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走り始めた猪のように


「もう行くのかい?」



 あさ、病院の前に、王子と悪霊、そして医者が立っていました。

 昨日の夜とは対照的に、王子や雪だるまとは違って医者が疲れたような顔をしています。

 どうやら本当に、今、彼らが手に持っている薬を作るのに一晩中かかったみたいです。



「ええ、急いでいるので。いろいろと本当にありがとうございました!」

「へへへ。お前はどうやら役に立つらしいからな。俺様が天下を取ったら家来にしてやるよ」



 彼らの様子を見て、医者は優しく微笑みました。

 そして王子たちが女王のもとへ行くために、背を向けると。



「頼んだよ」

「……え?」



 後ろから声がかかり、王子は振り返りました。

 もう、医者はいません。しかし、確かに耳には、彼の言葉残っています。

 何を……と聞こうとも思いましたが、そのまま歩き始めることにしました。

 もしかしたら、ですが。彼は何もかも知っていたのかもしれません。



 またも、からかわれ続ける雪だるまをなだめながら、女王のもとへ急ぎました。


 





 相変わらず、すごい寝音ですが、それに耐え抜いてようやく彼女のもとへたどり着きました。

 そして、家の中に入り、一瞬のスキをついて。

 彼女のもとについて、口から薬を流し込みました。

 最初は何も変化が起きませんでしたが、やがて、寝息が少しずつ静まっていき、目が何の前触れもなく、ぱっちりと開きました。

 そして、大声をあげます。



「ぎゃあああああああああ!!な、なんなんすか!あなたたちは!どどどどうやってここに!?」

「お、おちついてください。えっと……」

「さては泥棒っすね。でも私の家になんて何も取るものなんてないっすよ!!何かほしいなら秋の女王のもとへいくっす!!」



 ほかの女王に泥棒を押し付けるというどたばたが彼女の言葉の第一声でした。

 王子たちは慌てて経緯を説明しました。わかってもらえるか不安でしたが、どうやら彼女も眠りにつく前に本を広げていたことを覚えていたらしくすんなりとわかってもらえたみたいです。

 改めて夏の女王は、王子たちにお礼を言いました。



「助かったっす!!よく寝て気持ち良かったっすけどね!あのまま眠り続けるとはさすがに体力がなまって仕方ないっすから!あ、申し遅れました!自分は、オストと申しますっす」

「え、ええと……」



 そして、目覚めた彼女の声を聴いて、王子は少し戸惑っていました。

 とても活気に満ちた顔をしていたとはいえ、春の女王みたいにおしとやかな性格なのかと思っていましたが、独特な口調や今にも走り出しそうな様子を見ると、どうやら、真逆に近い性格みたいです。



「おいおい、こんな奴が本当に夏の女王なのか。ただの夏っぽい人間じゃねえのか?」

「むむっ。失礼っすね。でも確かによく言われるっす!でもかわいい見た目に反して性格の悪そうな雪だるまに言われたくないっす。それにしても私に何の用っすか?」




 悪霊の罵倒にもあまり気にした様子を見せません。

 王子は改めて事情を話しました。どうしてここへ来たのか。今どのようなことになっているのかを。

 終始、話し始めから話終わりまでうずうずとした様子を隠さずに見ていましたが、王子の話が終わったのをみえるとすぐに立ち上がりました。




「そ、それは大変なことっす!でも、私が眠ったのは誰の仕業っすかね……。雪女にそんなに力はないはずっすし……」

「雪女?」



 春の女王からも聞いていない言葉が飛び出し、王子が聞き返します。



「あれ?エリルちゃんから聞いてないっすか?君たちが見たっていうその化け物を過去に呼び寄せたのは悪い雪女っす。永遠の冬で永遠に自分たちの世界を作り出すため……と」

「そんなことがあったんですか……」

「怪物がほろんだ時に、絶滅したと聞いたっすけどねえ……たぶん、それでエリルちゃんも話してなかったんだと思うっす」




 記憶のどこかに何か引っかかるものがあります。

 最近どこかで、その単語を見たような……しかし、思い出せません。



「まあ、わかんないことよりも次っすね。どうやら秋の女王を助けに行かないといけないみたいっすから、近くまで私が送るっす!!」

「おいおい!そのまま送ってくれるんじゃねえのかよ!」

「私は秋の女王と仲があまりよくないっすのですみませんが、よろしくお願いするっす!送ったら、夏の国も元通りにしないといけないですし、いろいろと調べますっすので!」




 もう少しで、どこで雪女とあったか思い出せそうでしたが、確かに、女王の救出を先決するのがよさそうでした。

 王子たちが外に出ます。また、不思議な力で送ってくれるんじゃないかなと思いながら。

 しかし、彼女は黙って手を差し出しました。



「これは?」

「つかまってほしいっす。今から秋の国までいきますので」



 彼らが、手を握ります。王子は女性の手をつかんだことがないので少しためらっていましたが。

 右手を王子に、左手を悪霊に。



「それじゃいくっすよ!!」

「へ?うわあああああああああああ!!」




 そして、そのためらいは一瞬で吹き飛びました。

 彼女がそのまま走り始めたからです。すごいスピードで。



「うわあわわわわわわっわ!!!」

「あがががががががががが!!!」

「飛ばしますのでしっかり捕まっていてほしいっす!!怖ければ目をつぶっていてもいいっすからね!!」



 一瞬で辺りの景色が見えなくなりました。

 時折、肌に水が当たる感覚があったり、おいしそうなにおいが鼻をかすめることもありましたが、そんなことを気にしている余裕はありません。

 手を握る手もあやうく、ほどけかけましたが、彼女のほうから強く握りしめているので、幸い離れることはありませんでした。もし手を離されていたらおそらくは迷子になっていたでしょう。



 やがて、少しずつスピードが落ちていき、彼女が立ち止まりました。

 それまで、体が宙をさまよっていた王子たちの体もゆっくりと地面に足が付きます。

 


 しかし、そのまま、体制が崩れてしまいました。

 雪だるまも同じ姿勢です。



 どうやら、辺りにはたくさんの木があり、森まで連れてきたみたいです。

 あれだけの木がある中であれだけの速度で走っていたのでしょうか。




「それじゃあここから先からよろしくお願いしますっす。秋の国の女王を助けられたら、呼んでほしいっす。きっとその剣が私たちを呼び寄せるはずっすから!」



 まだ立ち直れない二人をよそに夏の女王はそのまま風のように去っていきました。

 やっとの思いで気合を入れ、立ち上がることができると、何かの料理のもののようなおいしそうな匂いがします。

 


「ったく!!あの野郎……女王って言葉をどこの国で調べやがった!!あんな適当な女王がいてたまるか!!」

「あ、あははは……」



 女王に対するものとしては、これ以上ない無礼な言葉なのですが、正直、腰と腕の痛みから王子もあまり強く反論できません。

 そして、彼女と話したのもわずかですが、ひとつ気になったことがありました。

 雪女という言葉……永遠の冬……。かつての災害が今また繰り返されようとしているということでしょうか。

 その答えには確実に近づいています。次の女王を助けることができればすべてがわかるはず……。

 王子は改めて正面を見つめました。

 町の方角はわかりますが、音や匂いで行き着くことはできるでしょう。



「あー腹減っちまったなあ!おい、ドジオ!何か食いに行こうぜ!もちろんお前のおごりでな!」

「……わかりました」



 何も気にする様子もなく、雪だるまは正面をずんずんと進んでいきます。

 考えすぎず、彼のようにすぐ行動に移すのも自分に大切なのかなとそんなことも考えながら。

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