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7.

邸に帰って父にタイガー王太子が街に居たと伝えると、そんなはずはないと言われました。

ユリウス王太子殿下と姉と一緒に王都へ帰り、今もそちらにいるはずとのこと。まあ、王都まで馬車で3日ほどかかるので、来ていたとしても不思議はないのだけれど、父がそう言うのならそうなのでしょう。

私はあまり教えてもらえないけれど、今も毎日のように王都から報告が来ているものね。


そんな父は王宮近衛の隊長をしています。王都では毎日忙しく働いているらしいです。

王宮近衛とは、隊長をトップとし、部隊長、平隊士という順に階級があり、基本的に貴族のみで構成されていた昔と違い、今は平民からも志願があれば徴用されるとのことです。

平隊士は、毎日現場-つまり王宮ですね-で、決められた当番順に、陛下や殿下を守るだけ・・・だけというのも言い方が悪いですが、まあ、それだけで良いのですが、部隊長になると平隊士の教育や書類仕事も必要になり、隊長になると部隊のことを把握しなくてはいけないなど色々大変なのです。

まあ、役職に応じた責任は必要ですよね。


母は、そんな父と少しでも一緒に居たいとのことで、いつもは王都に暮らしています。兄たちも父の下で王宮近衛として働いていますし、姉は王宮で暮らしていますので、基本的には私一人で伯爵邸に住んでるんですねー。

あ、家族としてはですよ?執事さんや、メイドさんは普通にいますから、生活はできます。

なので、王都ではアルドロワ伯爵家の次女は王都に上がれないほど病弱という噂が流れているとか・・・。何だ、このなまっちろい肌が悪いのか!?

兄たちの溺愛ぶりが噂に拍車をかけているとしか思えないのですがね。。。


そんな両親と兄たちがなぜ今伯爵領に居るのかというと、どうやら陛下からしばらく休めと言われたからとのことで、休暇中なのですよ。

休暇って仕事しないってことですよね?未だに手紙で王都の情報を得たりしている父は休暇してないのではないでしょうか?

なんて思いつつ、久々に家族と暮らしているのはなかなか新鮮です。

と言いつつ、私がしていることはいつもと同じなんですけれど。


今日も今日とて街に降りてバイトのお手伝いをしてきましたからね!


しかし、タイガー王太子殿下ではないのであれば、彼はいったい何者なんでしょうか?

やはりまだ街に降りない方が良かったのでしょうか?


そう考えて、街に行かないまま数日を過ごし、未だにうんうん唸っているところに、サーシャから応接室に来るように父から伝言を受けたと言われました。

どうやらお客様とのことです。

あれ?来客の予定なんてなかったのですけれど・・・?と不思議に思いながら応接室の扉の前へ。

扉の前に居たケイニーがノックをして私の到着を伝えてくれました。

中からは父と母の入室を許可する声がし、ケイニーが扉を開けてくれました。


「お父様、お母様。お呼びにより参上致しました」


淑女の礼をとって、父と母を見、視界の隅に入った向かいに座る人にふと視線を向けると、・・・見たことある人でした。


座っているから正確にはわかりませんが、身長はラルフ兄様と同じくらいでしょうか?程よく鍛えられた筋肉が服の上からも見て取れます。黒い髪に整った顔立ち、印象的な赤い瞳は以前と同じ輝きを放っています。


 な ぜ こ こ に い る ! ?


それは、この邸のダイニングで出会ったかもしれず、街で出会ったかもしれないタイガー王太子殿下、もしくはそっくりさんだったのです。


「エリーズ、タイガー王太子殿下にご挨拶なさい」


という、父の声で『ああ、王太子なのか』と思った私は、彼に向かい再度挨拶-しかも、王族に向ける最敬礼-をしました。


「いきなり呼び出して申し訳ない、エリーズ様。今日は他でもない、貴女に私のパートナーになっていただきたいと思い、参りました。」


立ち上がってそう言ってくる王太子殿下に、私は二の句が継げませんでした。

両親には話が通してあったのでしょう。彼らは特に何も言わず、私に目くばせだけしてきます。


「恐れ多いことですわ、タイガー王太子殿下。しかし、私より適切な方は他にいらっしゃるかと存じます。申し訳ありませんが…」

「いいえ、貴女しかいないと私が言っております」


おおーい!話の途中をぶった切ってくれやがって!

しかも、『私』を強調してくれましたね?何ですか?王族からの命令ですか?

私は貴方の国の民ではないのですけれど!?


「そう仰っていただけるのは有難いのですが…」


何とか断ろうと必死で頭を回転させているというのに、王太子殿下は私との距離を詰めて来て、耳元で


「貴女が街で働けるほど健康だとは、王都の噂も当てになりませんね」


なんて言って来ましたよ!?やっぱり街で出会ったのはコイツでした!

更に


「他の貴族には知られていないのでしょう?」


ですって!!何ですか、コイツ。私が街で働いていることを他の貴族にチクるってことですか!?何様ですか!


・・・王太子殿下様ですね、了解です。


私は「はい」と言うことしか許されていないということですか!!

いやしかし、確証を持たせる証拠は何もないはずです。ここでこちらが焦るとそれが事実だと証明してしまうことになります。ここは、ひとつしらばっくれ


「ああ、エリーがこの伯爵邸に入っていくのは私の部下が見ていますし、証拠も残っていますから言い逃れは出来ませんよ」


・・・ることも出来ないわけですね!!やっぱり見られていたのか…。

しかも、街で通している「エリー」を持ち出してくるとは!!


貴族の中で下手に話題を提供をしたいわけではないし、そこから変につつかれても困る。しかし、隣国の王太子殿下のパートナーになるとか、余計に話題になりそうで、どっちに転んでも私には良いことがない!


「一度一緒に行ってくれれば、二度と無理は言いませんよ」


暗に一度きりと言い出すタイガー王太子殿下に、一度の苦行と今後の苦行を天秤にかけ、私は一度を取りました。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


しかし、それが、私の今後の人生を決める重要な選択だと、そのときの私は気が付いていなかったのです。

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