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1話 森を移動ー5

「「……か、……可愛いい!」」

「……ん~?ん?あ、ありがとうお姉ちゃん達。僕はクラミ、よろしくね?凛奈お姉ちゃんに、ライラお姉ちゃん」


 出てきた瞬間に少し可愛く伸びをしてから、可愛いと言われた事に反応するクラミ。

 そして、何故か健吾の記憶が引き継がれている様な反応を返す。

 その事に若干の驚きを覚えた健吾は、記憶を頼りにその要因を考え……ある結論に達する。


「……なあ、……もしかして、一旦カードに戻ってから、俺の記憶がアップデートされたのか?」

「うん!そうみたい!」

「……」


 なんとも便利な召喚体であろうか。

 この分なら、数が多ければ多いほど、本当に無敵の軍隊を作れる可能性が高い。

 何故なら、仮に健吾がこの世界で生活していく上で、どこかの国の王様と仲良くなるか、独自の国家を築いたとして、召喚体にスパイ的な行為を全て任せれば、敵対国家がその存在に気づいて即座に始末しても、その瞬間に健吾の脳内に戻り、カードから実体化すればそれまでに掴んだ情報を即座に手に入れる事が可能なのだ。

 謂わば片道切符で上等なスパイ。

 これは相手国からすればたまったものではないだろう。(敵対者がいるのかどうかは別にして)

 まあ、その前に健吾がその命を狙われる程に危険視されるような目立つ行動を避ければ問題ないわけだが。

 そして、何故か体を震わせながら恐る恐るといった感じで健吾にクラミの事について聞いてくる凛奈。


「……ね……ねえ、健吾君?狐が喋ってるってことは、もしかして、この可愛い狐の動物は、健吾君の魔導生命体ってやつ?」

「?ああ、そうなるな。実は……」


 そうして、改めてこの世界に来て初めての戦闘での情報とカード化の状況情報、並びに健吾の戦闘行為の方法を凛奈とライラに伝えておく。

 健吾はこうする事によって、予め戦闘に入る場合の二人の立ち回りを考えて貰おうと思ったのだ。


「……成程。では、初めはこれよりもっと可愛い動物だったのに、健吾の保身の為に早くも少し大きく生ったという訳だな?……勿体無い」


 健吾の説明を受けたライラは、あからさまに怒った口調で問いかける。


「ライラ?そう言う言い方は流石に健吾君に悪い。一応私たちが無事なのは彼が無事だったお陰でもあるんだし、多少の保身は考えて貰っていた方が、護る方もやり易いと思う。……確かにこれ以上可愛いという物を見たかった気もするけど……」


 更に凛奈までもが健吾の安全より、可愛い動物を支持していた。


「お前ら……」


 堪らず眉間の凝りを解す健吾。

 そうしている間にも、クラミが健吾の肩に乗ってきた。


「おっと……」


 その際少しバランスを崩す健吾。

 流石に少し大きくなった分、重さが増えたようではあるが、許容範囲なので黙っておく。

 相手はメスのクラミだ。

 しかも、同じ女性陣の二人も加わり、体重の事を言えばどういう切り返しが来るか分からない。

 しかしクラミも少しは気を使ってくれていて、飛び乗るというより、恐らく風の魔法を無詠唱で唱えてくれている様で、スっと浮かんでストっと降りた感覚だった。

 とことん主思いの可愛い召喚体だった。


「ねえ、それよりこの記憶通りだと、色々と試す事もありそうだしフィールドを戻す前に何処か開けた場所でお家建てない?パパの見た範囲でも、何個か良さそうな建物があったみたいだし」


「……そうなのか?それならあたし等の武器は安全が確保されるまでこのままでもイイぞ?このサマエル?っていうお兄さんも強いらしいし、そこの明らかに鬼の姿の魔物もお前の護衛なのだろうが、ハッキリ言って強そうだ。因みにもう一体の妖怪剣士も。折角出しているこれらも護衛をタダで消すのは勿体無いだろう。だから、お前のこのフィールドが何処まで作用しているのかの実験も兼ねて、このまま出口を目指して進んでみたら良いと思うぞ?」


「そうね、ライラの言うとおり。同じ結果なら、より安全に検証できる環境の方がお得。……でも、決めるのは健吾君だから、健吾君の指示に私は従う。……なるべく安全に行動して欲しいけどね?」


