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お隣さんがダンジョン運営してました  作者: 榊坂さかき
お隣さんがダンジョン運営してました
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お隣さんがダンジョン運営してました10

キョウコさん曰く、

服にだけ糸が絡み付くようになっているとか、

両手が頭部より上にくるように引っ張っているとか、

キョウコさん得意の幻覚魔法の熱と実際の熱を組み合わせた独自の技術で、

(以下略)

服を脱ぐように仕向けている点が凄いと語っていた。


……自分で凄いとか言うのどうかと思う。


バネ計りで獲物が軽くなったことを判断しているというくだりは、

なんだか専門家の話らしくて面白かったが、

それを語るキョウコさんの得意気な顔が、

あまり見たくないものだった。


なので、適当に返事していたら、

キョウコさんが不貞腐れたように言った。


「……っていうか、エイジ君ちゃんと話を聞いていますかー?

飯のタネとも言える内容も織り交ぜている身としては、

説明を聞いてもらえないと切ないのですが」


「あのさ、オレを騙して罠に嵌めた挙句、

その罠で嫌な目にあったヤツに、

引っかけた罠について得意気に語るヤツってどうなの?」


「……うーん、まあ、

それを言われると何とも言えませんが」


キョウコさんはちょっとしょんぼりしていた。

そういう姿を見ると良心は痛むが、

キョウコさんの場合は演技の可能性があるから鵜呑みにできない。


「いやー、ごめんなさいですよー。

つい、せっかく作った罠だったので、誰かに引っかかってみてもらいたくて。

別に直接的な被害は無いタイプだったから良いかなーっと」


「なんだか釈然としないなー」


ほら見ろ、あんまり反省している感じじゃない。

てへぺろ顔で謝られても、謝られた気がしないし……。


まあ、キョウコさんのことだ。

追求したところで反省してくれるわけでもないだろう。

オレは諦めて話を次に進めることにした。

作らなければならないのは脱衣トラップではなく、着せ替えトラップなのだ。


「それで、思ったよりまともな脱衣トラップが有る訳だけど、

問題は脱がすよりも着せる方だと考えて良いのか?」


そう。脱がすのはこの罠で大丈夫だ。

しかし、着せるとなると、果たしてどんな手段があるだろうか?


「そういうことですねー。

仲間がいれば拘束を解かれるという弱点は、この際、目を(つむ)るとして、

どうやって着せるかですよー。

というか、そもそも何を着せるかという話ですよね。どうしますかー?」


「それこそ、さっきの粘着性の紐でいいんじゃないか?

ほら、服を脱いで脱出したところを追い討ちでさ。

グルグル巻きにしてしまえば、目的は果たせるだろ」


なにより簡単だ。

服にだけ狙いを付けて紐を巻く技術があるなら、

応用で服の形に巻くことが出来るはずだ。


「紐を着せるとか、なんか変態的ですねー。

触手とか、スライムとか、エイジ君、不真面目ですよー」


「言葉の響きだけで変態扱いするな。

というか、服を着せる手間を考えたら、

巻きつける方が早いだろ」


「巻き付け方は何とかなりますけど、

布の面積がどうしても足りませんね。

業の深い趣味嗜好(しゅみしこう)の香りがします」


「あ、そうか。それなら、包帯で……。

――――今のは無しだ。

そうだな、巻き付けるのは考え足らずだった」


自分で言ってて業の深い趣味嗜好の香りを感じた。

駄目だ、駄目だ。却下だ、却下。

しかし、そうなると、本当にどうにかして服を着せるしかない。


……例えば、落とし穴に落とすついでにズボンをはかせる。

金属の分銅を落とす要領で上着を着せるとする。


そのあまりの馬鹿馬鹿しさにダンジョンの雰囲気が壊れてしまう。

実際にダンジョンスタッフ達が普段はふざけているとしても、

一応、外見上は邪悪な魔女が廃城を占拠して、

悪事を行っているという真面目な設定だからな。

……真面目な設定だよな?


