END1
トゥールが15歳になって数時間が経過していた。330号、リリィの部屋に主要人物は集められていた。
「さて、固君。君は今後どうするつもりかな?」
とはスィーの言葉である。魅了の暴発について、固への責任を問いただしているのだ。
「そう、ですね……チャム先生が戻ってくるまで大人しくしていようと思います」
「宜しい」
スィーは腕を組みながらリリィのキングサイズベッドへ座る固を見下す。
「他に、固君へ意見ある者はいないか?」
主にトゥールを見ながらスィーは意見を促す。
「私は意見なんて何もないわ」
「私は固と一緒に入れれば何でもいい」
「私も」
「あなた達二人は黙ってて。ややこしいだけだから」
むぅ、と頬を膨らましてみるもリリィとクリュはスィーの恐ろしさを知ってる為に逆らえず大人しく体育座りで会話を見守る。
「本当に? 中途半端に魅了された私だからこそ言わせてもらうわ、貴女は相当辛い想いをしたのでしょう?」
「……ええ、でも私も冷静になって考えたわ。固は魅了の魔法について最初は疑っていた。その固の意志を骨抜きにした私の魅力が悔やましいわ。本当はあのまま死んでしまえば良いと、何度心の中で復唱したか。でもね? 私は思うの」
リリィとクリュの前にしゃがんでみせると、トゥールはか弱い力で精一杯抱きしめてみせる。
「私は三日間の間、魅了により作り出されたもう一人の私に好き勝手されたわ。そう、たった三日でこんなにも辛いの。この意味がわかるかしら? リリィとクリュは、正常に戻った時にどれほどのショックに陥るか……」
トゥールは真剣に悩み、これ以上の被害者がでないようにと自ら固の監視をする事を決意していた。
「やぁ、固はモテるねぇ?」
「マロック、茶化さないで」
「ア、アハハ。ごめんごめん」
現在、部屋の中にはトゥールにリリィ、クリュの他にマロック、ゴードン、合成研究室に所属している女生徒三人。
「それにしてもリリィ、いつも何でも解決するお前がこんなに手を焼くなんてなぁ」
「マロック、今度おしおきね?」
「おーおー、捕まってたまるもんですか」
「はぁ、アホゥは放っておきましょう」
「あの、マロックさんとスィーさんはお知り合いなんですか?」
合成研究室に所属する女生徒の一人が尋ねる。
「ええ、このアホゥとは幼馴染でして」
「へぇ」
それまでマロックに対して全く興味なさそうにしていた女生徒は、そっとマロックへ耳打ちをする。
「貴方、もしかしてスィーさんの事好きなんでしょう?」
「ばっ、お前何いう!」
「はいはい、ひそひそ話は後でやってねアホゥなマロックとライレイさん」
「はぁい」
「わかったよ」
「固、いつでも701号に遊びに来てくれても構わんからな」
「ゴードン、貴方までひそひそ話ですか!」
「うむ、重要な話しがあったものでな。許せスィー」
「はぁ、もうちょっと協調性を……そこの二人っ、固に徐々に近づかない!」
体育座りをしたまま固の居るベッドへ徐々に近づいていた二人を制止させる。
「さて、本人も反省しているところですが、もう少し実験を続行させていただきます」
「実験、ですか?」
固はてっきり331号での謹慎処分を下されると思っていたのだが、スィーが一つの提案を行う。
「そうです。今のところ固君が年下の女性に対してのみ魅了を発動させていますが、この際とれるデータはありったけとろうと思います」
「ふぇ?」
「そんなっ、スィーさん!?」
変な声を出す固と、猛反対をしようとするトゥール。しかしスィーは話しを進める。
「固君ならやり遂げるでしょう? 本来なら好き放題できるはずなのに、しっかり自制心を保ったじゃない。それに、ここにいるライレイ、レレウ、ロイランの三人は合成研究室で極めて尖った研究をしている生徒なのは知っているでしょう?」
手を振ってみせる女生徒三人は、その場でビーカーを取り出すと調合を始め出す。
「この子達は何も固君との接触があったから呼んだ訳じゃないわ。ある物を作ってもらいます、そしてソレを固君、君は飲み干す義務があります」
「はぁい、では合成調合しまーす」
「わっかりましたー」
