彼に見える世界
僕はいつも足元を見て歩く。前をできるだけ見ないように、『あの人たち』を見ないように。
『あの人たち』―それは死者だ。
みんなは僕に向かってずっと何かを喋りかける。亡くなった姿のまま、僕が見えてると気付くと僕についてくるのだ。
何回も何回も同じことを繰り返す。何も聞きたくないから、耳をふさぎたい。
イヤフォンをすればいい、という人もいるのだろうが音楽プレイヤーを学校に持っていくのは禁止なのだから、学校の登下校はどうしようもない。
いつも下を向いているから当然友達もいないわけで…
「はぁ…」
そこまで考えて僕はためいきをつき、頭をふる。
考えたって疲れるだけだ。
いつもの帰り道、そして習慣になった本屋に寄ること。
本屋に着くとホラー作品が並ぶ場所へ直行する。少しあらすじを読んだあと帰ろうと振り返ると、僕と同じようにうつむきながら店に入ってくる、僕と同い年くらいの女の子が目に入った。
その子は店の奥へと歩いていく。
彼女の後についていったのは、単に自分に似てると思ったから。ただそれだけ。当然僕に人の後にこっそりついていく、という趣味はない。
彼女は目的の場所に着いたのか、立ち読みを始めた。時々悲しそうな表情を浮かべながら次々と本を手に取り読んでいく。
そして数十分ほどしたあとその子は何も買わずに帰っていった。
あの子が何をあんなに熱心に読み、何で悲しそうな顔をしていたのか気になり彼女がいた場所に立ってみる。どうしてあの子のことがこんなに気になるのか、よく分からない。自分とどこか似た感じがしたからだろうか?
「うん、多分そうだろうな」一人で呟く。他から見たら、さぞおかしな人に見えることだろう。
こんなに他人が気になる自分に戸惑いながらも、彼女が読んでいたものを手に取る。あらすじを見ると、
どうやら未来が見える人の話らしい。
これがあんな表情を浮かべるほどの悲しい小説なのだろうか―?
あらすじを読んだだけでは納得できず、中身に目を通す。
……面白い。ハマったかもしれない。
数ページしか読んでないのに、この小説の世界に引き込まれた。主人公の気持ちがよく伝わってくるのだ。
僕は周りの本も手に取った。どれも未来が視える力を持った人の話だ。
考えを巡らせる。
もしかしたら―
そう思ったとき、もうそろそろ帰らないといけない時間だったことに気づく。母さんは時間に厳しいのだ。
僕は早く家に帰ることにした。