「いっそ、石膏(せっこう)の池にでも落として、石像にしてしまうか?」


「さっきよりは、まともな意見ですねー。

もっとも石膏が乾いて固まる前に、

どうにかされてしまうでしょうね。

固まったら動けなくなってしまいますし」


「うわ、難しいな……」


しばらくオレ達は意見を出し合った。



◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□



「ダンジョンの雰囲気とか、もうどうでも良くないか?

この際、いっそ、脱衣トラップに引っかけた後、

『ご自由にお取り下さい』と書かれた籠を用意して、

その中に服を入れておけば良いんじゃないか?」


「却下です」


「だよな、うん」


あれから三時間ほど経過したが、

打開策は発見できずにいた。


例えば、麻痺毒で動きを止めてから、

大がかりな仕掛けで着替えさせるという案も出してみたが、

あまりに複雑すぎるし、

麻痺毒は効果に個人差が出るということで却下された。


魔法を使う案も出してみたが、

魔法で物理法則を無視した罠を仕掛けることは可能だとしても、

やり過ぎると魔力の出量が大きくなり、

結果として魔力を失うだけになってしまうらしい。


今回の罠は魔法だと大きなエネルギー消耗が起こるので却下された。


あくまで機械式の罠の土台があって、

魔法はその補助に使うのが基本なのだとか。


少し考えをまとめてみる。

まず冒険者に脱がせるのではなく、

外側から罠の力を使うとすればどうなるか。


そもそも服を脱がせる外部的な手段とは何か?

引っ張る、あるいは吸引するなどの引き寄せる力がベースになる。

次点で、オイルやジェルを使って滑りを良くし、ずるりと剥く。

この二点にまとめられる。


そして、服を着せる外部的な手段とは何か?

押し込む、落とし込むなどの押す力がベースになる。

次点で、布を巻き付ける、吹き付けた塗料を固めて服の代わりにする。

この二点にまとめられる。


しかし、ここで防具を傷つけずに手に入れるという条件と、

裸状態のまま死亡判定を出して転送してはならないという条件が邪魔をする。

罠の威力が強力過ぎれば、意図せずにどちらかのミスが起こってしまう。


人体に合うように作られた服や鎧といった衣類の複雑さを考えると、

冒険者が自ら服を着替えざるを得ない状況に追いやる方法が確実だ。


というわけで、薬物や催眠で操ることも意見として出してみたが、

洗脳系の手段はレベルの高い技術らしく、

手持ちの道具や知識では不可能とのこと。


となると、先ほどキョウコさんが見せてくれた

『熱で脅して脱がせる罠』のように脅すという手段が有効なのだが、

脱がすのはアレで良いとして、どう脅せば着せることができるのかが謎だ。


まず敵が用意した物を何の警戒も持たずに着るということはあり得ない。

だから宝箱に入れて近くに置いておくことで、

冒険者が自力で見つけたというシチュエーションを演出することを考えたが、

それでは冒険者の動きが自由すぎて、確実性が薄れてしまう。


――――というような会話のやり取りを経て出た結論が、

『形にするのは無理じゃないか?』ということだった。


ていうか、こんなことを真面目に考えているのが一番の謎だ。


「……なんでこんなことを真面目に考えているんだろうなあ」


オレは虚空に向かってそんな呟きをこぼした。


「エイジ君、それは言わない約束ですよ。

お蔵入り確定の罠だとしても、

それを言ってはいけません」


「オレ、帰りたくなってきた」


「奇遇ですねー。私もですよー」


そう言ってキョウコさんはため息を吐いた。


オレは持っていたペンを紙の上に放り投げる。

人体を「く」の字に折って腰から脱がす絵なんか描いていたが、

方法を少し変えたぐらいでは問題の解決にはならない。


なんだか馬鹿らしくなってきた。


机の上には様々な絵や設計図の描かれた紙が散乱している。

作業部屋に長机を持ちこんで長い時間描いていたからか、

机の表面が紙に埋まって見えない。


ここまでやったのだから、もう良いんじゃないか?