「ましたー」
ライレイ、レレウ、ロイランがそれぞれ頷くとそれぞれが唾液をビーカーの中に注ぎ込む。
「……あれを飲むんですか?」
固は顔を引き攣らせながらそういうと、そうだとスィーはいう。
「まさか、あの子達も魅了に!? そんな、あなた達も後で辛い思いをするわ!」
必死になるトゥールだが、魅了はかかってないと否定しながら女生徒三人組は笑う。
「あはは、大丈夫大丈夫、コレは特別製だからー」
「とびっきりに凄いのだよねぇ」
「だよねぇ」
一杯になったところで、ビーカーを差し出される。
「う、流石にきついんですけどコレ……」
固は受け取ったビーカーから漂う匂いに更に気分が沈んでいく。
「飲みなさい」
「うー、うおぉぉおぉお」
固はビーカーに口をつけると、一気にドロリとした中身を胃の中に流し込む。
「わー飲んだ飲んだ―! 私達の飲んだ―!」
「やりましたね!」
「ねー!」
喜ぶ三人を他所に、スィーは種明かしをする。
「良く出来ました。これで固君、君はしばらく性欲が皆無になるだろう」
「と、いいますと」
「まぁ夜か朝にでもわかるだろうさ。乙女にこれ以上言わせないでおくれ」
その日は結局、トゥールが固を監視。リリィとクリュは好きなようにさせてやる事が決まった。ゴードンは封印の間の監視を強め、マロックは謹慎中の固のパシリをする事に。ライレイ、レレウ、ロイランの三人は合成物質である、去勢剤の効果のレポートを受け取る予定となった。
これで話は丸っと解決すれば良かったのだが、スィーのいう実験が始まった。
331号で謹慎中の固の元へ、1人の少女が入って来る。
「誰ですか? って、オンナノコ!?」
「まだ大丈夫です」
「へっ? 大丈夫って?」
「まだ大丈夫です、接触します」
「ち、近づいたらダメだよ!」
「接触成功、まだ大丈夫です」
「ダメだって!」
「固さん、私の事、好きですか?」
「ふぁ? そんな、初対面だし」
「まだ大丈夫です……私、魅力が無いのかしら……」
少女は実験体として呼ばれた。固の魅了条件を探す為に、力を貸す為に。勿論、自らが実験体として心を弄ばれるのはいい気分ではない。が、貴族の次女として産まれた彼女は自分へ価値を見出せる募集要項をみつけ、ここへ来たのだ。
魅了の研究補佐。固という男性に好き勝手される事を了承した上で、少女は自ら一歩前へと踏み出したのだ。
「そ、そんな事ないよ! 君はとっても可愛いし、魅力がないなんて事ないから!」
「……」
無言で抱き付いて来る少女。
「私なんかでも、役に立てるでしょうか」
「必ず立つよ! どうでも良い人なんている訳ないじゃないか!」
「ありがとうございます固、私は貴方の傍にずっと居ます」
少女が唇を重ねようとした瞬間、はいここまでとばかりにリリィが手を挟みキスを阻止してみせる。
「たぶん、会話の中に発動条件があるみたいです」
「そうですわね。大方予想はつきましたけどね、次」
331号の扉が開くと、再び少女が部屋に入って来る。
「固君、あの子に向かって可愛いと言ってごらんなさい」
「えっ? 可愛い……ね」
「わ、私を固様の奴隷にしてくださいぃぃぃ」
「決まりね。可愛いってキーワードが発動条件だわきっと、次は視線ね」
「まだやるんですか……」
再び331号の扉が開く。入室するのはやはり少女だった。
「目を瞑って、そう。ほら言いなさい早く」
「可愛い」
「……あの、入ります。まだ大丈夫です」
「対象を直接みなければ問題なしと。ありがとう、貴女はかえって良いわよ」
「えっ、あの……」
「十分データはとれたわ。ちゃんと今日一日分の報酬は渡すから、ね?」
「でも、そんな……」
「じゃあ、キスしなさい」
「えっ?」
「キスをするケースなんて無いだろうけど、まだ試してないケースはそれくらいなのよ」
そっと少女の耳元で選択を迫る。少女は身を強張らせながら、目を瞑っている固へガチガチになりながら歩みを進める。
そして意を決すると、唇を軽く重ね合わせる。
途端
「固お兄ちゃん、私をここに置いて。ずっとお兄ちゃんと一緒が良い」
