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「あ、ありがとう」
ぐいぐいと突き出されるカーディガンを受け取る。
渡されたってことは着ろってことかな?
でも、この人の場合、ただ単に暑くなったから脱いだだけっていう可能性もあるよね。
手に持ったまま考え込んだ私。
それをじいっと見る神奈月くん。
「…着ないの?」
はい!勘違いじゃなかったよ!
だいたいわかってたけどね。
わかってたんだけどね…
恋愛経験少なすぎてどうしたらいいのかわかんなかったのよ!
彼氏いない歴=年齢ですがなにか?
ていうか、告白すらされたことない恋愛ど素人ですよ!!
恋愛経験豊富そうで万年リア充であろう神奈月くんに、内心で逆ギレしつつ、カーディガンを着る。
うっわ、やっぱりおっきい。
私は特別小さい方ではないが、長身の彼のカーディガンは大きすぎた。
「子どもみたい」
笑いながら言う彼にひどいとは言うが、本当の事なので否定できない。
「そういえば、藤崎こそ、どうしてここにいるの?」
絶対無人だと思ってた、という神奈月くん。
「あぁ、私、図書委員だから」
「図書委員?でも、そういうのってだいたい2人ペアで仕事するんじゃ?」
おっ、意外と(失礼だな私)鋭い。
怪訝そうな彼に説明する。
「そうなんだけどね。
ペアの子運動部で忙しいから、放課後はだいたいひとりかな。
でも、その代わり昼休みはやってくれてるの」
おあいこなの、と笑っていうと納得したようだった。
その後も図書室には誰も来ず、2人で好きな作家の話などいろいろな話をしているうちに、下校時刻となった。
「じゃあ、そろそろ帰ろっか」
名残惜しく思いながら声をかける。
ああ、と短く返事が返ってきた。
帰りの支度があるので先に帰す。
「忘れ物なし、っと」
しっかり確認して、図書室の扉に施錠していると、
「終わった?」
いきなり後ろから声をかけられた。
「神奈月くん!」
いきなりでビクッとしたが、声で誰だかはすぐにわかった。
しかし、なぜ帰したはずの彼がここにいるのか?
「もう、暗いし。送る」
「え、いいよ。悪いし。
私のうち、ちょっと遠いから」
遠慮すると、遠いならなおさらでしょ、と言われた。
「なんかあると、心配だし」
照れたようにぼそっとつけたされた言葉に、つい顔が赤くなる。
神奈月くんは何も言えなくなってしまった私に、行くよと、声をかけてゆっくりと歩き出した。
最初のうちは赤かった顔も、会話しているうちに落ち着いた。
帰り道がこんなに楽しかったの久しぶりかも。
いつもだったら寒くて長い家までも道がすごく短く感じた。
「あ、うち、ここだよ。今日はありがとうね。
じゃあ、また明日」
「ばいばい」
手を振って、家の中に入る。
よかった、誰にも見られなくて。
家族に見られたら大騒ぎになることがわかっていたので、自室のベッドでほっと息をついた。