魔女の鞄、巨人の鎧/2
アルフィは簡単な身支度を済まし、自警団の者に礼を言うと集会所の建物から出る。
建物とほぼ変わらない巨体を持ったサイダの姿は、通り沿いではなく集会所の裏庭にあった。
「ん……やっぱり命綱は必要……」
『アルフィ、これからどうしますか?』
「……まず役場でポーションを売る許可を貰う、それでまずは活動の為の資金をつくる」
『資金についてですが、あなたが眠っている間に騎士団から謝礼がでています、まだ貨幣価値に関しては知らないので、その辺りはあなたにお任せします』
「……そうなの?その謝礼は何処に……?」
『ここです』
サイダは頭部カメラを上部へスライドさせ、ハッチを開くとその中に右手を入れ、座席に乗せた皮袋を掴むと膝を地に着けて、アルフィに差し出す。
アルフィは空席のコックピットを見上げ、改めて本当にCYDの中に誰も乗っていないのだという事を認識した。
そして両手で皮袋を手にするアルフィであるが、その想像以上の重さに驚き。
「……重いっ……あっ……金貨だ……」
更に中身が金貨である事にまた驚いた。
『騎士団の隊長のロディアス氏から頂きました、それと私の外見が目立つので外装を用意する事を忠告されました』
コックピットハッチを閉じ、そのままの姿勢でCYDは自分の体を指差し言う。
CYDがこの世界で見たゴーレムはまだ二種類、しかしどちらも鎧の様な意匠をしていた。
「そのロディアスって人にお礼言わなきゃ、これだけあれば外装だけなら半分は残る」
『わかりました、それでその残りの半分で活動資金はどの程度賄えるのですか?』
「……3ヶ月はポーションを作って売り上げが無くても大丈夫な程度?」
『私には金銭管理機能はありませんが、売り上げがないというのは恐らく大丈夫ではないと思います』
「もしポーションが売れなくても、森で採取した薬草や素材で稼げばなんとか……」
微妙に自信の無い表情を見せるアルフィに視線を向け、CYDは手を差し出す。
『自信の方は』
「4割5分くらい……」
『それだけあれば十分です。何事もやってみる事が大事でしょう』
「……わかった、それでその手は……?」
『乗ってください、街の地理は記録しておきました』
アルフィの顔から血の気が引く。
「わ、私高い場所はあまり……」
『これまでの旅では平気でした、大丈夫でしょう』
「だ、大丈夫じゃない……あれは並ぶモノが殆どなかったから気付かなかっただけで……せめて命綱、命綱を」
『わかりました』
「よ、よかった……」
『命綱を買うまでは私が手で運びます』
アルフィが反応するよりも早く、CYDはその巨大な右手でアルフィを掴み、持ち上げる。
「やあああ!やめてよぉお!」
『安心してください、運搬は得意なので』
地上から約4mくらいの高さでキープされ、運ばれるアルフィ。
下を見下ろせばとてもよく舗装され、頑丈そうな道。
「落ちたら痛い、落ちたら痛いからぁ……」
『落ちませんよ』
このジュギーツの街はゴーレムが街の中を歩く事が多く、ゴーレムの手によって運ばれる者などもそれなりによく居るので、変に目立つ事はなかったが。
アルフィの顔は羞恥に赤くなったり恐怖に青く染まったり忙しかった。
「本当に勘弁して、私は高い所が本当にダメなの」
『ダイダロスのパイロットの中には、自身を乗機に投擲させる戦術などを持つ者もいます、要は慣れだと思います』
「そんなの慣れる前に成れ果てるから!落ちて成れ果てるから!」
わいわいと喚くアルフィと黙々と役所に向かうCYD、そんな一人と一機を追う影があった。