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遠吠えの正体



 助けてもらった医者であるレイドの話によると、急激な温度変化が続いているので体調を崩している人が多いらしいですが、それでも春の国と比べるとあまり閉鎖的な状態にもなっていないみたいです。

 行きかう人々は寒さや暑さに震えながらも普段通りの仕事をしようと、物を売ったり、家を直したりしています。そして大半の人は王子たちと同じような耳あてをつけています。

 見ていて安心したりたくましさを感じてほほえましくもなったりするのですが、少し問題がありました。



「あーあのひと、雪だるまさんを連れて歩いているー!!」

「へーんなゆきだるまー!!」

「なんだとこらーーーー!!!」

「わーしゃべったー!!」



 雪だるまが怒鳴ると一気に子供たちが逃げていきます。

 やはりいやでも目立ってしまうもので夜に出かければよかったかなと王子は考えてしまいます。

 ひそひそ話も聞こえるようで、あまり居心地がよくありません。



 そんな中、ふと路地裏を見たときに、自分たちのことも目もくれず、何かを話している二人組がいました。

 周りに人はいません。



「?」



 盗み聞きをするつもりはなかったのですが、王子はふと立ち止まってしまいました。二人も耳あてをしている王子には聞こえないと思ったのでしょう。 

 一人は長身で威厳のある黒い服に身を包んでおり、もう一人は背が低く、赤いバンダナに大きな袋を持っていました。 

 大きな音でもない声が耳に入ってきます。



「手筈はわかっているだろうな」

「へ、へい!夏色山に……ですね!」


 

