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ハーレムエンド  作者: PP
第一章:魅了地獄
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 マーガレットロックは夢を見ていた。その夢は何てことは無い、これまで過ごしてきた日々の生活のワンシーンである。


 朝、両親に起こされ眠気眼のままベッドから起きる。カーテンを開け太陽の光を体いっぱいに浴びると、自分の部屋から出て朝食の準備を行う。母親は魔法ギルドで先生を努めており、ゴールドクラスというランクを持っている。ブロンズが学生にあたり、学生を卒業するとアイアン、冒険や討伐などの実績を得ることでシルバー、継承するだけの知恵と技術を身につけた者はゴールドクラスへとランクはあがっていく。


 その上にはプラチナランクやレジェンダリ―ランク、ランクというカテゴリー外には勇者などといった伝説級のクラスが並んでいくのだが、少なくとも固にはそういった規格外の知り合いなどはいない。


 そんなゴールドランクの母親を持つ固は、皿を食卓へ並べると外へ水を汲みに出る。水道は貴族街などのお金持ちは完備しているのだが、共用スペースにある水道まで水を汲みに行くのが庶民の一般的な水の確保方法であった。


 朝食を終えると、父親は仕事のため職場へと行ってしまう。休みの日が無い代わりに、しっかりと定時に帰って来れるので父親は文句の一つも無く日々働いていた。母親は夕方から魔法ギルドへ向かい、夕刻から深夜にかけて温度の方向性を研究する研究室を開いていた。


 そんな固の母親は、父親の出勤を笑顔で終えると固に振り返る。


「よしっ、固ちゃん! 特訓よ!」

「はい」


 いつもの光景である。固の自室で魔法の基礎から、実用篇まで。時には王都を出て野外授業というものも受けていた。


 場面は切り替わる。夕食をとると、母親は魔法ギルドへの研究室へと赴く。少しすると、父親が帰宅する。固は夕食の残りを魔法で温め直し父親へと提供する。


「うん、母さんの料理は美味いな!」


 父親はバクバクと完食してみせると、今度は父親がやる気を出す。


「よしっ、固よ! 特訓だ!」

「はい」


 いつもの光景である。固の部屋で基礎からシミュレーションまで、実戦での対応力を身につける為に問答を行った。そして必ず締めに暗闇の中、警棒をお互い握りしめ特訓を行ったのだ。ただし一度も父親に一打も当てる事が出来なく、自分の才能の無さを嘆いていた。


 固は生まれてこの方15年、こんなローテーションの生活を送ってきたのだ。言い替えよう、両親による過保護かつスパルタ特訓により固は15歳としては異常な身体能力、魔法技術を得た少年に育っていたのだった。




 昨日までの懐かしい日々に、眼に涙がジワリと溢れる。ハッと目をあけると、ライトの魔法が発動したままの部屋の中、固は目を覚ました。


「ああ、そっか……昨日から学生寮に入ったんだった」


 日々両親に起こしてもらっていたのだが、誰に起こされる訳も無く自然と朝7時に目が覚めていた。それにしても、妙にベッドの中が温かい気がする。


「おはようトゥール、朝だよ」


 目の前で眠りこけているトゥールにおはようの挨拶をするも、中々起きないのでゆさゆさと揺さぶってみる。


「トゥール? 朝だよ」

「ん、んん、おはよう固」

「おはよう……それでさ、一つ良いかな?」

「なぁに?」


 固はどこから突っ込みを入れるべきか悩み、取り敢えず現状から攻める事にした。


「なんで俺のベッドの中で寝ているのかな?」

「もぅ、朝食をとっていたら固が寝ちゃうからじゃないっ」

「へぇ、朝食食べたんだー?」

「固、私よりも寝坊助さんね」

「ちなみに、朝ごはんにクリュパンを食べたりしなかったよね?」

「クリュパンを一緒に食べたじゃない? 冗談もうまいのね、固は」


 ゆ、夢じゃなかったー! 胸中で叫ぶと、固は跳ね上がる様に起き上がった。シーツがめくれあがり、トゥールは寒さにぶるりと身震いをしたのだった。


「寒いよぅ、でも起きなきゃね……」

「お、ぉぉぅ」


 どうしてこうなったと思う固だが、これが学生生活というものなのかと間違った方向への認識を高めていった。


 そう、固は過保護な家庭に生まれ、友人などとの付き合いはほとんどない私生活を送っていた。モテた事も、異性と付き合ったことも勿論無い。


 そんな固は、歪んだ現状が普通なのだと徐々に勘違いを始めていく。




 同室でお互い後ろを向き合い着替えを終えると、トゥールが自習について相談をする。


「ねぇ固、良かったら私の魔法みてくれる?」

「良いけども、力にはなれないと思うよ?」


 固は知っている。方向性を見つけ出す事、そして御する事がどんなに大変な事かを。勿論、一度理解を深めれば継承をしていく事が可能なのが魔法なのだ。だが、固は水や位置の方向性については全く理解がないのだ。


「良いの、固が見ててくれれば私はそれだけで良いの!」

「わ、わかったわかった! 表に移動しよう」

「うんっ!」


 学生寮を出ると、他にも学生の姿がチラホラと見えるが見る限り休日版のトレーニングといったところだろうか。魔法ギルド専用のローブを着用せずに自由な服装で各々トレーニングを行っていた。


