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お隣さんがダンジョン運営してました  作者: 榊坂さかき
お隣さんがダンジョン運営してました
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お隣さんがダンジョン運営してました8

 

「あら? お兄様? どうしてこんなところに?」


「ああ、レイちゃんか。いや、実はさ……」


ダンジョンの入口まで行くと、そこにはレイちゃんが居た。

レイちゃんは、ダンジョンが休業中の間はやることが無いので、

主に外で修理や塗装など大工仕事をやっている。

この『荒れ地の廃城』というダンジョンは、

意外と外観の雰囲気を出すためにお金がかかっていた。


レイちゃん曰く、雰囲気は大事とのこと。

まぁ、ゴスロリ服装で大工仕事することに、

雰囲気はどこいったのかと思うが。


「そうですか。キョウコのヤツがまた変なことを……。

あとでちゃんと反省(生きていることを後悔)させておきますね」


最近、レイちゃんの言葉の裏に隠れていたモノが、

たまに見えるようになった。しかし、

大抵の場合、別に見たくないモノだった。


「いや、それはいいよ。一応、

強くなりたいっていう我がままに付き合ってもらっているんだし」


「ですが、雌狐の言い方だと、

とても攻略できるものだとは思えません。


確かに高難易度のダンジョンをクリアできれば、

強くなることは間違いありませんが、

レベルダウンシステムがある以上、

死んでばかりだと逆に弱くなってしまわれますよ?」


確かに、そこは懸念している部分だった。

いくら無限コンテニューができるとはいえ、

死亡ばかりだと、永遠に抜け出せなくなってしまう。

……良く考えると怖いシステムだな。


まぁ、そうやって永遠に力を搾り取るのが、

ダンジョンという商売なんだけど。


「では、お兄様。こうされてはいかがでしょうか?

お兄様がダンジョン攻略するのを見ながら、

私が後からついて行きます。

お兄様の様子と状況から危険だと判断した場合、

すかさず私がヘルプに入るので、

それで死亡によるレベルダウンを阻止しましょう。


……甘いと思われるかもしれませんが、

素人にいきなりキョウコのトラップは荷が勝ち過ぎます。

もちろん! お兄様ならば、いずれは攻略可能とは思いますが!」


ありがたい申し出だった。

情けないとは思うが、

正直、キョウコさんの悪意に勝てる気がしない。

あと、生命を賭けてというノリについていける気がしなかった。


◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□


ダンジョンのルールとして、

入口から入ってすぐの広間は何も仕掛けがない。

ダンジョンの本番は広間の先にある通路からだ。


「お、お兄様。これはまるでデートのようですわね」


ずいぶん血の匂いがするデートだった。

死が二人を分かつまでってか。やかましい。


レイちゃんはオレのすぐ後ろにいる。

なぜかもの凄く彼女の鼻息が荒い気がするが、

気にしてもしょうがないので進むことにした。


「確か、最初にあるのは矢のトラップだったな」


ダンジョンの整備を手伝っていると、

自然とトラップの場所を覚えてしまう。

前にキョウコさんがトラップの種類と位置は、

あまり大きく変えられないということを言っていたので、

それが正しければ通路には矢のトラップが仕掛けてあるだろう。


「そうですね。

ただ、お兄様が矢のトラップを知っているという前提で、

矢のトラップが組まれているでしょうから油断は禁物です。

キョウコは性格が悪いので、矢のトラップですらないかもしれません」


相手の裏をかくのが好きそうだもんなぁ。

キョウコさんならやりそうだった。


石造りの廊下を歩いて行く。

すると、オレの足が何かスイッチらしきモノを踏んだ。

その途端、右と左から三本ずつボーガンの矢が飛び出してくる。


「これぐらいなら、ぜんぜん避けれるぞ」


前に戦ったダイナマイト・シスターズの一撃より遅い。

素人スタッフとはいえ、リッチー化で身体能力は上がっているのだ。

オレは矢の軌道上から身体を逃がす。


「お兄様。その矢は避けてはいけませんよ」


後ろにいるレイちゃんが前に飛び出し、

右と左から飛来した六本の矢を掴んでしまった。


「え? あれ?

レイちゃん、避けるなってどういうこと?」


「これを見てください」


レイちゃんが掴んだ矢の一つを、

ダーツのように壁に投擲した。

すると、壁にぶつかった矢の先端が、

砕けて破片をまき散らした。


「矢じりがとても割れやすく、おそらく毒が塗ってあります。

左右から飛んできた矢は、それぞれ空中でぶつかり合う軌道でした。

きっと、避けただけでは破片の餌食になっていたでしょう。

武器で防いだ場合も、破片による二次被害が考えられます。

普通の冒険者では、まず引っかかるでしょうね」


「…………」


……なるほど。

矢とは避けるか防ぐモノだという、

先入観を逆手に取った罠だったわけだ。


これで序の口のつもりなんだろうな。

なんとなく、キョウコさんは、

ワザとオレにも避けられる罠を用意したのだと思った。


だって、避けたと思った相手が引っかかる様子を見て、

すごくニヤニヤしてそうだもの。


「今のでわかったことは、

このダンジョンの罠師は、

当たるか当たらないかのギリギリで相手の裏をかくことで、

喜悦を感じるタイプだということですね。

……人としては最低ですが、罠師としては優秀です。

人としては最低ですが」


「性格悪いなぁ……」


まぁ、知っていたことではあるが、

こうして目の当たりにすると、引いてしまう。

キョウコさんの優秀さに、オレの評価が下がった。


◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□


あ、これ、まったくオレの修行になってない。

そう思った時には、すでにダンジョンの九割を攻略していた。


「思ったよりも余裕ですわね」


「余裕……うん、

余裕なんだけど。果たしてこれで良かったのか?」


ただレイちゃんに守ってもらってるだけだもんな。

彼女は足手まといを連れた上、全ての罠を真正面から打破していた。

なぜそんなに強いのだろうか?

