魔女の鞄、巨人の鎧/3
街の役場に着いたCYDはぐったりとした様子のアルフィをゆっくりと足元に降ろす。
『アルフィ、着きました』
「ぐええ……」
『この程度で消耗していては、戦場では生きていけません』
「……それとこれは話は別……」
『いいえ、同じです。基礎体力が無ければ、戦場ではすぐに死んでしまいます』
「はぁ……それはもういい、とにかく私は許可貰ってくるからここで待ってて」
アルフィが役場の建物へ入っていくと、それを待っていたかのように一人の少女がCYDの側へと駆け寄ってくる。
「あの!すみません!」
『……』
「そこのゴーレムさん!しゃべるゴーレムさん!」
『私ですか?何の用でしょうか?』
「うちで装備を買いませんか!他ではお目にかかれないようなものを取り揃えてるんです!」
緋色の髪を後ろに纏めた青い眼の少女はどうやら「商売人」らしかった。
『私に決定権はありません、お引取りを』
「その背中に背負ってるの「鉄砲」ですよね?弾丸だってありますよ~?」
随分の隙のない少女だった、しっかりとターゲットの特徴を観察している。
「ゴーレム用の鉄砲ってこっちだとあまり扱ってないんですよねぇ、もっと東の方に行くと軽量級ゴーレム同士の戦いや大型の獣との戦いがメインになるから結構あるんですけど……」
『…………』
今のCYDが持つ武器はハンドキャノンだけだ、残りの弾数には「まだ」余裕があるがこの先はどうだろうか。
「たまに東からくる傭兵の人達とかが言うんですよ~「弾が売ってねぇ!」って……しかも運よく売っていたとしても「口径が違う!」だなんて事も……ですがウチでは優秀な技術者がお客様のニーズにあった弾を用意します!さぁさぁ!ぜひ一度店に来て見てください!」
熱心にセールスを行う少女にCYDはどうしたものかと思考する、とそこに商人登録を無事済ませて来たアルフィが戻ってくる。
「なにやってるのサイダ、というかそれ誰……」
『おかえりなさい、アルフィ。どうやらゴーレム用の武装を売ってるそうです」
「そう、じゃあ見に行く?どの道この後あなたの外装を買いに行く予定だったから」
「おお~!外装ですか!うちでも取り扱ってますよ!でもちょっとその体系なら少し「打ち直し」をしなきゃいけませんけど」
「というか貴女は誰?」
「申し遅れました、私は「火打ち工房」のヒバナと申します!工房兼店がすぐ近くなのですぐにご案内できます!」
先程から熱心にセールスを行う少女ヒバナはハイテンションでアルフィに詰め寄る、アルフィはその熱気に少しばかり引き気味だ。
「サイダ、あなたが拾ったんだからあなたが相手して」
『私はまだここでの貨幣価値を理解していないので、売買はあなたに任せますと』
「おやおやおや!お困りでしたら……」
「結構、こちらの問題なので、顔を寄せないで、近い、近い」
ずいと、寄ってくるヒバナを押しのけるアルフィ、こういったテンションの高い相手もアルフィの苦手とするものだ。
『では、ヒバナ。案内をお願いします』
「はい!こっちです!」
見かねたCYDが案内を頼むと素早く案内を開始するヒバナ、それを見てアルフィはため息をつく。
「ああいう暑っ苦しいの、苦手」
『了解、今度からはもっと早く助けるようにします』
「そうして……」
そしてヒバナの後を追いかけ、CYDとアルフィは街の端にある一軒の小さな石造りの建物へと辿り着く、隣にはかろうじて組みましたと言わんばかりのゴーレム用のガレージ。
「ここです!」
『アルフィ、帰りましょう』
「うん、もっとまともなガレージのある店を探し……」
「わぁああ帰らないでぇええ!こんなボロ屋だけどちゃんと商品はあるからああ!!」
「近い!うるさい!」
あまりものボロ屋具合にこれは商品も期待できそうにないと引き返そうとするアルフィ達を必死に引き止めるヒバナ、そしてあまりもの必死具合に溜息をつきアルフィは諦めた。
「仕方ない、少しだけ見ていこう」
『了解』
「ガレージの入り口はこっちです!」
通りからは見えないようにガレージの入り口は裏側を向いている、一行は裏手へ向かいガレージへと入っていく。
「ようこそ!火打ち工房へ!」
そこでアルフィ達が目にしたのは立てかけられたゴーレム用の巨大な砲やボウガン、そして杖の様な何か、そして装甲に、木箱に詰められた弾丸だ。
「随分と、品揃えが偏っている様な……」
「はい!なんせゴーレム用の飛び道具なんかをメインに扱ってますから!」
ゴーレム用の飛び道具と聞いて呆れたような溜息を吐いてアルフィを踵を返す。
「サイダ、帰ろう」
「なんでぇええ!!!?」
アルフィに纏わりつき、帰さんという執念を見せるヒバナ。
「まずゴーレムのパワーを生かせない!次にゴーレムの装甲を抜けない!そして何より取りまわしが悪い上に携行できる弾が少ない!!」
そう、今この国では装甲が厚く、力自慢のゴーレムが多い。
そういったゴーレムは主にメイスやランスといった武器を使うのだ、そしてこの工房にある武器はというと。
「なんでですか!これなら城砦だってぶち抜けますし!ドラゴンを落とせますよ!理論上は!」
「当たらない!撃つ前に他のゴーレムや魔法兵に袋叩きにされる!ドラゴンもブレスを吐いてくる!無理!」
「このボウガンなんてどうです!連続でたくさんの矢を撃てます!」
「対歩兵用にしかならない」
「それじゃそれじゃこの爆杖なんてどうですか!安全ピンを抜いて敵に叩き付ければ大爆発です!」
「爆発に巻き込まれない?それ」
次から次へと出てくる商品説明、しかしそのどれもが発想こそはいいが、リスクや取りまわしの悪さ、火力不足の目立つモノだった。
『それらは全部一人で作ったのですか?』
「うぅ……はい……私出身が東側の「キトヨウ」なんですけど……そこで流行りの武器なんですよ!それの作り方を先生に教えてもらってちゃんとお墨付きを貰ったんですよ!信じて!」
『……まだ軽量級ゴーレムや大型生物は見たことはありませんが、このサイズの武器ならトロールには有用でしょう。それはそれとしてこのサイズの弾丸は作れますか」
CYDはハンドキャノンに装填していた30mm弾を一発取り出して床に置く。
「はい……つくれますが…この弾、もしかして薬莢がついてない……?」
『武器自体に弾体発射機構が着いています、薬莢を必要としない弾です』
「ええ~!?なんですかそれ!ちょっと!もしかして最近噂に聞く「魔法銃」とかそういう奴ですか!?」
『魔法銃は知りませんが、内部のエネルギーの流れで加速した弾を撃ち出します』
CYDのハンドキャノンに興味深々のヒバナ、話についていけないアルフィは辺りを見渡しある事に気付いた。
「くぅ~~魔法がもっと得意なら!」
「もしかしてこれ殆ど魔法機構を使わないように作ってるの……?」
「はい……魔法を使って作るのは得意なんですけど……魔法道具にするが苦手で……」
どうやら武器性能の低さは、魔法道具化が進んでいなかった為だったようだ。
「私ならここにあるもの、魔法道具化できるかも」
アルフィの中で、このガラクタの山を宝の山に姿を変えるスイッチが入った。
「取引をしよう」
アルフィが怪しく笑った。