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お隣さんがダンジョン運営してました  作者: 榊坂さかき
お隣さんがダンジョン運営してました
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お隣さんがダンジョン運営してました12

死亡した冒険者やスタッフはレベルダウンシステムによって、

無傷の状態(装備や荷物はその限りではない)で

入口付近に転送されるが、転送自体が燃費の悪い魔法である。


なので、普段の移動には使っていない。

スタッフはダンジョンに張り巡らされた隠し通路と

罠に組まれた安全装置によって罠を無効化しながら

用事がある度にダンジョン内部を駆けまわっている。


隠し通路は見つかれば冒険者も利用できるので、

発見された場合の安全性を考えて、

わざと一本に直結せず、バラバラに張り巡らせている。


そのため、移動はダンジョンと隠し通路を

交互に入れ替えて通ることになる。

なので、運が悪ければ、移動の途中で冒険者と鉢合わせになることも

珍しくない。


そして、今まさに、オレたちは冒険者に通り道を塞がれ、困っていた。


「サラさん。困りましたね」


「ふむ、ヤツラめ。

丁度、次の隠し通路の出入り口を封鎖するとは……」


目の前ではボロボロ姿の冒険者が四人ほど、

道のど真ん中に座って休息している様子があった。


どうやら即効性の回復魔法やポーションの類が切れたらしく、

包帯と薬で応急手当をして、傷が良くなるのを待っているらしい。

サラさんは珍しくイライラした様子で言った。


「しかし、奴らは迷惑ということを考えんのか?

後から来た冒険者と合流して、

体勢を持ち直されたら始末する手間が倍かかるというのに……」


「冒険者的にとって困っている場面での援軍は有難いですからね」


むしろ援軍が来れば良いな~くらいの気持ちでのんびりしているのかもしれない。

やめて……。

そんな、冒険者たちの中で、ひときわ手厚い看病を受けている者がいた。

そいつをよく見るとテレビに出てきそうなほど凛々しいイケメンで、

パーティメンバーを見渡すと、

全員が彼に熱を上げてそうな女性陣で構成されていた。


オレの嫉妬と殺意が燃え上がるまで、

あまり時間はかからなかった。

オレは情熱を込めてサラさんに言う。


「サラさん、このまま彼らを待ってやり過ごす時間は無いので、

ここは強行突破しようと思います。

傷を負っている彼ら相手なら、オレの力でも倒せるハズです!」


「エイジ君。自分の力を見誤ってはいけないよ。

確かに彼らは傷を負ってはいるが、ここまで到達する実力者相手に、

まだ勝てるとは思わない」


確かにここはダンジョンの奥の方なので、

実力にしてダイナマイト・シスターズの少し下辺りだろうか。


傷を負っているとはいえ、四人。

しかも同時に相手にすることになるだろうから、

オレだけだと荷が重い相手だろう。


少し考える。

ここはダンジョンの中なのだから、

真正面から戦わなくても良いはずだ。

それならどうにかなるかもしれない。


オレはやはり戦うことにした。


「いえ、どちらにしろ迂回する時間ももったいないはずですし、

一応、作戦もあるので、オレだけで何とかなります。

サラさんは、そこで様子を見ていてください」


「そこまで言うのなら、君に任せるが……」


オレは隠し通路の中の、さらに隠してある魔力の配電盤の蓋を開く。

配電盤はスイッチとコンソールが組まれていて、

罠や仕掛けの動力や制御を管理している。


コンソールを操作して、オレにかかっている安全装置を解除した。

これで、オレに対しても罠が発動するはずだ。


「じゃあ、ちょっと行ってきます」


オレは四人の冒険者に目掛けて突撃していった。



◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□



「アイツは!? 肌が青い! モンスターかッ!」


休息中とはいえ、警戒はもちろん怠っておらず、

四人の冒険者はオレに対して鋭く反応した。

まあ、肌が青いとか関係無しに、

襲ってくるのだから同じ冒険者でも撃退するだろうな。


そんなどうでも良いようなことを考えながら、

オレは腰から短剣を抜いた。


オレの戦闘方法はキョウコさん仕込みなので、

(レイちゃんも聞けば答えてくれるが、良い顔をしないのであまり聞けない)

