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固は女生徒との人付き合いが大変だと感じていた。何しろ魔法ギルドに来てから明らかに好感度の高い女性との出会いが増え続けているのだ。トゥールは助けてあげた補正、とか何かしら理由付けが想像出来たが、マロックと話している限りやはり出来過ぎな出来事ばかりなのだ。
「んー、困った」
尻餅をついたままスィーの後ろ姿を見送る固。息つく間もなく、そんな固の背後から声がかけられる。聞きなれた声色だった。
「固-、固ぅ、固ぅぅぅ」
何故涙声で、しかも三度も俺の事を呼ぶんですかトゥール? とばかりに振り向くと、先ほどスィーにのしかかられたのと同じく、馬乗りになって抱き付くトゥール。
「固ぅ、何処行ってたのよぉ、うぅ。私を放って何してたのよぉ」
「え、えっとゴメンよトゥール。ちょっと魅了の魔法について調べてて」
「固ぅ、悩みごとなら私に言って、私が力になるから。固の為なら何でもするから……だから、だから私を一人にしないで」
「お、ぉぅ」
「き、キキキ、キスして?」
「キ、キキキ、キス!?」
回りを確認すると、先程スィーとのやりとりで集まったギャラリーが未だに固の様子を見守っていた。そんな状況下にも関わらず、トゥールが甘えて来るのだ。
「キスしてくれないと、私舌かみきっちゃうからっ」
「わ、わかったから落ち着いてトゥール」
「んー」
目を瞑りおねだりを開始するトゥール。これ以上ややこしくするわけにもいかず、軽くチュッと唇を重ねるとトゥールの顔は真っ赤に染まる。スィーとは違い、馬乗りにされた状態からでも抱きかかえ、そのままお姫様抱っこをしてみせる固。華奢なその体を感じながら、走って331号へ逃げるかのように戻っていくのだった。
その光景を目撃した生徒たちは、羨ましいなどの感情は持つものの、この異常な光景すらも日常と思える程にはそれぞれ神経が狂うような生活を送っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、おろすよ?」
「う、うん」
首元に絡めていた腕を離すとベッドに腰を下ろさせる。そして再び見詰め合う二人に声がかかる。
「おかえり固、それと誰?」
「ん、ただいま?」
固とトゥールの部屋なのに、何故声が聞こえてくるのと思い固のベッドの方へと振り返る。すると、そこには昼頃に出会った金髪ドリルロール少女、リリィが浴衣姿のまま固のベッドの中でシーツにくるまっていた。さも、自分の部屋かの様にリリィーチェはそこにいた。
「えっと、リリィ? なんで君がここに?」
「やだですわ固、私との仲じゃないですの」
「あ、貴女は誰ですか!」
「そういう貴女こそ誰?」
火花を散らすかの如く、にらみ合いを続けるトゥールとリリィ。
「私はトゥール、固の恋人ですわ!」
そんなトゥールの勝ち誇った言葉に対して、リリィが追撃を開始する。
「そう、貴女も固の……ふふ、流石私の見込んだ男。モテる男が私の旦那になるのは悪くないわね」
「ふぁ!?」
口をパクパクしながら二人の顔を交互に確認する固。やはり、何かが変だと再確認しつつ現状の収集案が思いつかない。
「ええ? 貴女も固の事が……」
「そういう貴女こそ……コホン、失礼しました。私も名乗るのが礼儀ですね、私の名はリリ―チェ。シルバークラスのレンジャーですわ」
「リリーチェさんですね。悪いですけど固はわ・た・しの旦那様になるの、だから諦めていただけるかしら?」
「あらトゥール、別に二人目という事でも構いませんわ。どうやら貴女の方が先に固を愛していたようですし」
「ふふ、リリーチェさん。固ってね、心の底がこう熱くなるような、そんな魅力を持った方ですの」
「わかるわトゥール、私なんて声が聞こえた瞬間から確信したわね。ふふ、私達は気が合うようですわ、どうかリリィと呼んでくださいまし」
「ありがとうリリィ」
一通りの会話が終わったようなので、固はやっと声を出す。
「あの、リリィ? 何故君がここにいるのかな?」
リリーチェは貴族街にしばらく滞在すると主張していたと記憶している固。なのに、何故彼女学生寮であるここに、しかも自分のベッドに居るのか訳がわからなかった。
「あら、つれないですわ固。貴方がここに居ると知ったからには、追いかけるのが淑女の務めじゃないですの? と、いうわけですので私、隣の330号にしばらく部屋を借りる事にしましたの。廊下にわざわざ出るのもまずらわしいので、壁はこういたしましたの」
ピッ、という音が鳴ったかと思うと330号と331号を隔てる壁がゴゴゴゴゴ、という音をたてながら上へと収納していく。
「私達に壁なんて不要ですわ」
二人を遮る壁は取り除かれ、隣り合う二つの部屋は繋がったのだ。それも固のベッドの横にリリィ用のベッドが横づけされる形で。
「これから宜しくね、固、トゥール」
「ふふ、宜しくリリィ」
「そ、それでイインデスかー!?」
「「イインデス」」
顔を近づけ肯定する二人に、固は顔をひきつらせるのだった。
リリィと合流し、学食で夕食を済ませた後の事である。
「なぁ、少し良いかなトゥール、リリィ」
「なぁに固?」
「何ですの固?」
それぞれが固を挟むようにベッドに座って囲んで見せると、固は素直に告白する事にする。
「実は俺、魅了の魔法が暴走している可能性があるんだ」
「「魅了?」」
「そう、魅了。昨日チャム先生に渡された魅了の試薬を飲んでから、こう立て続けにモテる、というかトゥールやリリィ、それにクリュにも妙に懐かれて。もしかすると皆、俺の魅了の影響を受けているんじゃないかって、そう思っているんだ」
素直に打ち明けるも、リリィが真っ先に否定する。
「魅了の魔法? もしそれが本当だとしても、私にかかるはずがないじゃいの?」
「どうしてリリィ?」
「私はシルバーランクのレンジャーですわ、固の魔法くらいレジスト出来るくらいには腕はありますわよ」
「そうです固、私は本心から、心の底から固をその、あの……愛してます」
「そ、その、もしかすると二人の想いも魅了による勘違いという可能性は」
「無いわ!」
「あり得ませんわ!」
二人がハッキリと言い切るので、固はその言葉を信じるしか出来なかった。そして頭を切り替える、そういえばトゥールの誕生日まで後二日。こんなにも思ってくれるトゥールを祝ってあげたいと、そう考える固であった。




