それを知る為に/4
サイファー・ロア少尉、新太陽系企業連合「N.S.C」による開拓惑星への搾取と弾圧に対抗すべく作られた組織「N.E.F」に所属するパイロット。
類稀なる才能を持ち、戦場での功績のみで若くして少尉まで上り詰めた優秀な兵士、その昇進報酬として与えられたのが現在の私のダイダロスシャーシ・サイクロプス-CYD-8385。
彼は普段から多くを語る事はなく、冷静沈着という言葉が良く似合う人物でした。
しかし「N.S.C」が行ったコロニー内への自動機械歩兵投入による民間人の虐殺や衛星ミサイルによる開拓惑星への攻撃などに対しては激しく怒りを表すような熱い一面もあり、そういった人道に反する行為を阻止する作戦に率先して志願していました。
私のデータベースに残る彼の兵役記録および、彼との会話を照らし合わせるとその理由がわかりました。
彼は開拓コロニー出身で、故郷を「N.S.C」による資源の搾取によって破壊されていたのです。
「自分と同じように家族や故郷を失う人間は一人でも少ないほうがいい」とよく彼は言っていました。
災害救助や復興まで支援を行っていた事もそれに関係したのでしょう。
そんな彼と私の関係は、ごく普通のパイロットとダイダロスのモノでした。
彼の命令によって動き、与えられた任務の為に彼をサポートし、任務執行の為に互いに最善を尽くす。
そして彼を理解し、彼がより良い結果を得られる様に私の擬似人格プログラムを更新していく。
これによってパイロットの精神状態をサポートし、任務の効率的な執行に繋げる。
それが私の役目でした。
ですが彼を失った今、私に残っているのは任務の執行だけ、彼が私に遺した任務を達成する事が今の私の最優先目標です。
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CYDが肩の上に乗ったアルフィとヒバナに語ったのは、かつてのパートナーと自分の過去。
機密に触れる場所だけは語る事はできないが、それでも十分な程に多くを語った。
「そのエヌエスシーってひどい奴らだね、バカ貴族でもそんな事しないのに」
『宇宙開拓時代から彼らは増えすぎた地球圏の人口を率先して減らそうとしていました、その為に過酷な資源惑星、つまりは鉱山労働や荒野の開拓の様な、危険な場所へと人を送り込んで居ました』
「どうしてそんなひどい事をするの?」
『彼らには他人の痛みが分からない、とサイファーはよく言っていました』
「どこにでも、そんな争いの火種になる者はいる……先生も言っていた」
この世界にも領民に対して過等な税を掛ける領主や、属国に対して不利になるような条約を結ぶ国がある。
支配する者と支配される者の戦いは何処に行ってもそう変わらないのだ。
「サイダが話してくれたから、次は私が話す番」
『いいのですか?』
「それ、私も聞いてていい話ですか?」
「せっかくだからヒバナにも聞いていて欲しい、一緒に居るのに、仲間はずれにするは何だか嫌だから」
アルフィは気持ちを落ち着かせ、空を仰ぐ。
「私はよくあるような従軍の功績によって辛うじて成り上がった名だけの貴族の家に生まれました。その時はあまり裕福でもありませんでしたがそれなりに平凡な貴族の子供だったと今では思います。しかし、全てが変わってしまったのは「魔眼」に目覚めた時、でしょうか。当時の私は幼く、まだ善悪の分別すらつかず、その「魔眼」を使用人に使ってしまいました」
「その、アルフィちゃんの魔眼って?」
「『自身と他者の思考の共有化』つまりは他人の頭を使って物事を考えたり、自分の考えてる事や感じてる事や知識なんかを一方的に送りつけたり、手足を勝手に動かしたりする……そんな能力です」
『それは非常に強力ですが、危険な能力ですね』
「そう、その能力のせいで私は家族を失った。両親は私を呪われた子だと言って私を殺そうとして、無意識に私は反撃して両親を殺した」
『私は正当な防衛だと推測します』
「……いいの、もう終わってしまった事だから。それから私は師であるエルナーザ先生に出会った。彼女は魔法や生きていく術を私に教えてくれた、彼女が居なければ今の私はいなかった」
そして、覚悟を決め、アルフィはCYDに向けて切り出す。
「サイダ、私はあなたに謝らなければならない。恐らく二度、私はあなたに魔眼を使っている」
『現在の所、異常は検知できていません。それはいつの話ですか』
「最初に出会った時、最初に声をかけてくれたあなたの言葉が分からなかった時。そして今日、森の中であなたに認められたくて」
『どちらにも異常なログは残っていません、大丈夫です』
「それでも、私はあなたに謝りたい……ごめんなさい」
『心配しないでください、アルフィ。私は気にしていません。しかしこれで一つ謎が解けたかもしれません』
肩に乗ったアルフィの前にCYDは手を差し出す、アルフィがその手の上に乗り移るとCYDは自分の目の前に手を移動させる。
『私の推測ですが、この世界の言語を理解できたのはアルフィの魔眼による思考の共有化があったからかもしれません。もしこれが別の相手であったならば、私は言葉が通じず途方に暮れていた可能性もあります』
「だとしても……」
『過ぎた事はもういいでしょう、それよりもこれからの事を考えましょう。あなたはまだパイロットを目指していますか?』
「……うん」
『ならば、まずは自分の体調を管理、魔法の制御、精神の安定、そして計画的な肉体の鍛錬を忘れない事です。あなたが倒れた時、私は心配しました』
「……それは、ごめんなさい」
「アルフィちゃん、そういう時はありがとうって言うんだよ」
「そう……なの?」
「そういうものだよ」
ヒバナに指摘され首を傾げるアルフィ。
『もしも、まだパイロットを本気で目指しているなら、私は歓迎します。私の機能の一部はパイロットによる認証がなければ使えないモノがあります、あなたがパイロットになってくれれば、万全の体制で私は活動できるでしょう』
「私は、まだパイロットになりたいと思う。ただ、それは私だけの為じゃなくて、サイダの為にもなるなら、私は本気でパイロットを目指してみたい」
『わかりました、では明日から訓練を開始しましょう』




