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魔法使いの家




 彼らは森の奥深くまで走っていました。やがて足が棒のようになり、息が切れて膝と手をつきました。雪だるまも同じような姿勢をしています。疲れを感じるのでしょうか。

 しかし、ここはどこでしょう。王子は何度かこの森に入ったことはあるのですが、思っている以上に深い場所に入ってしまいました。どちらに行けば帰れるのかとてもわかりません。



「悪霊さん、ここがどこかわかりますか?」

「え?お前わかってたんじゃないのか?」

「……」



 真っ先に駈け出したのは彼だったはずなのですが、どうやら迷子になってしまったみたいです。

 確かにとても方向を気にする余裕はなかったとはいえ、右も左もわからない森の中は不安が募ります。

 さきほどのすごく恐ろしい声がまだ背中に残っているようで色々なことを考えて王子はすっかり弱気になってしまいました。

 しかし、悪霊は気楽なものです。




「まあ、俺様は別に食べ物とか気にしなくていいからな!ま、お前も今晩どうにかすればきっとどうにかなるだろ!!」

「ははは……そうですか」

「そういえばお前は帰らなくて大丈夫なのか?もうけっこう夜遅いぞ。かーちゃんが心配するんじゃないか?」

「あ、えーと、その、大丈夫です。友達の家に泊まると言っているので」



 もちろん嘘です。実際はしばらくの間、王子は風邪を引いたことで誰にも会えないと言うことでお医者様と口車を合わせてもらいました。もちろん止められましたが彼の決意が固いことを考えると、渋々承諾してくれたのです。それに王子の話を聞いて、ほかの人たちもいっぱい協力してくれました。

 兵士さんや隊長さん。服を用意してくれるメイドさんや大工さんも。

 そんな人たちのためにもやはりこの冬を終わらせなければなりません。王子は決意を新たにしました。 

 最も実は、誰かの家に行ったと言う意味では、実は全くのでたらめとも言えなかったのですが。



「おお、そうか。だったらどうせ暇だろ!かまくらでも作って乗り切ろうじゃないか!さっきお前シャベル持ってたよな。ほら動けば暖かくなるぞ。動け。ほら」

「あの、さっきシャベルおとしちゃったので……。それにかまくらをシャベルで作るのは」

「おいおい!なんだよ!やっぱりダマジオよりドジオだな。ていうかお前に人をだますほどの頭があるとは思えなかったな。いやあすまなかったすまなかった」



 再びあだ名が戻りました。確かに嘘つき呼ばわりよりはドジ呼ばわりの方がまだいいのですが複雑な気分です。

 しかし、本当にどうして悪霊の言うような怪物が塔の中にいるのでしょうか。そもそも女王以外はあの塔に入れないはずなのです。それこそ猫一匹どころか、子ネズミだって入れないはずです。そして冬の女王は一体どこに行ってしまったのでしょうか。冷静になって考えてみるとわからないことだらけです。

 


「ん?なんかにおうぞ」

「え?」



 悪霊がぼそりと言いましたです。

 王子は思わず、自分の服に鼻を近づけます。おろしたてで少し洗剤のにおいがしますがそれだけです。

 そんな彼には全く構わず雪だるまは歩き始めました。どうやら王子とは無関係のようです。



「ん~。こっちからだなー。こいつはいいや」

「ちょ、ちょっと?悪霊さん!?」



 これ以上迷い込んだら本当に引き返せないかもしれないと思い、彼を止めようとしますが想像以上にやはり強い力があり王子は引っ張ろうとするも引きずられるだけです。

 しかし、しばらくその状態が続くと王子もきづきました。

 なにやらおいしそうな匂いが向かう先から流れているのです。これはシチューの匂いでしょうか。

 気が付けば彼も雪だるまを止めるのやめて匂いに引っ張られるように歩き始めました。



 そして、しばらくしてたどり着いたのは小さな小屋でした。

 窓には光が、煙突からは煙が上がり、人が住んでいることがわかります。

 こんなところに人が住んでいるなんて……その時、王子は思い出したことがありました。



「そういえば聞いたことがあります。この森には魔法使いと呼ばれる存在が住んでいるって」

「魔法使い?つっても別にこの家はお菓子でできてはいないぞ?」

「あの、魔法使いと言えば全部子供たちを誘おうとしているわけではないですから……。魔法使いと言っても不思議地な力を使うわけではないんです。占いやお薬を作っているみたいで、町の人たちからも頼られているみたいです。実際に季節の塔の扉を開けるのにも協力してくれたんですよ。うまくはいかなかったみたいですけど」



 もっとも王子はその場所にはいなかったのでどのように開けようとしたのか、そもそもこの魔法使いがどのような存在なのか細かいことはわかりませんでした。もっとも今は王子という身分を隠したいのでその方が都合がいいかもしれません。

