鋼のヴァンパイアハンター
肩の力を抜いて読んでください
「ふはははははぁ!!!私は恐ろしい吸血鬼だぞー!!今日も血を吸いまくるぞー!!」
金髪ロリっ子吸血鬼がマントを翻しながら高らかに宣言する。しかし、
「待てい!!」
突如響く声が行く手を阻む。
「何者じゃ!!」
「人呼んで鋼のヴァンパイアハンター。人の世に仇なす吸血鬼め。ここで滅びるがよい」
そう言いながら鋼のヴァンパイアハンターは鞭と白木の杭を取り出す。
「ふん、脆弱な人間め。食前酒にしてくれるわ。かかってくるがよい」
「神よ、われに加護を。闇に滅せよ、吸血鬼!!」
30秒後、そこには地面に倒れ伏すヴァンパイアハンターの姿が。
「弱い!!弱すぎる!!所詮は人間よ。か弱いのぉ」
「くっ、私にもっと力があれば……悪しき吸血鬼め、お前のようなものがいるから……」
「文句の続きは神に言え。どれ、それではさっそく血を吸ってやろう」
金髪ロリっ子吸血鬼は鋼のヴァンパイアハンターの首筋に牙を突き立てた。
「どんな味かのう……ぐぇ、なんじゃこれは!?」
これはいったいどうしたことか。金髪ロリっ子吸血鬼はヴァンパイアハンターの血を一滴も吸えていない。
「バカめ、かかったな」
ヴァンパイアハンターは素早く鞭の一撃を繰り出す。
「ぐわ!!くそ、何故じゃ。何故血を吸えぬ!?」
「教えてやろう吸血鬼。我が名は鋼のヴァンパイアハンター。極限のデスクワークを繰り返したことにより肩が鋼のごとく凝ってしまったのだ」
「なんじゃと!?それでは血が吸えぬのも道理……これでは分が悪い。さらばじゃ」
「逃がすか吸血鬼め!!」
天高く舞い上がり彼方へ逃亡する金髪ロリっ子吸血鬼を鋼のヴァンパイアハンターが追う。
その追跡劇は地の果てまで及んだ。
道中ではさまざまな出来事が起こった。
「ふっふっふっふ。この廃城に立てこもってやろう。城の周りには三千体のゾンビを放った。こやつらに噛まれればたちまちゾンビの仲間入りよ」
「ロードォ、タイヘンデスゥ。アイツ、カタガコッテテ、カミツケマセンン……」
「なんじゃと!?」
「悪しき吸血鬼め。劣悪な姿勢を何年も取り続けて得たこの肩こり、ただのゾンビに打ち破れるものか!」
「くそう、撤退じゃ」
「奴は肩がこっておる。つまり肩を動かしにくいはずじゃ。背後から襲われてはひとたまりもあるまい」
「俺は闇の剣士。狙った獲物は闇討ちで闇に葬ってやるぜ」
ときは満月の夜。辺境の街を金髪ロリっ子の情報を求めさまよう鋼のヴァンパイアハンター。その背後から、闇にきらめく刃が襲い掛かる。
「死ね、鋼のヴァンパイアハンター!!闇夜ばかりと思うなよ!!」
「しまった!!肩が上がらないため背後から跳びかかってくる攻撃に対処できない!!」
「こんなヤミー(美味しい)な獲物は無いぜー!!……なにぃ!!??」
闇の剣士の刃は、鋼のヴァンパイアハンターの肉を断つことはできなかった。
「自分でも驚きだ。まさかこの肩こりが闇の剣士の一撃さえ受け止めるとは」
「バカなーっ!?」
「その驚く顔、病みつきになりそうだな。闇に滅せよ、闇の剣士!!」
鞭の一撃で闇の剣士は死んだ。
「肩さには固さで対抗するのが筋じゃ。出でよゴーレム!!」
「ゴァァ、オレノカラダ、コウテツ。ゼッタイマケナイ」
荒野で対峙する二つの鋼。
「オレノチョップ、クラエ!!」
ゴウっと音を立てて迫りくる鋼のチョップ。今度ばかりは鋼のヴァンパイアハンターも粉々に砕かれておしまいかと思われたその時、
「グゥォォォォ!?」
粉々に砕けていたのはゴーレムの手であった。
「鋼鉄?愚かな。神に祝福された肩こりにその程度で戦いを挑むなどとはな。」
鋼のヴァンパイアハンターのショルダータックル。ゴーレムは粉砕され土に還った。
「マッサージで誘惑じゃ!ハニトラにかけてやれ」
夜の都市。客引きに引っ張られて鋼のヴァンパイアハンターは妖しいマッサージ店へ連れ込まれる。
「お客様ぁ、今日は当店自慢のマッサージで癒されていってくださいな」
妖艶な笑みを浮かべる遊女がしなだれかかる。その正体はサキュバスだ。
「ではぁ、早速肩のマッサージを……こ、この肩はいったい!?」
サキュバスは必死に指に力を込める。しかし、その肩は一ミリたりともへこまない。
「業界ではゴッドハンドと呼ばれた私のテクニックをもってしても揉み解せない!?」
「ただのマッサージで癒せると思ったか?浅ましいぞサキュバス!!」
鋼のヴァンパイアハンターが隠し持っていた聖水を浴びせかけると、サキュバスは消滅した。
ほかにもさまざまなことが起こったが割愛しよう
長い逃走劇の末、ついに二人は世界の果てで対峙した。
「よもや我をここまで追い詰めるとは。侮りがたし、肩こり」
「長い間続いた貴様の悪運もこれまでだ。覚悟せよ、吸血鬼!」
鋼のヴァンパイアハンターの鞭が唸る。
30秒後、そこには地面に倒れ伏すヴァンパイアハンターの姿が。
「くっ、また敗れることになるとは。しかし血は吸えまい」
「くっくっく。それはどうじゃろうなぁ?」
金髪ロリっ子は倒れ伏す鋼のヴァンパイアハンターに近づくと、懐から取り出したストローを胸に突き立てた。
「ま、まさか!」
鋼のヴァンパイアハンターの顔が恐怖に歪む。
「どれだけ頑張ろうと胸はこるまい。心臓から血を直接いただいてやるわ」
「やめろぉぉぉ!」
かくして鋼のヴァンパイアハンターは敗れた。
それはすなわち世界が金髪ロリっ子の手に落ちたことを意味するのか?
否。
今日も世界のあらゆるところで肩こりに悩むデスクワーカーは働いている。
彼ら一人一人が世界を救う希望なのだ。
戦え僕らの事務職。世界の命運は君の肩にかかっている。