二話 初めての魔法
手直し出来たので、お昼更新。
グレンは自らの呼吸によって生じる痛みから、意識が覚醒していく。
――身体中が熱い、それに痛痒い。
グレンはそう感じて瞼を開いた。
するとグレンの視界には見慣れた天井とが映り込んだ。
「僕の部屋?」
グレンはなぜ自分の部屋にいるのか分からなかった。これは夢なのかな? それらを含めて確認してみようとグレンは身体を起こすために力を入れた。
すると尋常ではない痛みが身体中を駆け巡った。
グレンはたまらずに声を上げ、痛みにより涙が浮かんできた。
「痛い。痛いよ……」
するとそのグレンの声が聞こえたのか、グレンの家族が部屋の中へ入った来た。
今のグレンは身体中に小さな傷が無数に出来ていて、頭や身体に包帯を巻かれた状態だった。
怪我は擦り傷だけでなく、身体中が赤く腫れ上がっていて、炎症も起こしていたので、結論からしてグレンは動ける状態ではなかった。
怪我の状態を大人しく聞いていたグレンだったけど、グレンはなぜ自分が森ではなく自分の部屋にいるのか、そちらの方が気になっていた。
「確か僕はゴブリンに追われて……」
死んだと思った。その言葉が中々出て来なかった。
ゴブリンが近づいてくる時の光景が頭に浮かぶと身体が震える。
そんなグレンを涙目になったグレンの母が宥められながら説明してくれた。
あの後、グレンの叫び声を微かに聞いた冒険者がいたらしく、まさか子供がいるのか? そう思いつつも駆けつけてくれたらしかった。
すると冒険者の目に映ったのは三体のゴブリンの死体と、ゴブリンの死体と同じように、いやそれ以上に酷い怪我を負っているのが分かる血塗れで倒れたグレンの姿だった。
冒険者はグレンに近づくと、着ている服の至るところが破れ、全身が赤く腫れ上がり、痛々しい生傷を負っていた。
もう死んでいるかもしれない……冒険者はグレンの死を覚悟していたらしい。
しかしゴブリンは一体誰が倒したんだろうか? 冒険者は近くに魔物や人の気配がないことを不思議に思い、念の為グレンが生きているのか確認してみると、脆弱ではあったがグレンが呼吸をしていために急いで村へと運んでくれたそうだ。
村へ運び込まれたグレンの身元は直ぐに分かり、グレンはこうして帰宅することが出来た。
そしてたまたま商人が持っていた回復薬を両親が買って飲ませてくれた……それが三日も前だという。
グレンは自分が三日間も目を覚まさなかったことに驚いたけど、その間家族皆で看病してくれたとのことに感謝していた。
それと同時に心配をかけてしまったことを反省しつつも、とても悲しい気持ちになり、何度も「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」謝ることになった。
グレンは身体中の痛みより、家族に心配をかけてしまったことが悲しくて、疲れて眠るまで泣きながら謝り続けた。
|後〈のち〉に家族からはよく、泣き虫グレンとからかわれるのだが、そのことをグレンはまだ知らない。
再びグレンが目を覚ますと、母が胃に優しい食事を作ってくれていた。そして身体を動かすことが辛いので、食べさせてもらっていた。
そんな中、一番心配していたグレンの祖父が部屋へやってきて、グレンは心配を掛けさせた罰を受けることになる。
「本当に生きていてくれて良かった」
「お爺ちゃん、心配掛けてごめんね」
「無事だったんだからいいさ。でも危ないことをしたんだから、罰は受けてもらうぞ」
「はい」
「身体が癒えるまでは外出禁止……まぁ一ヵ月ぐらいは家でのんびりしていなさい」
「それだけでいいの?」
「はっはっは。簡単そうで罰に思わないか? しかしこれは簡単ではないぞ」
「約束するよ」
こうしてグレンには完全に回復するまでの一ヶ月間、外出禁止の罰を受けたが、祖父の言った簡単ではないという意味を完全に理解するのはもう少し先のことだ。
グレンは甘んじて罰? を受けいれた。
そこで閃いたとばかりにグレン母はグレンの兄であるスレイが勉強するために購入した本に目を向け、傷が癒えたらグレに勉強すること(強制)を勧め、文字や歴史、そして魔法の勉強をすることになった。
ここで通貨の話をすると通貨には銅貨、銅板、銀貨、銀板、金貨、金板があり、十枚単位で上の通貨と同等になる。
そして一般家庭の一人頭一食の値段はおよそ銅貨三枚~五枚である。
それに対し本の値段はとても高額で銀貨二十枚前後もするため、一般家庭では子供にそこまでお金を出せる家はとても少ない。
しかし奇跡の大地であるダリュー村は、一般的な話とは異なる。
自然の恵みが豊富な海や森があり、それを活かした産業があるため、村よりも町に近い収入がある。
そして裕福な家庭も多く、グレンの家は祖父母と暮らしているために収入も多く、本も少なからず購入することが出来る資産があった。
ただ少し大きな町や街に行けば図書館や教会でも本を読むことは出来るので、本気で勉強をしたい者達は勉強出来る環境は設けられている。
そして識字能力についてだが、一般的に文字は共通大陸語で書かれているものが多く、今では共通語を覚えれば生活で困ることが無いと言われている。
