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家を出ると見慣れた住宅街の景色が広がる。家の前の中央通りを北上していくと商業区が広がっており、更に北上すると貴族の住む貴族街が広がっている。その貴族たちの住まう場所を過ぎ更に北上すると、王城に辿り着くコースとなる。目的地である魔法ギルドへは王城の東側に、王城に負けない程巨大な施設としてそびえたっている。
そんな真っ直ぐに伸びた中央の通りに面した家にこれまで住んでいたのだが、今日でしばらく我が家とはお別れである。
「魔法使い、か……」
体内の魔力を手に練り上げ、放出するのが基本的な魔法なのだが、その魔力に方向性を持たせることにより力以外の性質を付与させる研究をする場所が魔法ギルドに所属するという事なのだ。固は母親にみっちりと躾けられていたため、魔力に温度の方向性を持たせる程度は既に出来るようになっていた。
しかし、暴力的な力を放出出来る魔法もいくらでも使い放題とはいかない。使えば体内に保有する魔力は当然減る訳で、全て放出してしまうと生物は皆例外なく死んでしまうのだ。
若い内は魔力の保有量は少なく、年を取れば取る程増えていく。反面、魔力の自然回復量は徐々に減っていき、自然回復が日々消耗する魔力量を下回ると生物は寿命を迎えるのだ。
さて、何故魔力について今おさらいしているのか。それはここ、魔法ギルドの入り口に居る受付員との会話である。
「おや、魔法ギルドへようこそ。見ない顔だね? 入学希望かな?」
固の姿をしっかりと確認した受付員は声をかけて来る。
「はい。推薦状もあります」
母親の直筆の推薦状を手渡すと、ほう、と何かを納得したような声をだし一人うんうんと頷きだす。
「君があの……ああ、少し待っていてくれたまえ。ちょっとチャムさん、何でまだこんな場所に居るんですか!」
「ああ、今物凄く研究が波に乗っていてね? どうしてもこの試薬を使いたくて使いたくて、二、三人に試したんだけどどうも魔力の性質があわないみたいでねぇ」
「そんな事言ってないで、急いでくださいよ! 他の先生達は既に東門に集合してますよ」
「ふむぅ、困った。実に困った……ん、君でいい、これを飲んでみないかな?」
目の下にクマを作り不健康丸出し、猫背でボサボサ頭の白衣をきた女性はビーカーに入った真っ赤な液体をちらつかせながら固と受付員との間に割って入ってくる。
「え、その……何ですかソレ?」
近づいて来る不気味な雰囲気を醸し出すチャムと呼ばれた女性はよくぞ聞いてくれたとばかりに笑顔をみせると、声高らかにビーカーを掲げて語り出す。
「おお少年よ、よくぞ聞いてくれた。これは魅了の方向性を持たせた魔力水なのだよ? わかるかい、魅了だよ魅了。この試薬が完成すれば生物は皆互いを愛し、平和な世の中が訪れるだろう! そう私は思ってこの研究を永遠と続けているのだよ、その試薬が完成したので是非とも効果の程を試したいのだよ。でもな? 聞いておくれよ少年、二人の弟子に飲ませたのに体内で魔力が分解されてしまったのだよ。ああ嘆かわしい、一体私の試薬のどこがおかしいのかさっぱりわからない。そういう事で、サンプルを増やしたいと考えた私は君に是非この試薬を」
「チャム先生っ! 熱くなっているところスイマセン、早く行かないとウエート国での会議に遅れますよ? 他の先生方も今頃怒ってますよ?」
「ああ、そうだったね。これ以上あの人達を怒らしても面倒くさい。戻ってきたら結果を聞かせてもらうとするよ、だからこの試薬、残さず飲み干しておくれよ?」
固がチャムという人物へ声をかける間もなく、無理矢理にビーカーを手渡すと、見た目に似合わない速さで一気に東門へと走り去ってしまった。
「あの……これどうしましょう?」
恐る恐る受付員に尋ねると、ため息交じりに無情な返答が返って来る。
「固君、あのチャム先生はこの魔法ギルドでも上位に当たる先生でね……飲まないと退学させられる可能性もあるから、大人しく実験台になるしかないね」
「そう、なんですか」
苦笑いで固は頷くと、無理やり持たされたソレの中身を覗き込む。真っ赤な色をした液体を飲むのにはやや抵抗がある。
「どうしても飲まないと……ダメ?」
「諦めな」
ぐぅ、ともう一度だけ真っ赤なソレと睨めっこをすると、ええいママヨと一気に飲み干して見せる。口の中に広がった味は無味で、思ったよりも抵抗なく体内へとソレは流れ込んでいった。
「ふぅ、味が変じゃなくて良かった」
「ハハハ、よく頑張ったね。手続きは終わったから、後は南にある学生寮に移動しな。寮長のハッカさんにその学生証を提示すれば空き部屋の案内をしてくれるからさ」
「はい、ありがとうございます」
学生証を受け取ると、魔法ギルドの中へは入らず学生寮のある南へと足を運ぶ。受付員がチャム先生へ言っていた会話からわかるように、今日から数日間ウエート国にあるレンジャーギルドにて大きな会議があるのだ。その為、しばらくは魔法ギルドは全学生自習という事になっている。気に入った方向性を研究している先生をみつけ、弟子入りする事により授業という名の研究に参加できるわけだが、上位の研究を行っている先生方が居ない今、研究室探しは少し後回しになる。
のんびりと歩きながら学生寮に向かう固の視界に、どうみても道のど真ん中で倒れている女性を発見する。すぐさま駆けつけると、声をかける固。
「可愛い……じゃなくて、大丈夫ですか?」
「う、うぅ……」
うめき声をあげる女性は、何故か全身びしょ濡れでの状態で倒れていた。固は魔力を相当量消耗して気絶している女の子を放っておける訳も無く、介抱をする。魔力が何かしらの原因で尽きて女の子が死んじゃいました、なんて事があったら後味悪い。そういう訳で、介抱をするという選択をした固。決してやましい気持ちがある訳じゃないのだ、命を賭けても良い。
「大丈夫ですか? 一体何が」
「う、ぅぅ……ぅぅ? おう、じ、さま……」
「ふぁ?」
女の子の言葉に思わず変な声が出てしまう固だが、再び意識を失った女の子をおぶって寮まで運んだ。
これが、後の地獄への始まりとはこの時、固も女の子も知る由は無い。