オレはレイちゃんに訊いてみた。


「なぁ、レイちゃん。

レイちゃんみたいに強くなる方法ってあるかな?」


「私のように強くなる方法ですか?

ええ、ありますよ。それは渇望することですね。

そもそも本当に強くなりたいなら、

諦める、迂回するという考えそのものが消えてしまいます。

だから、他のことを考えられるという時点で、

その人はすでに必要な強さを持っているのですよ」


オレの前にいる西洋人形のような少女が振り返った。

そこには嬉しそうな笑顔がある。


「お兄様が強くなれないのは、きっと私がいるからですわ。

私という強いパートナーがいるから、強さが必要ないのです。

でも、それは恥ずべきことではありませんし、

私はそのために強くなったのですから、

そうでなくては私が困ってしまいます。


そして、お兄様はお優しいので、

私のそういう願望を知らず知らずのうちに

満たしてくださっているのです。


お兄様が本気を出せば、

きっと誰よりも強い人物になれるでしょう」


途方も無くヨイショされた。

褒め殺しとはこのことだろうか。

さすがにオレは恥ずかしくなって反論した。


「いやいや。オレが本気を出してもたかが知れてるって。

イロモノ冒険者のダイナマイト・シスターズ相手にも

苦戦してるくらいなんだぞ」


「お兄様が弱いわけないじゃありませんか。

なぜなら、交通事故に遭いそうなキョウコを助けようとして

お兄様はここにいるのですよ?

他人のために生命を張れる人間が、

弱いなどと聞いたことがありません。


お兄様のことを本当の意味で弱いと思っている方など、

このダンジョンにはいませんわ。

いつだって強い人間の条件は、

自分には到底及ばない怪物に挑めるかどうかです。

今は弱くとも、未来のお兄様は、きっとお強いに違いありませんよ」


いつもとは違う大人びた微笑みだった。

きっと、いま目の前にいるのは、

かつて魔族との戦争を終結させたという

英雄としてのレイちゃんなのだ。


「いや、うん、まぁ、

レイちゃんがそういうなら、

そうなのかもしれないな」


あまり格好悪いところも見せてはいけないな。

なんとなく、そう思った。

今は弱いが、そのうち強くなろう。……絶対。


「あら? もうボス部屋に着いてしまいましたね」


見慣れた通路を曲がると、ボス部屋への扉が見えた。


◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□


「アレ!? なんでもう来ているんですかー?

オカシイですねー? あのレベルのトラップなら、

最低50回は死亡していてもおかしくないはずですが……」


オレの姿を見て、

ボス部屋でカップ麺を食べていたキョウコさんは、

驚き慌てていた。


まぁ、そりゃあ、オレじゃなくて、

ほとんどレイちゃんが攻略したからな。

予想外の結果にもなるだろうさ。

キョウコさんが叫んでいた。


「いやいやいやいや!

エイジ君! やっぱりどう考えても速過ぎますよね!?

渾身を込めた罠の調節おわったぞー、

さぁ、ラーメンタイムだー! と思って麺を啜り始めた直後に、

扉開けて登場するとか、なんなんですか!?

今回は本気で罠を組んだのに、私、泣きそうですよー!」


どうやら、調節が終わった直後にオレ達が現れたらしい。

たぶん一仕事終えた達成感と共に、

遅い昼食をいただこうとしてたのだろう。

……そう考えると、ちょっと罪悪感を覚える。

今回、オレの力じゃなかったからなぁ。


レイちゃんが死角から、キョウコさんの背後に忍び寄って言った。


「本気で組んだ割には温い罠だったわね」


「きゃあああああ!!

……ちょ、ちょっと!

油断してるところに登場するのヤメテくださいよー!」


驚いた拍子に、

キョウコさんはラーメンを床にぶちまけてしまった。

手に持った割り箸を開閉させながら言う。


「あ、わ、私のラーメンが!

……まだ、一口しか啜っていないのに」


「クスクスクス。食べる時間すら稼げないなんて、

罠師として、未熟なんじゃなくて?」


「あー、もー、そういうことですかー。

てっきりエイジ君が攻略すると思ってたのに、

手を貸したら意味無いじゃないですかー……」


オレをじろりと見たあと、キョウコさんは言った。


「このダンジョンの設備じゃレイは無理ですよー。

まだドラゴン相手に仕掛けたほうが、勝率ありますねー。

これを機会に色々と罠のパターンを考えたんですけど、

やっぱりどこかで一回、設備を買い直した方がいいかもですー。

未踏破のダンジョンを目指すなら、戦力が足りない」


不真面目なキョウコさんから、思わぬ真面目な意見が出てきた。

確かに、いくらレイちゃんが強いとはいえ、

一日に複数のパーティを相手にするわけだし、

どこかで罠の強化は必要かもしれない。


ていうか、対人トラップでドラゴン相手にする方が楽とか、

レイちゃんってどれだけ化け物なんだろう……。

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