 しかし、こうして勝手に押し付けて大丈夫でしょうか?気を悪くされないかと王子は悩みました。しかし他に行くあてもありません。

 どうしたらいいのでしょうか。



「おーい!!開けてくれー!!道に迷っちまったんだ!!」



 悪霊は全くちゅうちょせず、雪だるまの手を使って扉を叩きます。制止する暇を全く与えてくれません。

 それから間もなく扉が開かれました。

 紫色のローブにとんがりぼうし、金色の髪をした若い男性が出てきて怪訝そうな顔でこちらを見つめています。

 いかにも童話に出てきそうな魔法使いと言った感じでした。ほうきや杖を持たせれば挿絵の姿そのものです。



「雪だるま?子供の忘れ物かな……でも今喋っていたような」

「す、すみません!!かってにおしかけてしまって!!」



 王子が慌てて、そばによります。

 少し悩んだ様子を見せていましたが、どうやら彼らのことを推測できたようです。彼の表情が穏やかになりました。王子が思ったより優しそうな雰囲気を出しています。



「なるほど。どうやら迷子が運よくこの場所にたどり着いたってことか。こちらの雪だるまのことは何もわからないけど」

「なに!?この俺様のことがわからないだと!いいか!よく聞けよ!俺様はな!!」

「あーもうおさえてください!!ごめんなさい!助けてもらえないでしょうか!?」



 態度の大きい悪霊のせいで、彼の気を悪くされたらたまりません。王子は威張り散らす声を打ち消すように大声を上げて頼みます。

 もっとも彼は気を悪くすることもなく彼らを小屋に招待してくれました。少し遅い時間だったのですがちょうど夕食だったのでしょう。

 テーブルに着くと彼らが望んでいたあったかいシチューやパン、サラダなどを目の前に並べてくれました。

 そして、二人の事情を聞きます。季節の塔へ行ったこと。中から恐ろしい鳴き声がしたこと。話して信じてくれるかどうかわかりませんでしたが。

 ちなみに悪霊が入り込んで中を見たのは黙っていました。本来はしてはいけないことだからです。仮に話したとしても信じてもらえるかはわかりませんでしたし。

 彼は考え込みました。



「ふーん。そんなことが……不思議だな」

「一体冬の女王様はどこに行ってしまったのでしょうか」



 王子は魔法使いに尋ねます。隣では雪だるまがパンを手当たり次第頬張り、シチューのスプーンを恐ろしい速さで動かしています。

 食事は必要ではないと言っていた気がするのですが……。そもそも雪だるまの体のどこに消えているのでしょうか。とはいえ大事なことは他にあるので、とりあえず頭の片隅に追いやっておきます。



「わからない……塔の中に入ることは誰にもできないし。もしかしたら自分の国に帰ってしまったのかもしれないな」

「自分の国……」



 王子は学んだことのあることを思い返していました。女王は季節の間だけ、この国へ来て恵みを与え、そして役目が終わると自分の国へ帰ります。それぞれその国では一年中それぞれの女王の季節が続いていると言われています。

 これがこの国で一般的に伝わっていることです。ですが、それだとおかしなことがあります。

 なぜ、この国の冬はまだ終わっていないのでしょうか。それに女王が塔から出てきたのを見た人は誰もいないのです。 

 それでも、行ってみたら何かわかるかもしれません。

 


「季節の国……行く方法はなにかないのでしょうか?」

「難しい問題だな」




 魔法使いはは立ち上がると一つの戸棚に向かいました。棚には難しくてとても読めそうにもないものから王子が良く知っている童話までとてもたくさんの本があります。

 一冊の本を手に取り、ペラペラとめくった後、指で止めて一つの文章を指示します。

 



「恵みを悪用されないために季節の国には簡単ではない。まず女王に認められた証が必要であり、女王の許可のないものは何人たりともはいることは許されない。さらには季節の国へ行くための扉の場所もまたそう簡単にはたどり着けない。深い森の中、進むべき道がわかる者のみその場所は開かれる……わかったかい?」

「女王に認められた証……深い森……?」

「深い森はこの場所の事だ。でもどうやれば森を抜けて扉まで行けるかは自分で考えることだな。少なくとも私はたどり着いた人を見たことがない」



 気が付けば、食器の大部分は空となっていました。

 隣で雪だるまが満足そうに腹を張っているような姿勢をしています。どうやらあまり話を聞いていない様子。

 王子は魔女の言ったことを何度も頭の中で繰り返していました。

 女王に認められた証……。進むべき場所……。



「今夜はもう遅いからここで休むといい」

 


 二人の様子をそれぞれ見ながら魔法使いが言いました。

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