「なぁ、何か俺達が浮いて見えないか?」


 見回す限り、ローブを来た学生はいなく固は何故か気恥ずかしさに包まれる。


「いいえ、固。私達だけだからこそ、良いんじゃないですか!」


 何故か全力で現状の服装を肯定するトゥールの言葉に、そうだよね? ここは魔法ギルドの敷地内だしコレが自然体だよね? と自分に言い聞かせるのである。


「それよりも、一度見ててくれる? 私の魔法、変じゃないか見てて欲しいの」

「わかった、ここでやってみる?」

「うん、ここでやるわっ! ちょっと離れててね」


 両手を前に突き出すと、目を瞑り魔力を集中させるトゥール。固は待て待てと突っ込みを入れようとするが、詠唱も無しにトゥールの魔法は発動する。


「えいっ!」


 瞬間、固の頭上の空間に淡い水色の線が一直線に刻まれる。それはぐるりと180度程回転をしてみせると、描かれた綺麗な水色の円が出来上がった。更にソレは180度、今度は縦方向に回転すると巨大な水の塊が生成されたのである。


「ぉぅ?」


 固は小声で急に曇ったなぁと上を見上げるが、その時には既に手遅れだった。巨大でかつ綺麗な水の塊は固の頭上からズドンという音と共に落下してみせる。


「ああ、固! ごめんなさい、ごめんなさい固、私、私っ!」

「だ、大丈夫だから落ち着いてトゥール?」

「うぇぇん、ごめんなさいぃ」

「へ、平気だから! トゥールの魔法は凄いよ! うん、凄い!」

「ほ、本当に?」

「うん、本当だよ! それに何というか、トゥールらしいというか、とにかく良かったよ!」

「私、らしい?」

「そう、とにかくトゥールを感じたよ!」

「私を……感じたっ!?」


 徐々にズレていくお互いの感想だが、トゥールは気を良くしたのか泣き止んだ。


「ところでトゥール、魔法を使う時に目を瞑ってなかったかい?」


 固は指摘する。魔法を放つ対象、もしくは方向などは一般的には目視をするものである。ところが、トゥールは魔法を放つ時に目を瞑っていたのだ。


「えっ、目を瞑った方が集中できない?」

「いやいやいや、それでどうやって位置指定をしてるのさ?」

「えっ?」


 えっ、と言われて困るのは固である。どうやら独学というだけあってトゥールは魔法の基礎を知らないようなのだ。


「そのさ、魔法は一般的に目視して使う物なんだよ?」

「そ、そうなのですか……」

「今度は目を開けたまま、そうだね? あの砂場に水の塊を出してみてよ」

「わ、わかりました! 固のお願いなら何だって聞きます!」


 ん、何だってとは言いすぎじゃないですかトゥールさん? 固はそう思いながらも、再び手を突き出し魔力の集中を始めるトゥールを観察する。固としては、無詠唱に文句はないのだが詠唱を付けた方が良いと思っている派である。そんな事を考えていると、再び固の周辺が陰る。


「まっさかねー?」


 上を見上げると、そこには綺麗な水の塊が浮かんでいた。





「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「も、もう良いってばトゥール。それにしても、二回続けて俺に魔法を当てるってのは、ある意味神がかった精度だよなぁ」


 固は思う。もしこの魔法が雷撃や火の塊だったとしたら、対人では無敵な魔法使いになれるのではないだろうかと。実際に水の塊を二度浴びた固だが、感想としては最初の衝撃と冷たさで軽くビックリする事。そしてビショ濡れになった衣服から体温が奪われていき寒いなーというのが固の感想である。


 このままでは風邪を引いてしまうので、固はすぐに魔力を体中に巡らしジュワリと水分を蒸発させてみせる。


「私、凄い?」

「ある意味すごい気がするよ。後もう一つ気になった事と言えば、詠唱も入れた方がいいかもしれないね? 詠唱ルーティンはいざって時に裏切らないからね」

「凄いです、固は本当に魔法について学があるのですね」

「へへ」


 他人から褒められる機会などこれまで無かった固は、トゥールに褒められ素直に喜んだ。喜んだのだが、この次に続くトゥールの言葉で笑顔は硬直してしまう。


「そうですわ、必ず固に私の愛情たっぷりの魔法が届くのだもの、詠唱は『永遠のエターナルウォーター』にしましょう!」

「へへ……へ?」

「永遠の水、ふふ、今度から詠唱してみますね!」

「お、おう」


 トゥールは固が自らの魔法について助言してくれる事が嬉しく、つい三度目の魔法の行使に入る。そう、彼女の魔力量は非常に少ないにも関わらず。


「『永遠の水』」


 思い描くは水のイメージ。神の意志とイメージが繋がった瞬間、魔力に水の方向性が生み出される。そしてトゥールはその水を渇きある場所にと、無意識にイメージする。再び、神の意志とイメージがつながり、位置情報が選定される。


 瞬間、ガクリと意識が遠のく。魔力に二つの方向性が与えられ、トゥールの体内に保持された魔力量が一気に枯渇する。全てを失ったわけではないが、若いトゥールでもっても数分は動けない程に魔力を消耗したのだ。


 トゥールが気絶すると同時に固は本日三度目の冷水を浴び、地面に顔から倒れるトゥールを見て納得するのだった。ああ、昨日もこうやって倒れたのだと。





 昨日と同じく、固はトゥールを背負い331号室のベッドまで運び寝かしつけると、固は一気に暇になってしまった。普段ならば母親に魔法の特訓をしてもらっている時間帯なのに、こう何もないと手持無沙汰でしょうがない。


 吐息をたてるトゥールを確認すると固は一人、魔法ギルドへ足を運ぶこととした。


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