最後にしたくない手紙
冷えた空気だ。
腹の底から震えるほどの。
どいつもこいつも僕を置いていってしまいやがって。
胸が苦しい。
息が詰まって呼吸が出来ない。
なあ、君は本当は自分の先が長くないと知っていたんじゃないか?
僕は、僕だけが何も知らなかったというのかい?
僕の気持ちは分かっていると言ったのは君だろう。
苦しい苦しい。
君は一体何日前に死んでいるんだ。
十日だ。
この十日の間、僕は何も知らずに呑気に日々を過ごしていたというのに。
僕は確かに鈍いんだよ。君も知っているだろう。全く掛かってこなかった君からの電話に無邪気に喜んで。
「自分のことを応援してほしい」
なんて君の言葉に慣れないラインを毎日は出来なかったけど他愛のないどうでもいいことばかり送って。
僕は僅かな嫌な予感を見て見ぬフリをする程度には臆病なんだ。
全く君はどうするつもりだったんだ。
何時迄も既読のつかないラインを毎日待って。何時迄も何時迄も僕を待たせるつもりだったのかい。
ああ、四月に遊びに行くと言ったじゃないか。約束を忘れていたのかい?
貸した三万円返してもらっていないのだが気のせいじゃないと思うんだ。
誰だ。借用書に『死んだら御免』なんてルールを決めたのは。
なあ、嘘だと言って僕を驚かせてほしい。
僕に何を支えに生きていけと言うんだい?
漸く、漸く春が来るんだよ?
来ると思ったんだ。
あいつが目を閉じたのもこんな時期で今日からちょうど一カ月後だと知っているのかい?
ああ、寂しいな。
冬はまだ終わらないし吹雪も止まないんだ。
「この物語はフィクションであり実際の登場人物団体等いっさい関係ありません」
と君が笑って言った。
僕は最高の笑顔を作って君にグーで殴りかかった。