表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/20

答えは絵の中に


「なんだこの絵は!俺様でも描こうと思えばかけるじゃねえか。あ、でもこれは面白いな!」

「アグロさん……もう少し静かにしましょう」



 ゲラゲラと笑う雪だるまとどこか遠慮がちに歩く王子。その様子が珍しいのか、というよりそもそも歩く雪だるまという非常に珍しい存在が人目に付くのか人が彼らの周りに集まってきます。 

 確かに王子は芸術には詳しくはないので、絵の評価などを確かめることはできませんが、色々考えることはできます。

 ふと、一枚の絵が目に入りました。



「……?」



 確かにその絵は目に入るほどほかの絵と比べて大きく描かれているのですが、王子が目を引いたのはそれだけはありません。

 青い空の下で周りが木で囲まれている中、手を膝について椅子に座った赤い髪の少女がこちらを見ているのです。

 人物画でしょうか。



「なんだなんだ、女の絵を見るなんて、昔の彼女にでも似ているのか?」

「いえ、なんででしょう?」



 悪霊の冗談を軽く流し、王子は何となくゆっくりとその絵に近づいていきました。すると背中の中の荷物がわずかに震えます。

 一瞬、気のせいかなと思いましたが、またわずかに震えました。そして、止まっては震え、止まっては震えを繰り返します。

 揺れているものはおそらく一つなのでしょうが、こんなことは今までありませんでした。

 悪霊も王子の震えに気が付きました。



「震えたり震えなかったり……うだうだ迷っているみたいだな。そういえば、あれだな。よく言うじゃねえか。ペットは飼い主に似るって。きっとお前の迷い癖が移ったんじゃねえか?」

「迷い……」



 そうです。まさに剣が迷っているみたいでした。

 しかし、何を迷っているのでしょうか。

 今まで剣が震え始めたときはここに女王がいるという合図でした。

 それが、どちらかわからなくて迷っている……いるかいないかわからないということでしょうか。

 そして、絵をもう一度じっと見つめたときに、あることに気が付きました。

 しかし。



「あのーお客様。一つの展示物の前でずっと立ち続けているのはご遠慮ください。あと雪だるまのお客様はもう少し静かに移動してください」

「なんだよ。いいじゃねえか。別に展示品に落書きしているわけでもねえんだからさ」



 グダグダ言いながらも次の展示品に向かって二人は歩き出しました。王子は後ろを振り返りながらでしたけど。

 以降もいろいろな展示品を見ましたが、王子の心にはいつまでもあの少女の絵が引っかかっていました。

 それが変わったのは芸術館の中ではなく、外でした。



「お、おい……ドジオ……」

「これは……」



 雪が降っていました。それだけなら今までもそうだったので何の問題もないのです。

 しかし、その大きさは、子供が雪合戦に使うために作ったものぐらいありました。しかし、見上げても空以外に何もありません。

 害はそこまでないので、町はパニックにこそならなかったものの、家の影や、室内で窓から外を見ている人たちには怯えの表情が浮かんでいました。

 


