5.
爆弾発言をかました王太子殿下は、ユリウス王太子殿下とラルフ兄様と一緒に視察に出かけて行った。
邸を出て行く前に、両親と姉兄たちに昨日の不審者がタイガー王太子殿下かもしれないと伝えた途端、姉さまがユリウス王太子殿下に、タイガー王太子殿下から目的を聞き出せと頼み、兄様同士がタイガー王太子殿下から目を離さないように話し合っていたのは見なかったことにした。
結局相手がわかったのだから街に降りても良かったのではないかと思ったけれど、母も姉も庭いじりをしたかったらしいので、その日は大人しく過ごした。
父とリドア兄様は早速隣国の王太子の情報を集めて回っていた。
邸に帰ってきた2人は、昨日の不審者が意外と多くの人に目撃されていたことを教えてくれた。
そりゃあ、あんな格好していれば目につくよねーと聞いていた私だったけれど、その姿がこの邸の前で見かけられたという情報を聞いて、撒けなかったのかと愕然とした。
しかし、どうやら見かけられたのは昨日の午前中とのことで、むしろ出がけに見つかっていたのかと、昨日の行動が無駄だったと言われたようでショックだった。
話終わると兄様が、私の伝言をアネッサに伝えてくれたこと、また今度と伝言をもらったことを教えてくれた。でも、あの王太子殿下が国に帰ってくれないと、私は一生約束を守れないのではないだろうか…?
不安なまま3日後。視察を終えた兄様たちが帰ってきた。
姉さまを迎えに殿下も一緒に邸にやって来る。それは良い。良いのだが、なぜタイガー王太子殿下まで来るのか!!ユリウス殿下と別の馬車に乗っていたのだから、さっさと王宮へ帰れば良いのに!
視察帰りの殿下たちをそれぞれ風呂へ押し込み、姉さまはユリウス殿下から、私たちは兄様からそれぞれ情報を聞くことにした。
どうやら、タイガー王太子殿下の視察はたまたま決まったことらしい。今回行くのが、近場であり、特に国内情勢を見せる部分があるわけではないことから、一緒に行くことにしたのだとか。
タイガー王太子殿下は、視察先で問題を起こすこともなく、地元の人々と交流し、有意義な時間を過ごされたとのこと。特に不審な動きは見えなかったとのことだった。
姉さまが聞いて来たところによると、この国にしばらく居ると言ったのは、人を探すつもりだったのだとか。その人というのが、この国のレディであるということしかわからないということだった。
別に私に関係あるわけではないようだ。なんだ、自意識過剰だったか。
もしかしたら、私の変装がちょっと思い出の人に似ていたのかな?心配して損した。
兎に角、私は知らぬ存ぜぬを貫き通すことにした。姉兄たちもその方向で進めるとのこと。家族会議が終了したところで、ラルフ兄様もお風呂へ追いやる。
いや、だって、ねえ?ここに居たら何か相談してたことがばれちゃうかもしれないし、それに兄様3日間で制服も泥だらけよ?
兄様をお風呂に追いやってしばらくしたら、姉さまのメイドがやってきて、荷物を詰め終わったと連絡してきた。
姉さまもユリウス王太子殿下と王宮へ戻るのよね。何だか久々に姉兄弟妹が揃ったというのに、あっという間にお別れで寂しい気がする。
「姉さま・・・」
殿下が身なりを整えたらすぐ行ってしまうのかしら?
未来の妃殿下を引き止めるわけにもいかず、なんと言って良いのかわからない私を見て、
「エリーズ!!姉さま、またすぐ帰って来るからね!」
と、力いっぱい抱擁してくださった・・・のは良いのだけれど、
「痛い、姉さま!いたいたいたいたいた!!」
と、再び骨が折れるかと思う激痛に見舞われた。まったく、この華奢な腕にどれだけの力があるのだろうか…。
「すぐ帰って来てはだめなのではないの?」
結婚してしまえばそうそう簡単に邸に戻るわけにもいかなし、この結婚秒読み段階であまり頻繁に帰って来ては印象も悪くなる。
そう心配したのに
「エリーズのことより大事なことなんてないわ!!」
なんて、言い切ってくれる。恥ずかしいよ、姉。
そしてそれを部屋の前で聞いてしまった兄と、姉の未来の旦那が突撃してきた。タイミングが悪すぎる!!
「アンネマリア!!私と妹とどちらが大事なんだ!!」
って、お前は彼女か!
「まあ、ユリウス。決まっていてよ。」
そこで、姉さまは姿勢を正して仁王立ちしつつ「エリーズですわ!」と言い放った。
「ちょっ、姉さま!!」
ほら、ユリウス王太子殿下なんて、膝から頽れてるじゃないですか!!未来の旦那の前なのだから、可愛く「貴方に決まってるでしょ」とか言ってやれよ!
慌てて王太子殿下の前にしゃがむと、何と言おうか頭をフル回転させた。
「ふふふふふふふ・・・。それでこそ、アンネマリア!」
え!?
ずびしっと私に指を向けて、ユリウス王太子殿下がきっぱり宣言してくれやがった。
「私は君に勝ってみせるぞ!!エリーズ!!」
いやいやいや。私を巻き込まないでくれ。
一瞬にして気が抜けた私の頭を殿下は優しくポンポンと叩いてくれた。
「全く、君たち姉弟妹は昔から変わらないな。」
安心するよ。そう言ってはくれたけれど
「ちょっと、殿下!!エリーズに気軽に触らないでくれる!?」
「しかも、エリーズを指さすとかどういう了見ですかね!?」
「さ、エリーズいらっしゃい。お風呂に入りましょう。姉さまが髪を洗ってあげるわ」
幾らなんでもそれはないのではないだろうか…?不敬罪とか嫌だよ?
あわあわしている私だったが、視線を感じてそちらを向く。すると、いつの間にか身支度を整えたタイガー王太子殿下が壁に寄りかかってこちらを見ているではないか!
い、いつだ?どこから見られていた・・・?
その視線は、数日前街で見られていたものと同じような気がして仕方がなかった。




