magic
彼の仕事はいつも鮮やかだったわ。
出会いは彼が暗殺者で私がターゲット。
索敵能力には自信があったんだけど、彼が声をかけてくれるまで気づけなかったわ。
彼はそれまで私をずっとつけてたみたい。
数メートルしか離れていなかったってきいて、ちょっと悔しかったわ。
でもそのあとの彼はもっとすごかったの。
優男って感じの印象からはわからないくらい早くて力強かったの。
気配に気づけなかったってことで隠匿技術だけが取り柄だと思ってたのによ。
驚いて思わず少女に戻ったみたいな可愛らしい小さな悲鳴をあげちゃった。
でもそれは一瞬だけ。
そのあとは私も手加減なしで、彼を殺す気で戦ったわ。
そう、私は必死に戦ってたの。
…でも同時に、彼の舞うような動きに見惚れちゃった。
私の攻撃を、武器同士の接触が手に伝わらないほど柔らかく受け流したり。
それで体勢を崩された私に優しく触れたと思ったら、そのまま投げ飛ばされて組み敷かれそうになったり。
私が攻撃を防げば、その反動を利用して次の攻撃に。
それを防げばさらに次って感じ。
しかもその一撃一撃が見た目以上に重かったのよ。
自分の息が上がっているのと同時に、それとは関係なしに顔が熱くなるのがわかったわ。
心臓も二つの意味で…いいえ、三つの意味でドキドキしちゃって、破裂しちゃうんじゃないかって思っちゃった。
激しい動きに合わせての鼓動。
殺されかけてスリルを感じて早まる鼓動。
そして……彼に対する恋にも似た感情に高鳴る鼓動。
でも突然、彼は去って行ったの。
安堵と寂しさが同時に迫ってきて動けなかったわ。
本当は彼を追って行ってしまいたかったのに。
それから私は彼のことを調べたわ。
他人からの情報はもちろん、自分で彼のあとを追うこともしたわ。
そこで見た彼の姿はやっぱり美しかったの。
第三者として見ると一層それがよくわかったの。
そんなある日だった。
彼の弟子…いえ、娘のように可愛がっていた女の子が彼の元を離れる日。
彼がとても悲しそうな顔をしていたの。
相手の女の子の方はこちらに背を向けていたので見えなかったのだけど、多分泣いていたんじゃないかしら。
その女の子が彼と別れたあと、私は彼を慰めてあげたかった。
でも、それはダメ。
彼と会ったら…彼と話したら。
私は彼の魅力を感じたくて、きっと戦ってしまうから。
今日、街で彼を追っていた。
そしたら彼を狙ったかのような弾丸が飛んできたの。
もちろん彼は避けていたわ。
そして彼はわざわざそのスナイパーのいるであろう方向に背を向けてターゲットを撃ったの。
そのあと彼は騒ぎが大きくなってきたのに合わせて人混みに紛れようとしていたから、私は慌てて追いかけたわ。
そしたらね。
彼女の姿を見つけたの。
そしてね。
彼がやっていたことの意味がわかって、彼の|魅力(magic)にまた気づけたの。