 ライラの意見に同意しながらも、健吾の考えを優先してくれようとする凛奈に優しさを感じる健吾。

 そして健吾は二人の意見に従い、クラミを一旦地面に降ろし、護衛を引き連れて森の出口を目指した(完全に行き先は感である)。



 

 そうして、あれからフィールドだけをフィールド魔法【草原】で安全な足場に強制的にしてから20分程歩き、漸くフィールドの切れ目にやってきた。

 因みに、フィールド魔法を使う際、二人の顔が呆れた様に成ってたのには健吾も流石に自分の魔法のめちゃくちゃ具合に同感したが、それも些細なことだと割り切っていた。

 因みに、その20分程の行程でも戦闘はあって、主にクラミと召喚体に相手をさせて実験をしていた。 結果として素材も少々手に入れたが、生憎魔導生命体の元となる【○○の魂】は獲得できなかった。

 そして、同時に分かったのは、マンガ肉の魔力100万は凄まじく魔力量が高い様だと言う事。

 確認し始めて一番高い魔力の獲得マンガ肉が魔力量20万の物だった。(因みに健吾の持つマンガ肉で最高級品だと、その魔力量は1000万が数個ある。……が、何かあればと思って勿体ないので今のところ使うつもりはない)

 また、健吾の運が悪いのかはたまたそこそこ強い相手を倒さないと手に入れられないのか、健吾が触れていない敵に関しては、やはりクラミの餌には生ったがマンガ肉などのカードは出なかった。

 しかし、小動物だけではあるが、クラミに戦闘をさせていて良かった点はあった。

 それは、クラミが小動物を狩って食事にしている時のこと。

 その時不意に脳内画面に変化が現れた。

 何かのメッセージが流れだし、クラミの種族欄の下に、新たに【称号】と言う項目が増え、【レナードチェイサー(狐の狩人)】と言う称号が与えられ、魔法の他に特技として射程増加の効果が与えられるらしい。


「……益々ゲーム感覚になって来たな……。まるでVRゲームのレベルアップ時にそっくりだ。まあ、俺としては右も左も分からない異世界だから、知ってる知識が活用出来るって事で嬉しいんだが。けど、このまま行けば主に成長がなくて、召喚体にだけチート機能が目白押しになりそうだ」


「どったの?パパ。強くなるんだから良いんじゃないの?」


 健吾の苦笑混じりの呟きに律儀に反応を返してくれるクラミ。


「そうだぞ?健吾。初めからお前が強くなる可能性は道具だよりになるのは分かってる事だ。それを今更嘆くより、更に知識を深め、より安全に且つ効率よく召喚生命体を増やしたりしたほうが、余程お前や我らの身の安全に直結する」


「ライラの言う通り。健吾君?貴方はただ、皆の危険を回避できる道具を作ってくれればそれでいい。……男の子としては少々頼りないんだけどね?」


「ははは……」


 言われている事が尤もなだけに反論が出来ない健吾であったのだった……。




 そうして、切れ目の向こう側を見てみると、漸く出口と思われる既に宵闇の帳の降り始めた草原が見えてきた。


「さて、漸く長かったこの森の出口に近づいて来た訳だけど、……どうする?」


「どうするとは?」


 健吾の前置き無しの問いに、首を傾げるライラ。

 しかし、凛奈の方は今の状況下危険性を分かっているのか、微笑みながらライラに説明をする。


「健吾君は、幾らこの森を抜けて草原に行ったところで、どういう状況に陥るか分からないって言ってるんだと思う。そして、健吾君のフィールドを解いた状態で未知の草原に今の装備のままで向かって危険な橋を渡るか、この場で色々と実験をしてから草原に出るかどっちにするかって事でしょ?……それでいいかな?健吾君?」


「グッジョブ!流石凛奈。感覚で動くライラとは出来が違う!」


 凛奈の説明に笑顔で親指を立てる健吾。


「お前に言われたくない!」


 そして、貶されて叫ぶライラ。

 更に意味の分かった所でライラが提案をする。

 

