム達も前進を開始する。
対魔法兵用のボウガンを手にした人類側ゴーレムが後方から矢を無差別に放ち、前衛のゴーレムは足元の小型ゴーレムを焼き払う為に装備された火炎放射装置を放つ。
魔王軍のゴーレムも負けじと盾を構えて突進し、魔法兵達はゴーレムを盾にしながらも遅れない様に、巻き込まれない様に間合いを計りながらもゴーレム達をサポートする。
そして戦端が開かれてしばらくして、人類連合側のゴーレムの殆どが前線に出てしまった頃にそれはやってきた。
「後ろだ!後ろからゴーレムがきてやがる!!」
「くそ!回り込んできやがった!」
防衛線の反対側からやってくる魔王軍の青いゴーレムの一団、その数7。
「慌てるな!たった7体だ!防衛のゴーレムをぶつけろ!」
それはマルキア王国の中で村や町を焼き討ちしてきた魔王軍の部隊「青褪めた死」だった。
「ヴェイル隊長、どうする?」
「焼き払う、俺達の仕事はそれだけだ」
「まぁーそうよねーいつもと変わらないわ」
青褪めた死の隊長であるヴェイルと呼ばれる男の操るゴーレムが前に出る。
「俺達が通った後に残るのは死だけ、そうだろ?」
青と黒のゴーレム「ブルヴェス」の拳が青い炎を纏い、周囲の空気が揺らぐ。
ブルヴェスが地面に拳を叩き付けると青い炎の衝撃波が広がり、人類連合のゴーレム達は瞬く間に火に包まれる。
そして内部の魔力結晶に引火し、火達磨になったゴーレム達は連鎖するように爆発していく。
「さぁ、仕事の時間だ!死を運べ!」
その日、西端の前線要塞を失った事で人類連合は敗退、多くのゴーレムを失いながら撤退戦に入った。




