魔女の鞄、巨人の鎧/6
『生体診断プログラム、正常に終了。おおよそ血圧、脈拍、心拍数、体温、全て健常値です』
「そう、ところで次から何処かへ移動する時、このコックピットで運べばもう上に乗ったり、手で持たれたりしなくて済むんじゃ……」
『ダメです』
「どうして……」
『あなたはパイロットではありません』
「気になるのだけど、いつも聞くそのパイロットというの、どうやったらなれるの?」
CYDのコックピットの中、アルフィはライトに照らされながら問い掛ける。
『まずダイダロスの戦闘行動中はグラビティコントロールによる軽減こそされますが。大きな衝撃や重力による加圧を受けパイロットにダメージが行く事が多いです、その為まずパイロットは頑丈でなければなりません』
「魔法で肉体強化すれば、どうにかならない?」
『どの程度の強化が可能か不明の為に試しませんが、現状で標準的なパイロットモードでの戦闘機動を行った場合、コックピット内壁への激突、負荷による内臓、筋肉の損傷、断裂、四肢の損壊などが予想されます』
「そんなに」
ダイダロスのパイロットというのはアルフィの予想を遥かに上回って危険なモノの様だった、それもその筈。
パイロットに限らずCYDの居た宇宙時代の兵士達は機械化手術や義体化、肉体の強化を行っており、パイロットはその上にパワードスーツと呼ばれる防護強化服を重ね着している状態でダイダロスに乗る。
『次にダイダロスの操縦は思考によって行います。これは通常の操縦などではそこまで負荷にはなりませんが、戦闘機動ではさらに様々な要素が加わり脳への負荷も掛かってきます。しかしこの点はアルフィならクリアできると考えています』
アルフィが魔法道具を作る際に見せた集中力と精密性、そして忍耐力は十分にCYDの評価を得ていた。
『以上の二点がパイロットに必要とされる最低限のモノですが、肉体面の物理的な問題が解決すれば。あなたはパイロット試験を受ける事ができます」
「……つまり身を守る事が出来れば、そのパイロットになれるの?」
『はい、とはいってもその後に簡易パイロットテストは受けてもらう事には変わりませんが』
それを聞いてアルフィは考える。
「パイロットになれば、何ができるの?」
『まず私の機体操縦権限が付与されます。二つ目に私のデータライブラリの中の一部のファイルにアクセスする権限が得られます。三つ目に私の過去のパイロットの情報を幾つか閲覧できます。四つ目、あなたに訓練や戦闘サポートを行う事が可能になります。しかし、パイロットとなれば義務も発生します』
「それは?」
『任務の執行、私が現在与えられている任務を全うする義務が付随します』
「……あなたが元居た場所に帰る手段を探す理由……」
『はい、これは私の居た世界に自由と平和を取り戻す為に重要な任務です。現状ではあくまで協力者でしかないあなたには義務という形でこれを押し付けるつもりは私にはありません。しかしあなたがパイロットとなった場合、任務遂行の為に全力を尽くしてもらう事になります』
「少し、考えさせて」
今、アルフィの心の根底にあるのは魔族、魔王軍への復讐心だ。
魔王軍と戦うのにCYDの力は非常に強力なモノとなるだろう、現状でも帰る方法を探すのを協力する代わりに力を貸してくれると言っている、無理にパイロットになる必要はないかもしれない。
だがアルフィの中ではパイロットになる為に肉体面の問題を克服する算段は既についている。
それに戦闘サポートや訓練など、力を得る事が、魔王軍と戦う為になる事もわかっている。
しかしそれだけが理由じゃない、パイロットになるという選択肢を選ぼうとするのは。
このCYDの事を、彼が居た未知なる世界をもっと知ってみたい。
「サイダ、私は……パイロットを目指してみようと思う」