投擲武器の基本でもある短剣を使ったスタイルだ。

……とはいえ、キョウコさんのように自在に投擲は出来ない。

修行不足なので、主に近接戦闘術として短剣を扱う。


相手は、ある程度の場数を踏んだ冒険者らしく、

オレが近づく頃には既にフォーメーションが完成していた。

前衛が一人、中衛が一人、後衛が二人の後衛寄りの形をしている。


しかし、良く観察すると、

中衛と後衛の一人ずつが包帯を多めに巻いているので、

実際には怪我のため、前衛が後ろに下がっている可能性がある。


次に装備を見てみると、

剣を持っているのが三人、杖を持っているのが一人だった。

その中で包帯が多いのは、剣を持った男と杖を持った女性。


どうやら内情は前衛三人と、後衛一人の前衛寄りのパーティと思われる。

それが、唯一の回復役をやられて途方に暮れていたといったところか。

傷の少ない前衛を杖の女性の護衛に付けている辺り、

後衛にいる彼女がこのパーティの心臓部なのだろう。


ならば、後ろの二人は動かないが、前の二人は釣れると思った。


「ふッ! せいやぁ!!」


気合の入った掛け声とともに、一番前衛にいた

ビキニアーマーという急所を露出させた防具を着た女戦士は、

勢い良くオレに斬り込んできた。


オレは短剣を持ち上げて受け流す。

痛烈な剣戟に、手に痺れが生じる。


……うん。相手の剣が重いし速い。

様子見の初撃くらいは受けられるが、

三手ぐらいで詰みそうな実力差があった。


そして、それは攻撃した相手にも伝わる。

こちらを見る目に侮りの色が混じった。


「チッ……」とオレはわざとらしく舌打ちをし、

短剣を構えながらすぐに後退し始める。


『格下を逃さないのは、

戦う危険よりも逃がして仲間を呼ばれる方が厄介だから』


冒険者の心理パターンとして、

オレがレイちゃんから教わったことだ。

オレのように人型モンスター……というか、

知能と社会性のある敵と戦闘する時は、

必ず背後にある団体や組織を意識する。


ゴブリンのような体格と力の劣る雑魚ですら、

仲間を呼ばれるのが厄介なので、

しっかり全滅させるように教わるそうだ。

……まあ、虫とかそういう相手なら見逃すだろうが。


とにかく、女戦士はオレを逃がさないだろう。

というか、今にも捕まってしまってもおかしくないほど、

押されているから逃がす気なんて湧くはずが無い。


三歩目を踏んだ瞬間だった。


突然、地面の感触が消え、

落下していく感覚が全身を包んだ。


落とし穴だ。


オレは落ちることを知っていたので、

穴のふちを掴んで落下を阻止したものの、

下には鋭い剣山が広がっている。


一歩間違えば串刺しになっていただろう。


オレを追って一緒に落ちた女戦士の反応は早く、

オレと反対側のふちを掴んで無事だった。

彼女は自分とオレが同じ穴にいることに気付いて、

すぐ穴から飛び出る。しかし、

出たところを石で造られた大きな振り子に襲われていた。


「……危ないッ!!」


中衛として様子を見ていたイケメンが、

とっさに身をていして女戦士を突き飛ばした。

おかげでイケメンを犠牲に女戦士は振り子から逃れたが、

女戦士の飛ばされた先にはさらに大きい鋼鉄の振り子が迫ってきていた。


「……グフッ!」

「……ガハッ!」


結果として冒険者二名が振り子に弾き飛ばされて動かなくなった。


オレはこの罠に一度引っかかったことがあるので、

穴の中で待機し、冷静に振り子の様子を眺めていたが、

本来は穴から出ようとする冒険者を追撃するだけでなく、

こうやって助けようとした人間もろとも倒す罠だったらしい。


オレは振り子を避けて穴から這い出た。


……ていうか、これを仕掛けたキョウコさんって、

やっぱ性格悪いと思う。

助けられた方を襲う振り子の方が大きいところとか特に。


「レベッカ!! アルフリード!!」


目の前でやられる二人の姿を見て、

残った後衛はいてもたってもいられなくなったようだ。

剣を持った方がオレに襲ってくる。


――相手の動きは圧倒的に素早い。

距離はあっという間に詰められ、

剣を鞘から抜くと同時に斬りかかってきた。


鋭く首を狙った横の薙ぎ払い。

それを避けるため、オレはとっさに姿勢を低く落とした。

刃は頭の上を通り過ぎるが、それで体勢が悪くなる。

すぐに柄を持ち直され、脳天から撃ち下ろされれば、

オレは成す術が無いだろう。


そうはさせない。


オレは地面に一か所を素手で叩いた。

するとスイッチが入り、壁からボウガンの矢が放たれる。


「なんのッ!」


剣を持った冒険者はオレが罠を使うことを予想していたのか、

素早く反応し、矢を剣で振り払う。

ガラスの割れるような音がした。

刃とぶつかった矢先が簡単に砕け、

金属片が冒険者を襲った。


意表を突かれた冒険者は一瞬動きが悪くなる。

その隙と入れ替わるような形でオレの短剣が冒険者の胸を貫いた。


短剣の利点は小さいので数を持てること。

そして数を持てることの利点は、使い捨てにしても次の武器を用意できることだ。

オレは短剣が冒険者の身体から抜けないことを警戒して、

そのまま短剣ごと冒険者を突き飛ばした。


冒険者は刺さったままの短剣に気を取られ、

落とし穴を綺麗に踏み外してオレの視界から消えた。


残ったのは、あと一人。


そう思ったが、勝ち目が無いと悟ったらしく、

杖を持った冒険者は逃げ出した。

……まあ、このダンジョンは死んでもレベルダウンするだけなので、

誰もいないところで自害すれば装備は守れるらしいから、

そのために逃げたのだろう。


追いかける余裕も無いので見逃す。


普段なら倒した冒険者の装備を剥ぐところだが、

そんなことをしている時間も無いので諦める。


オレは全部片付けたことを知らせるためにサラさんを呼んだ。

早くインスタントエッグを取りにいかないと、

キョウコさんが一人で全ての冒険者を相手にしなければならなくなる。

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