 お互いに何かを話しています。

 手筈?夏色山?ここに来たこともない王子には山から何かあるのだろうかと思いましたが、不審な様子には気が付きませんでした。

 少し、考えていると、隣の雪だるまにせかされました。



「何やっているんだよ!早くいくぞ!この愚民どもめ!俺様に向けていい視線は恐怖か尊敬だ!」



 やはり、なんだかんだで彼もこの町での視線に耐えがたいものがあったようです。

 王子もうなずいて、歩き始めました。

 地図によれば、町の出口からはそう遠くないところにあるみたいです。そして、外に出るための門はすぐそこにありました。


__________________________________________________




 やはり地図に載っていたところは春の国と同じように人の住む場所から大分離れたところでした。

 ただ、今回は雪が積もる丘ではなく、海が見える砂浜でした。もっとも大きな木陰でできた日陰にはわずかに雪が残っていましたけど。

 耳あてはまだつけているので、音は聞こえていないのですが、それでも、ビリビリと伝わってきます。

 ここで夏の女王は何かと戦っているのでしょう。

 しかし、自分にどうにかできるのでしょうか。

 グランと戦った時は違い、相手は人間よりも、いえどんな生物よりも強そうな化け物なのです。



「おいおい、早くしろよ。まさかびびってんじゃないだろうな」

「う……はい」



 王子は思わず正直に答えてしまいました。

 その様子を見て満足そうに高笑いします。



「まあ安心しろ!中にいるのがどうしようもない化け物だったとしてもお前をおとりにして女王さんだけでも非難させてやるからな!」

「あのー僕は」

「まあ、頑張って耐えしのげ!生きていたら逃げた後で助けてやってもいいぞ!はっはっはっはっは!」



 姿も音も聞こえない生物だからか、悪霊の言うことは楽天的です。

 でも、そのぐらいの覚悟がもしかしたら必要なのかもしれません。

 背中の中の荷物も、彼をせかすように震えています。

 そっと剣を取り出しました。



「女王様のもとへ!」



 叫ぶとやはり、剣から出た光が空間を切り裂き、彼らを案内します。

 おそるおそる彼らは入っていきました。

 その場所は、海で囲まれて、日差しが強い、一つの島のようでした。さきほどまでの暑さと寒さが入り混じった状態からだととても暑い場所でも心地よく感じます。

 しかし、彼らの関心はそれより別のものにありました。

 一体、化け物はどこにいるのでしょうか。

 あたりを見渡しても、何も大きなものは見えません。



「この場所にあるのは……この島……だけですよね?」

「まさか海にいるってことはないだろうな?」



 もしそれならば、完全にお手上げです。

 島の中央には一つの家がありますが、とても怪物がいるようにも、ましてや戦えるような場所にも見えません。

 しかし、行くべき場所はどうやらあるみたいです。

 二人が家の前まで近づいてみると。



「!!!」



 とてつもない轟音が周囲に響き渡りました。

 耳あてはしているはずなのですが、それすらも突き抜けて、王子たちの体の内側を震わせているようです。

 この中に何かがあることは間違いありません。

 彼らはゆっくりと扉に近づいて、そして開けました。



「……あれ?」



 彼らは思わずあっけにとられてしまいました。

 王子などは手に持っていた件を危うく落としてしまいそうになったほどです。

 怪物はおろか、ねずみ一匹、この家の中にはいません。

 この家には主と思われる女性しかいません。太陽を映したような黄金色の髪、そして、夏の空を映したかのような水色の服を着ています。

 顔立ちは美しさもありながら、どこか活発な印象を受けました。

 しかし、その女王は……。



「ぐーーーーーーー!!ぐーーーーーーーーーーー!!」



 恐ろしい音を立てて……眠りについていたのです。しかも、ベッドの上で。

 とても何か大変な事態が起きているとも思えず、音以外ならとてもやすらかに寝ていました。

 ここまできて、彼らにも事態が徐々に飲み込めていきました。

 要するに、夏の国に時々流れる大きな音は、怪物の吠える声でも、激闘の末生まれる音でもなく。

 彼女の寝言だったと。

 


 王子は思わぬ事態に姿勢を崩して座り込み、悪霊はそばまで寄ってどなりつけます。



「てめええええ!!人を散々ビビらせやがって!ただのんきに寝てただけだったってことか!さっさと目を覚ませ!!アグロ様ごめんなさいと泣きながら100回言ってみろ!!」

「ちょ、ちょっと、アグロさん!!」



 王子も寝ているだけの女王に唖然としたのは本音なのですが、かといって仮にも季節の女王を雑に扱っていいわけがありません。

 しまいには揺り起こそうとした彼を、止めようと近づきました。

 その時です。



「ぐあああああああああああああ!!!」

「うわっ!!」

「わわっ!!」



 二人とも吹き飛ばされました。

 いえ、彼女は全く動いていないのですが、寝ているときの声だけであまり大きくない体型とはいえ、二人を吹き飛ばしたのです。

 あやうく家の壁に頭がたたきつけられるところでした。

 そして、王子はあることを思い出します。



「そういえば、夏の女王様はとてつもなく力持ちで、夏を呼び寄せる以外でも、大の大人数人分の力を発揮できる、とてもすごい人なのだと」

「おいおい……だからって寝ているときでもこんだけ力を持て余すってか……恐ろしいな」


 

 そして、よくよく冷静になって考えてみると、事態は思いのほか深刻です。確かに恐ろしい化け物と戦っているということではなかったのですが、それほどの力を持つ人がこうして何日も寝ているということは何かあったということでしょう。

 しかも春の女王とは違い、何が起こったのか、どうすればいいのか、それを知っているかもしれない彼女は意味のない寝音以外は何も伝えてくれません。

 一体どうしたらいいのでしょうか……。

 そのとき、ふと、王子が気が付きます。



「これは……」



 机の上にある一冊の本がおいてあり、一つだけふせんがありました。

 彼は女王に吹き飛ばされないように、家の外を出て、本を広げてみます。

 そのページには、とある病気のことが書いてありました。

 普通に眠りに落ちるのとは変わらないが、自力では決して起きることのない病気。文字通り……眠り病。まさに今目の前に患者がいます。

 王子は感心しました。



「さすが女王様、ちゃんとこうなることを予期していたのですね」

「予期してんならこの大声も何とかしてほしいもんだがなあ……」



 そして、王子たちはそのまま、家を後にしました。

 病気のことなら医者に聞くのが一番です。



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