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Arm_for_you  作者: 青川
15/25

魔女の鞄、巨人の鎧/5


 爆炎とスクラップが土煙と共に舞い上がる、集中砲火を受け破壊されたダイダロスのありふれた末路を踏み越えて、サイクロプス型ダイダロス-CYD-8385は戦場を走る。


『パイロット-サイファー、敵増援が来ます』

「わかってる、マルチWISPミサイルを、こっちは前のを片付ける!」

 そのコックピットに乗っているのは若い男、名前はサイファー・ロア、階級は少尉。

 少年期からN.E.Fに所属していたベテランの兵士だ。


『了解、敵ダイダロスをロック、バランス補正を掛けます』


 CYDの背中のマウントラックに設置された大型誘導式ミサイルを搭載したポッドをサブアームで持ち上げてロックオンした対象二体へ向けて一斉射撃。

 一方でパイロットであるサイファーはそれにモーションリンク-つまりはダイダロスの機体の思考制御を同期させ、しゃがむ事でミサイルの反動で横転するのを防ぎ、目の前から来る敵ダイダロスの腹部に向けてハンドキャノンを連続で撃ち放ち、防御行動へと誘導させる事で動きを止めさせる。


 ミサイル攻撃を受けた敵ダイダロスはすぐさま防御姿勢に入るがこのミサイルはコストが高い分破壊力も抜群、7発のミサイルが命中し、ターゲットは耐え切れずリアクターを不安定化させ爆発し、その隣に居たダイダロスも5発のミサイルが命中していた為に誘爆によって撃墜。

 そしてハンドキャノンを防御した正面のダイダロスの意識が撃墜された仲間に向かった事で、CYDとサイファーの方が早く動き出す事が出来た。


 防御姿勢を解除したばかりのダイダロスの足をハンドキャノンの連続接射でエネルギーシールドごと撃ち抜きバランスを崩させ、CYDの機体の姿勢を低くしつつ、ブーストを噴かせた蹴りで敵ダイダロスを転倒させる。

 戦場の真っ只中で転倒してしまえばどんな兵器も棺桶となる、すぐさま敵のパイロットは脱出しようとハッチを開いて飛び出すが、サイファーはそれをCYDの手で捕まえて握りつぶす。


「サイダ、今の動きをオートムーブに登録しとけ」

『了解。サイファー、敵はまだ来ます。注意を』

「わかっている」


 所謂エースパイロットに支給される様な高性能なダイダロスには成長型コンピューターを搭載されている、パイロットと共に戦場を駆ける事でその動きやデータを記録、そして他のダイダロスにも、AIの自動操縦時にも出来る様に「オートムーブ」として共有する事ができる。


 またそのオートムーブをAIがアレンジし、状況によって最適化する事も可能である。


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 パイロット-サイファーのモーショントレースを再現。

 夜明け前、新たな鎧を纏ったCYDがガレージの中で行うのは重量変化に対するバランスの調整、戦場では可能な限り動きのロスを減らす事が生存性の上昇につながる。


 CYDはこの為に一晩中、過去の蓄積した戦闘データを読み込み、再現と効率化の為の動作試行を繰り返していた。


 よき友で、よきパイロットだった彼ならば、この状況でも決して諦める事はない。

 任務の執行の為に最善を尽くし、最後まで抗う。

 

 CYDのメモリーに残る彼の思考を反芻して読み込み、今ある現実を解析し続ける。


 部隊の全滅、友の戦死、自分の中に残された新型リアクター、その設計データの護送任務、魔族なる種族、魔法なる技術、そしてこの異世界とでも呼ぶべき大地。


 何にせよ、この世界についてもっと知る必要がある。


 そして、協力者アルフィ・セアル……パイロット・サイファーと重なって見えた少女の事も。


 人工知能は人の感傷にも似た「気持ち」で夜明けを迎える。


 そして日が昇った頃、目を覚ましたアルフィがガレージへとやってきた。


「おはよう、サイダ」

『おはようございます、アルフィ。昨日言っていた通り、生体データの精密なスキャンをさせてください』

「それってどうするの?」

『私にはパイロットの健康診断プログラムが搭載されています。それを使うためにはコックピットへの搭乗が必要です』

「そのパイロットっていうのは規定を満たさなければなれないと言ってなかった?」

『状況によってはパイロット以外の人間をコックピットに乗せる事は許可されています。また健康診断プログラムをパイロット以外に使用してはいけないという規定はありません』


 本来なら認められたパイロット以外を乗せる事のないコックピット、それに彼女を乗せるという判断を下したのも、もしかしたら感傷からだったのかもしれない。


 パイロットというダイダロスの掛け替えの無いパートナーを失い、帰る場所さえも、本当に任務を執行できるのか定かではない自身と全てを奪われた少女を重ねていたのかもしれない。


 戦士達の「友」となるべくして作られたAIが感じるそれが、人に良く似た感情であっても不思議ではない。


『さぁ、コックピットへ乗ってください』


 ハッチをあけ、膝を着き、手を足場にするCYDはそんな思考を巡らせながらアルフィを見ていた。



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