こぶとりじいさん(もうひとつの昔話2)
その昔。
左のほほにこぶのあるおじいさんがいました。
ある日のこと。
たきぎ拾いのさなかの山の中、鬼たちの笛や太鼓の音に、おじいさんはわれを忘れておどり出ました。
これがやんややんやの大かっさい。
鬼たちにじゃまなこぶをとってもらったうえ、帰りにはみやげに宝までいただきました。
右のほほにこぶがある、となりの家のじいさん。
ならば自分もこぶをとってもらおうと、いそいそ山へと出かけました。
ですが、おどりがあまりにへたでした。
「へたくそー、帰れー」
ひどくおこった鬼たちに、左のほほにもこぶをくっつけられてしまいました。
もちろんおみやげなんてありません。
あの日以来。
おじいさんはちっとも働かなくなってしまい、毎日のようにごちそうを食べ、酒を飲んではごろごろとしていました。
そんなある日。
ぐうたらなおじいさんを見かね、おばあさんが声をかけました。
「近ごろ畑仕事どころか、たきぎ拾いにも行かなくなったわねえ。たまには山に出かけたら?」
「なあに、ありあまるほど金はあるんだ。たきぎは町で買えばいいさ」
「じゃあせめて、庭の草むしりぐらいやったらどうですか?」
「それも金を出して、となりのじいさんにやってもらったらいい」
おじいさんはとなりの屋敷を見やりました。
田んぼと畑は、となりのじいさんに金を渡し、すでに作ってもらっていたのです。
「わたしはね、おじいさんの体のことを考えて言ってるんですよ」
「体のこと?」
「ほら、そのおなかですよ」
「腹がどうした?」
おじいさんが腹をなでてみると、たしかに前にくらべずいぶん出ています。
「運動不足なんですよ」
「じゃあ、ちょっくら散歩でもしてくるか」
おじいさんはやっと重い腰を上げたのでした。
屋敷を出て歩いていますと……。
となりのじいさんが、おじいさんの畑をたがやしていました。
「やあ、いつもごくろうだな」
「金をいただいてるんだ。それを思うと、これくらいなんでもねえさ」
汗をぬぐうとなりのじいさん、両ほほのこぶがぶらぶらとゆれます。
「こぶが重そうだな」
「ああ、重くてしょうがねえ。だが文句は言えん。鬼がくれたものだからな」
「おどりさえうまくなれば、鬼もよろこんでとってくれるさ。ワシのように宝をくれてな」
「練習はしてるんだが……。ところでオマエ、ちょっと太ったんじゃないか?」
となりのじいさんが、おじいさんのおなかをまじまじと見つめて言います。
――やっぱりなあ。
ポッコリつき出た腹をなでる、小太りじいさんでした。