「はいありがとう。これでデータとりは終了しましょう」
スィーは締めくくる。複雑な顔をしてその光景を見守るトゥール。商人の生まれのトゥールにとって、心を犠牲にしてまでやる価値のある研究かと正気の沙汰ではないと少し怯えた。
しかし魔法使いたち、そしてそれぞれ事情を持つ実験に参加した三人にとっては、トゥールとは違った見解であった。
「そうね、合成物質の効果も今のところてきめんみたいだし、後はコレで貴方は自由よ」
スィーはそういうと、アッポイを手に持つと意を決したかのように固の頭に思いっきり振り下ろす。
「うわっ!?」
これが固の最後の声であった。
「ひゃああああん……はぁはぁ……接続解除、はぁー! やっと解放されたわ」
そしてスィーである。アッポイを固の頭に填め込むと、アッポイの中核を為していた中身(魔力層)に固の頭が突っ込まれる。その衝撃で瞬間的にスィーの魔力は犯され体全身を蹂躙された。
が、すぐに魔力接続を解除するとスィーはアッポイを通じて魅了されていた状態から解放されたのである。
「これで今後、アッポイは君の魔力で生き延びます。そして、貴方はチャム先生に魅了の解除を施してもらうまでアッポイを被ったまま生活してもらいます」
「ウー、ウー」
「そうそう、言葉は変換されます。視野はくりぬき部分だけでは狭いでしょうから、念の為に全方位モニターをつけておきました。モニターを消灯させれば自分の視野で周辺はみえるでしょう。口元は空いてますので、スプーンやストローで食事をとってください。これにて、固君にかかった魅了魔法の研究を一時中断します」
スィーは立ち上がると、資料をまとめ上げる為に部屋へと戻った。
「ウー、ウー」
「やっと終わりましたわね。良いですか新人達、トゥールが固君の本妻です。これは無念ですが決定事項なのです。次にクリュ、そして私と続きます。第四妻は新人達の中で順列を決めなさい」
リリィが言うと、実験体になった三人はそれぞれ想いを告げる。
「私は固様の傍に入れればそれだけで幸せです」
「私も御主人様の傍に入れたら幸せです。さぁ、私をぶっても良いんですよ!」
「お兄ちゃんは私のー」
「「抜け駆けすんなやー!」」
「はぁ、なんでこんな事に……でも、私がしっかりしなきゃ、皆私のような想いをさせない為に」
こうして魅了地獄の連鎖は一端幕を閉じたのだった。
「なぁゴードン、なんで固達をあんなに危険な場所に入れたんだ?」
「しょうがないだろう? 固が少し特殊なんだよ」
ゴードンはマロックに応える。
「まぁ、チャム先生の試薬が馴染んだのって固が初だもんなぁ」
「それもそうだが、偶然なんかで封印の間に入れる訳ないだろう?」
コーヒーを飲みながら二人は会話を続ける。
「そりゃそうだ。でも、あの子達も凄いですね」
「ああ。俺ですらあの状況に危機感を覚えて逃げ戻ったのに、その場所にあの女生徒達は突撃してそのまま固を連れ帰るんだもんな、なかなか引き返さないから判断を誤ったと思ったよ」
ゴードンは思い出す、あの時固の元へ行く術を必死に探る三人の女生徒の姿を。
「はははっ、何度聞いても面白い話だよなぁ? ゴードンが引き返すような場所に、固の為にって突撃しちゃうんだもんなぁ。しっかり説明したんだろう?」
「勿論したさ。それでもトゥール、リリィ、クリュの三名は突撃していったさ」
危険な場所だと説明したが、あんなにも必死な姿で何処に居るか教えてほしいと懇願されて、ゴードンは放っておく選択を取ることが出来なかった。
「本当、チャム先生の言う夢物語もあながち実現するのかもなぁ」
「愛の力は偉大だとでも?」
「はははっ、俺も一度でいいからアレくらいモテてみたいもんさ」
「俺は御免だよ、あんな修羅場は」
「それも違いない」
ゴードンとマロックは『うらやまけしからん会』と称し、カフェでケーキを食べながら優雅に固のネタで盛り上がるのだった。
これにて魅了地獄は一端幕を閉じます。
さて、次回は固の身に一体どんな地獄が待ち構えている事やら。
一章の最後まで読んでいただいた方へ、改めて感謝の気持ちを込めて。
ありがとうございます。