「おいおい……ずっと冬が続くって話だけじゃなかったのかよ」

「冬の力が……強くなりすぎているということなのでしょうか」



 確信は持てませんでしたが、どんどん雪が積もっていきます。

 しかし、幸いにも、この雪は一時間ぐらいで止みました。人々は戸惑いながらも、再び町通りを歩き始めます。

 もしかしたら……ゆっくりしている暇はないのかもしれません。



「アグロさん。急いで秋の女王の手掛かりを探しましょう。もしかしたら、知っている人がいるかもしれません」

「えーめんどくせえな。足が棒になっちまうだろうが」

「ほとんど棒みたいなもんじゃないですか。というかこのやり取り前もあったような……」



 ぶつぶつ言いながらも王子と雪だるまは不安を押し殺すように歩き始めました。



______________________________________________



 それから彼らは必死に情報を集めようとしました。

 少しでも何か手掛かりがあるとわかったら町の隅にでも町の外にも行きました。

 しかし、これといって何もわかりませんでした。



「始まりでここまで躓いたのは初めてだな……なんというかほかの女王より偏屈なのかね」

「もしかしたら、童話が本当でどこかに隠れてしまったのかもしれません」



 あてもなく町通りを歩いている二人。そろそろ日が暮れてしまいます。

 そういえば、どこに泊まる場所があったかとかは覚えていませんでした。

 まあお金もそこまでありませんでしたし、町の人に聞いて安い宿でも探そうと王子が思ったところです。



「あれ?今朝ごろいた兄ちゃんたちじゃねえか」

「おや、そういうお前は絵売りのおっさん」



 よく見ると彼らは町の入り口にいました。

 さきほどあった絵を売っていた男が不思議そうにこちらを見ています。

 しかし、彼らのくたびれた顔を見て納得がいったのか、笑いながら言いました。



「ははは、この町は珍しいからな。見るものがいろいろありすぎて、宿をとれなかったんだろう」

「あーえっと……」

「まあそんなところだな。すまねえが、一晩泊めてくれるか?」

「はっはっはいいだろう。外からの人は珍しいし、しゃべる雪だるまはもっと珍しいからな」



 王子がためらい、悪霊はためらわず、さも当然だというふうに言います。

 彼がそういうことを言っていることをわかっていたかのように、絵売りは了承してくれました。

 そして、二人は彼が使っていない部屋に案内されました。

 ベッドがいくつもあり、まるで宿屋のようです。

 何度か誰かを泊めたことがあるのでしょうか。

 王子はベッドに座って再び考え込みました。秋の女王はどこにいるのか。どうしたら会えるのか。


 一方、悪霊はだらだらと寝そべって王子に語り掛けました。



「なー。そろそろ聞いてもいいか?」

「何がですか?」

「お前が旅に出た理由だよ」



 王子は思考をいったん止めて彼のほうを向きました。

 相変わらずミカンでできた目……。しかしそれはどこか真剣さを訴えかけてもいました。

 そんな目をされたら素直な王子は話さないわけにはいきませんでした。



「城のすぐそばに馬の飼育小屋があるんです。王子ということを隠して外に出ることは多かったですけど、そこに行かなかった日はほとんどありませんでした」

「ほーう」



 いつの間にかに姿勢を起こした雪だるまが興味深そうに聞いています。



「最初に出会ったのは今よりもっとずっと子供のころだったんですけど、彼女にはすぐ王子のことがばれちゃったんです。でも、彼女は普通に友達として変わらずに僕と接してくれました」

「ははは、要するに俺様みたいにでかい人間だったってことだな!」



 高笑いをします。王子は話を続けました。



「でも、この終わらない冬で彼女は体調を崩してしまいました。今もずっと良くならないんです。医者も寒さが収まらない限りは治らないだろうって。だから……」

「だから自分が何とかしようって思ったってことか」



 悪霊が言います。彼はもう笑ってはいませんでした。少し口元はつりあがっていましたが。



「おうおう青春だねえ」

「か、からかわないでください……」

「いいじゃねえか。王子としてみんなを救わなければいけないとでも考えていたと思ったが、なかなか素直で」

「いえ、それもあるんですけど。やっぱり彼女を助けたいんです」



 王子はぽつりと言いました。その言葉に帰ってくる言葉はありません。

 彼が雪だるまのほうを見ると、何か遠くのほうを見ていました。

 少なくとも、今王子が見えるものを見ていない……そんな気がします。



「おーい。夕飯作ったから一緒に食べるかい?」

「おう、気が利くな!食わせろ食わせろ!」



 一瞬で立ち上がり、声のもとまで走り去ってしまいました。

 残された王子はいつか、何を見ていたか話してくれるだろうか。そんなことを考えていました。

 そして後に続きます。



_______________________________________________




 一人暮らしのためか、夕飯は豪華というわけではありませんでしたが、かなり凝ったものが出てきました。

 お城のものと同じくらいおいしいものと王子は感じました。



「おうおう、一人暮らし歴が長いとやっぱり料理の腕が違うねえ」

「ははは、誉め言葉として受け取っておくよ」



 悪霊の皮肉に近い言葉にも笑って受け流しています。

 今日であったばかりなのにまるで数年以上の親友みたいです。

 王子は感心したらいいのかあきれたらいいのかわからなくなってきました。



「そういえば、いいものが入ったんでよ。よかったら食っていってくれねえか!」

「おお、なんだなんだ?」



 彼が持ってきたのは赤くて丸いものがびっしりと入ったバスケットでした。

 まるで太陽のように赤いその果物は、斬ると甘い蜜のにおいが部屋に満たされていきます。

 王子はかじりました。



「うまいだろう。この町じゃなかなか取れないものでな、だが、俺はこいつがどうも好きでな、絵を描くほどなんだ。ほら、こんな感じで」

「おお、その辺にあるものより俺はそういう絵のほうがしっくりくるな。まさに絵に描いた食べ物って感じで」



 王子は絵を見ながらも彼女のことを思い返していました。

 そういえば、彼女もこの果物が好きだったなあと。

 彼女が笑顔で食べながら、言っていました。

 どうしてこの果物が好きなのか。その理由は……。 



 王子ははっとしました。

 すべてがつながったのです。

 王子は即座に立ち上がり、部屋に戻って自分のリュックを探した後、財布を取り出して、絵売りの前まで行きました。



「ど、どうした、少年……まさか俺の食べ物が合わなかったんじゃ……」

「すみません。おじさん。その絵を……」



 王子は言いました、



「その絵を売ってください!!」



 その言葉にゆきだるまはかじりかけのりんごを床にポロリと落とし、絵売りは飲みかけていた酒を床にこぼすことも気が付かず、あっけにとられていました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