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夏の始まり
遠くから蝉の声が聞こえる。
母の実家のある田舎町に、私の影が揺らめいていた。
先月、両親が離婚した。
母親に連れられて、住んでいたアパートから
新幹線と電車を使って3時間ほどの
ここ、母親の実家のある田舎町に辿り着いた。
どこを見渡しても山。都会育ちの私に、それは
とても孤独を感じさせた。
東京の友人は元気だろうか?
先生も元気だろうか?
____父は今何をしているだろうか?
ここに来て1週間経つが、脳裏に浮かぶのは
都会での思い出と父の事ばかりだった。
青い空が、遠く感じた。
「沙織、お婆ちゃんが呼んでるわよ」
母が台所から顔を覗かせ叫んだ。