もちろん種族によって異なる文化も発展しているため、種族によっては言語や文字もあるが、あらゆる文字の原点は古代文字を崩したものだと言われているので、覚えやすい。
しかしグレンの顔は浮かない。それは勉強が決定したからではなかった。
「別に文字はもう既に覚えて終わっているのなぁ」
そう小さく呟いた。
実は兄スレイと一緒に居る時間が多かったグレンは、三歳頃からスレイが覚えたことをグレンに自分の復習のため習ったことを教えていた。
その影響で既にグレンは文字どころか、簡単な計算も暗算で出来るようなっていて、国の歴史などもかなり詳しくなっていた。
そのため文字を覚えるの時間や大半は歴史書に家族が時間を割くと思われた時間は、丸々余ってしまうことになる。
ただグレンは歴史書の中で、神話時代に神と邪神が争う代理として勇者と魔王を生み出し、戦わせたまるで物語の話が好きだったため数日間は問題なかった。
話の内容は勇者と魔王はともに絶大な力を誇っていて、それは地形や環境までも変えてしまう恐ろしい力だったらしい。
壮絶な戦いの末、相打ちとなった勇者と魔王を大地の裂け目に落ちていき飲み込まれた。しかし勇者と魔王の絶大な力は肉体を失っても反発し続けていた。
その反発する力が大地が割り、生き物が生活することが出来ない死の大地を生み出した。
それを見た神と邪神は星が消滅することを望んではいなかったため、お互いに勇者と魔王の魂を大地から引き上げたとされている。
白と黒の光が天へと昇ると、今までの異常な現象が嘘だったかのように鎮まりをみせ、そこから各種族は繁栄期を迎えたとされている。
それが現在の文明の始まりとされる古の創世記とされている。
そして勇者とされた白い光は種族の繁栄を、魔王とされた黒い光は個の破壊する力をこの地に残したとされる。
現在では大陸が三つに割れ、六つの国があるとされているが、実は他にも大地があり、そこでは魔を統べる魔族の国があるとされているが、それを確認した者はいないらしい。
グレンは何度もその話を読んでいた。
自宅療養を兼ねた謹慎は始めの二週間、身体の怪我も酷く痛かったから大人しくしていた。
ヴァルゴやサラン達もお見舞いに来てくれたけれど、それは一度だけでグレンは暇を持て余していた。
家族は漁や畑での仕事があり、グレンをかまう時間は多いようで少なかったのある。
――スレイお兄ちゃんがいればこんなに寂しいこともなかったのになぁ。
そう思ってふとグレンはスレイが大事にしていた本が目に入った。それはスレイが家にいるときにはずっと熱心読んでいた魔法に関する本だった。
グレンは魔法に興味が無いわけではなかった。でもスレイがいた時、一緒に魔法の練習したけど、グレンには魔法を発動させることも魔力を感じることも出来なかった。
そのため魔法の本は出来るだけ見ないようにしていた。
しかし暇を持て余していたため、気分転換になると思い、迷いながらも魔法の本へ手を伸ばした。
すると本を開いたところで、色々なところに書き込みがされていた。
それはスレイがグレンのために書き残したアドバイスだった。
一、魔力を感じ取ろう。
目を閉じて胸かお腹に暖かいものを感じたらそれが魔力です。
(目を閉じて深呼吸すると、余計な力が抜けて感じやすくなるから頑張れ)
始めは異物に感じるかもしれませんがそれが魔力です。
(深呼吸し過ぎるとクラクラするから、ほんの二、三回で大丈夫)
いくらやっても感じられない人は魔法の才能がないので諦めましょう。
(出来なくても諦めないで継続すれば、いつか必ずグレンにも出来る。自分を信じよう)
二、詠唱を覚えよう。
魔法は決められた魔言を唱えることで発動します。
(詠唱は大切だけど、それよりもその魔法がどういう魔法なのかイメージすることが大事だ)
三、魔法媒体を用意しよう。
魔法を発動するには魔法媒体が必要です。
(魔法媒体は慣れればいらないけど、最初は必要になる。グレンの短剣の鞘や首飾りは実は魔石が使われているから、それを魔法媒体として魔法を発動させてみたらいい)
魔石が埋め込まれた杖や指輪を用意しましょう。
(発動する時はお願いすると発動しやすい。例えば水さん力を貸してください、とか。それと発動したらお礼を述べることも忘れないこと)
グレンはきっといつかグレンがこの本を開くためにスレイがアドバイスを書き込んでくれていたことに感謝しながら、グレンは魔法を発動させるための特訓が始めた。
もちろん直ぐに使えるようにはならなかったけど、それでも暇を持て余していたグレンにとっては魔法を覚える特訓はアドバイスのおかげか楽しかった。
毎日のように特訓し、そして魔力が感じられるようにスレイのアドバイス通り瞑想を繰り返していたところで、ようやく魔力を感じとれるようになったのは、謹慎が解ける間際だった。
そして謹慎は開けたけど、グレンは魔力が感じられるようになったことが嬉しくて、外へは遊びに行かず、家の中で特訓を続けていた。
そして謹慎が解けて一週間が過ぎる頃、もっと魔力を感じられるように瞑想していると、グレンは全身から不思議な温かみを感じた。
それはとても不思議な感覚だった。
――今まで感じていたものが魔力だとすれば、一体これは何だろう? 魔力とは違うのかな?