それに、完成したとしてもお蔵入りになる罠なのだから、

もう良いんじゃないか?


そんなことを考えていた時だった。


「うっし! やる気も補充できたので、

頑張りますかね!!」


とキョウコさんが急に叫んだ。


「え!? なんで急に!?

どうしたの!?」


さっきまで終わりの無い悪夢で死にそうだったのに、

ここにきて急にキョウコさんは復活をしていた。


「いえ、私は考えを改め決意したのです。

意味が無いとは思わずに、

この罠でレイを嵌めてやろうと!!

着せ替えトラップを作れというのなら作ってやろうじゃないですかッ!

ただし、自らが罠にかかって恥ずかしい姿になるわけですが。

うぇっへっへっへ……」


悪の笑いだった。

言葉の最後でヨダレを垂らしている辺り、

微妙に壊れているのかもしれない。


しかし、そんな蛮行を、

他でもないオレが許すわけがなかった。


「……あのさ、キョウコさん。

計画を立てて楽しそうなところ申し訳ないけど、

そんな話を聞いたら止めるに決まっているじゃん。――オレが」


そう言うと、まるで裏切りにでもあったような顔でキョウコさんは言った。


「ちょ!? どうしてですかッ!?

ここまで訳のわからない目に遭わせた元凶をどうして庇うのですかッ!?

ハッ!? まさか!? なるほど、つまり、そういうことだったんですね!!」


「なんの想像したのか知らないけど、たぶん違うから」


「まさかババアフェチだったとは……」


「せめてそこはロリコンとかそういう罵倒じゃないの!?

確かに八十七歳だけど、見た目は小中学生くらいだからね!?」


「ついに自分がロリコンだと白状しましたね……」


「しまった!! 自分で掘った墓穴に嵌まったッ!!」


「まあ、いつかやるとは、思っていましたが……」


「まだ何もやってねーよ!!

なんで無念です、みたいな表情しているんだよ!?

何かと冤罪を被せるのやめろ!!」


「確かに微笑ましいモノを見るような目付きでレイちゃんを見ている時がありました。

私は、それを父性からくる優しい感情だと思っていたんです。

でも、違ったんですね……。

あれは飢えた野獣が目の前を通り過ぎる獲物に、

含んだ笑みを隠しきれないだけだったんですね……。

彼があの時、あの表情の裏で、何を考えていたのかを想像するだけでッ!!

ああ、身震いが止まりませんッ……!!」


「キャラがわからねーよ」


被害者の身内か、小学校の教諭か、近所のおばさん辺りだろうか?

妙に芝居がかった口調で、こんなヤツいるだろうか?


「下界を見下ろすゴシップ好きの天上人のマネですよー」


「人間以上の神格がある御方だった!?」


暇だったら下界とか見下ろしてそうだよ。

そして全てを見透かす割には、

人間の心が読めなくて勝手に失望してそう。

ていうか、天上人がそんなキャラなのかどうかもわからん。


「まあ、似てるのかどうかすらわからないモノマネはともかく、

今回の罠作りはオレも関わっているわけだろ?

普段、火炎放射とかでじゃれ合っているのは二人の遊びだから良いとして……」


「遊びというには、私、毎回、殺されそうになってますけどね……」


「オレがキョウコさんの企みを見て見ぬ振りをすると、

それってオレがキョウコさんに加担したことになるじゃん。

それはレイちゃんを裏切ったことになるから駄目だな。

正々堂々と正面から燃やされるべきだ」


「燃やされる前提じゃないですかッ!?

嫌ですよ! 私だってたまにはレイに一矢報いたいですよー!」


確かに、いつもレイちゃんが燃やすばかりで、

キョウコさんはいつも攻撃を避けるだけだ。


「そういえば、あまり反撃しているところを見たこと無いけど、

どうして攻撃しないの?」


「……避けるので精いっぱいだからですよ」


「ああ、うん。なんかごめん」


結局というか、今回のオチは、

いつもと変わらず、帰ってきたレイちゃんに、

キョウコさんが燃やされることで終わった。

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