プロローグ
...System Online
ダイダロス・サイクロプス:CYD-8385は正常に起動
機体状況:23500パーツ良好
通信断絶:ネットワークを検知できません
現在地:不明
任務:新型リアクターの設計データの輸送
達成率:エラー、現在地が不明
パイロット:KIA
データを更新
任務A:現在地の把握
任務B:友軍部隊への合流
任務C:パイロットの登録
任務D:新型リアクターの設計データの輸送
紺色の装甲、青き一つ目の鉄巨人CYD-8385は外惑星開拓独立勢力であるN.E.Fの極秘の輸送作戦に参加していた。
しかし輸送艦で目的の衛星基地へと向かう最中、突如発生した時空の歪みから現れた二隻の敵艦の奇襲を受け部隊は壊滅。
脱出艇も全て炎上、正規パイロットも戦死し、戦闘の続行は困難、唯一無事であった予備のダイダロスシャーシにデータを移し、友軍に回収される事を信じ、ワープ射出された。
しかし、辿り着いたのは交信範囲外、友軍専用の通信が届かず、それどころか敵の通信さえ探知できない地球に似た大気があり、0.8G程度の重力のある居住可能惑星の森の中であった。
サイダはこれ程の好条件化でありながら通信が探知できない、つまりは「誰も手を出していない」この星に困惑した、だが任務を執行する為にはまずは動くしかない。
ライブラリーデータには登録されていない二足歩行の爬虫類の群れを見送りながら、全高6メートル程の巨人は歩き出した。
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「もう生き残りは居ないか?」
「ああ、粗方始末したぜ」
黒く焦げた消炭、潰れた体、崩れた瓦礫の山。
ここはかつて小さくも活気のあった街だった。
しかし今やあるのは死と破壊による蹂躙の跡だけ。
「ならもうここに用はない……おい死体をいたぶってないで帰るぞ」
「もうちょっとだけ楽しませなさいよ、私に傷を負わせた女なのよ?徹底的に壊してやらなきゃ気がすまないわ」
この惨状を作り上げたのは二本の角と青い肌を持った魔族と呼ばれる種族であり、魔王軍と呼ばれる勢力。
大陸の西端に位置するドルメロと呼ばれる国が複数に割れていた魔族国家を統一し、瞬く間にその勢力を拡大させ、古代より対立していた人類の住む東側へと侵攻を開始した。
それがこの惨劇の理由、ポーションや魔法道具などを作る事を生業とする職人の住まう街であった「ナドーコ」を破壊した理由であった。
「こいつらを掃除しても大した名誉にはならん!あくまで俺達が殺すのは勇者だ、それを忘れるな」
強力な力を持つ「勇者」と呼ばれる人間を討伐する為に集められたエリート部隊「青冷めた死」、本来ならまともに戦えない職人などを相手にする必要もない、だが「魔王」の命令は絶対だ。
「名誉」を一番とする魔族の戦士達はその決定に疑問を持たず役目をこなす、それが当然なのだから。
そして彼らが去った事で街からあらゆる生者がいなくなった、かに思えた。
しかし瓦礫の下、気を失っていた人間の少女が一人だけ、残っていた。
しばらくして、重い足音が聞こえてくる。
一人と一機の物語は、ここから始まる。