一度感覚を掴んだらこの不思議な温かみも感じるのも早かった。
グレンは魔力と一緒に扱えるようになればいいかな……そんな程度で思っていた。
二つの感覚は魔力がお腹の下から、もう一つは全身に張っているようだった。
それをグレンは自由に動かそうと毎日試行錯誤を繰り返し頑張っていた。
そんなある日、ヴァルゴとサランがグレンを遊びに誘いに来た。
気づけばもう二ヵ月近くも皆と遊んでいなかったことに気付き、一緒に遊ぶことになった。
これは魔法の練習に明け暮れるグレンが孤独にならないように、親同士の話し合いでグレンと遊んでくれるようにお願いされたものだった。
実はヴァルゴとサランはグレンの怪我が思ったよりも酷く、その責任を感じて遊びに誘うのが後ろめたかったのだ。
ただ両親から説得されれば話は別だった。
二人はこれをきっかけにまたグレンが元気に遊んでくれればと思っていたのだ。
グレンは久しぶりに皆と遊んで楽しかった。
楽しかったのだけど、グレンの中では魔力と不思議な力に今は興味が向いていたので、誘われたたら遊べばいいと思っていた。
それからもグレンの魔力の特訓は続いていた。
そのおかげで魔力は身体の中を動かせるようになっていた。
ただ魔力は簡単に身体中を巡らせることが出来るようになったけど、調子に乗って動かし過ぎると気分が悪くなることを知った。
そしてもう一つの不思議な力はコントロ-ルが難しく、少しでも集中が途切れると元に戻ってしまい、その反動からかとても身体が気怠くなり疲れるので集中出来るところでしか動かすのを諦めた。
何度もスレイの残した本に目を通したが、魔力のことは多く書いてあったけど、不思議な力について書かれたものは一つも見当たらなかった。
そんな時、魔力の本を久しぶりに読んでいたところで、グレンはあることに気付いた。
「魔法を発動することを忘れてた」
確か魔法を発動する為には魔力媒体に魔力を流すことが重要と書いてあったはずだ。
もう一度魔法の本を読むとそこには確かに媒体について書かれていた。
グレンはいつも通り魔力を感じるために瞑想を始めた。
そして丹田に溜まっている魔力を魔法媒体として握った短剣の鞘へと注ぎ流すように意識していく。
「こんなに吸い込まれるの?」
グレンは吃驚しながらも鞘へと魔力を注ぎ続ける。
そして魔法書を見ながら、生活魔法と初級魔法の詠唱が記載されたぺージを見て詠唱を覚えてイメージを膨らませていく。
生活魔法にはファイヤ、ウォーター、エアー、アースがあるが、グレンは生活魔法ではなく初級魔法である各属性のボール系の攻撃魔法、身体に魔力の膜を張って防御力を高める防御魔法、そして身体の傷を癒す回復魔法のヒールのうち、回復魔法であるヒールに挑戦することにした。
理由は覚えた魔法でグレンが一番欲しいと思うのが、怪我を癒すことの出来るヒールだったからだ。
そしてグレンは自身初となる魔法を発動することにした。
しかしその前にグレンはこのひと月の間、自分の中にある不思議な力が何なのか試してみることにした。
もし不思議な力の方が魔力だったら……そんなこともグレンの頭を過ぎっていた。
そして魔法を使う時と同様に短剣の鞘へ魔力を流し込みながら、今から発動する魔法の詠唱を始める。
「水神様力を貸してください。【水の恵みよ 癒せウォーターヒール】」
……しかし何も起こることはなかった。
――やっぱり不思議な力では魔法が発動することは出来ないのか……。
そんな思いがあったけど、気を取り直してグレンは丹田から魔力を取り出し、短剣へ魔力を流し込みながら発動する魔法の詠唱を始めた。
「水神様力を貸してください。【水の恵みよ 癒せウォーターヒール】」
すると青白い光が身体から溢れて消えた。それと同時にグレンは眩暈を覚えてベッドへ倒れ込み、そのまま意識を手放した。
そんなグレンの寝顔は魔法を初めて発動することが出来た喜びに満ちた顔だった。
本日二話目になります。