「言いたいことは分かった。……といってもな?まだ本格的な装備を整えていない以上、あたしはこの場で色々と実験をやったほうが良いと思うぞ?」


「そうね。取りあえず、私たちが普通にこのフィールドから出られるかどうかの実験からやったら良いんじゃない?」


 ライラの後に、凛奈がそう言って先ずはと言う風に提案する。


「そうするか……。んじゃ、取りあえずこのフィールドから俺以外が抜け出せるかどうかを実験しようか。ゲームでは戦闘行動中は他からの認識は出来ない仕様だったが、この世界ではどうなってるかまだ検証はしてないからな。さっきも一応範囲内からの魔法が俺の方へ飛んできただけだったし。……って事で、先ずは物体が抜けられるかどうかの検証だ。……ほれ」


 そう言って健吾は足元に有った石ころを草原に成っている自分達の方から森に成っている方へと投げた。

 そして、石はコツンという音を響かせ、下に落ちた。

 その際の欠損などの変化は見られない。


「……ふむ……これで物体は通過することが分かったな。……では、次に魔力の篭った道具……魔導生命体のクラミで試そうか……あまり気は進まないが、いずれは検証しないといかんことだから、頼む」

「は~い」


 健吾の要請に、元気よく頷いたクラミは勢いよく切れ目を走り抜け……


「なんとも無いよ~?」


 その言葉通り、クラミの体に変化はない。


「よし、次は人間だが……今の事から、魔力を纏っていれば通過出来る可能性があるから、凛奈かライラのどちらかが……いや、この場合はさっき怪我をしたライラがまた同じ目に逢う可能性を無くす為に、申し訳ないが凛奈に検証を頼もうかな?……良いか?」


 健吾の申し訳なさそうな要請に、凛奈は笑顔で頷く。


「ええ、構わないわ。どうせ何か怪我をした場合、この中なら即座に先ほどのカードで治せるんでしょ?」


「ああ、ストックは十分にあるし、説明でもこのフィールドを解いて戦闘状態を解除すれば、使ったカードは脳内の未使用カード欄に戻るようだから、問題はない」


「じゃあ大丈夫」


「……」


 健吾の説明を聞いたライラが、少し心配そうに凛奈を見る。


「大丈夫……そんな顔しないで?ライラ。これは謂わば後々の為の確認なんだから。仮に健吾君だけの場合なら、今の様にクラミちゃんの様な魔導生命体ばかりを囲う必要が出来ても、普通の人間に対して実験をする必要なほぼ無いんだから。そういう意味では、これは私達の為の確認よ?」


「……分かってる。……気を付けて……」


「ええ」


 穏やかに説明した凛奈の言葉に、渋々ながら納得したライラは、黙って見守る事にしたようだ。


「じゃあ、先ず……手を出してみるわ」


 そうして、魔力を全く纏わずに出した手は……


「……何かの見えない壁に阻まれてるみたいな感触ね。……じゃあ、徐々に魔力を籠めて行くわね?」


 言ってから、徐々に凛奈の手から魔法陣が、体からは光のオーラの様な物が出ているのが見て取れるようになった。

 その光景に、健吾は、不思議そうに凛奈を見ていた。

 しかし、ライラは至って平然とした様子で見ていたので、気になって聞いてみる。


「……なあ、凛奈みたいな事、誰でも出来るのか?」

「?ああ、流石にゲームでも凛奈は魔法関係の職業を極めるのが以上に早かったし、ガイアシリーズの魔法を殆ど無詠唱と変わらない速度で唱えられるのはあたしの知る限り、凛奈位だが……魔法陣を使う職業の奴らは、あたしくらいの速度では皆できると思うぞ?」


 そう言ってライラは自身の魔銃をゲームの時と同様の感覚で具現化させる。

 しかし、凛奈の様な光は見られなかった。


「??ライラは凛奈みたいな体から光を出す様な事は出来ないのか?」


「??何を言ってる?そんなものは何処にも出てないじゃないか。凛奈の手に出ているのは魔法陣だけだぞ?」

「?いや、だって実際……待てよ?」


 如何にもな微妙な感じの表情をライラがしているので、気になって試しにメガネを除って再び凛奈をみると……。


「……あれ?光ってない?……どういう事だ?」

「さっきからお前は何を言ってるんだ?」

「いや、だってさ?」

「あ!抜けられた!……けど、結構必要魔力は高い。もしかしたらライラでは無理かも?」


 突然凛奈の声がしたと思ったら、気が付けば森の方へ体が出ていた。

 なので、健吾はメガネをかけ直すと、考えを一旦止めて凛奈に待っているように頼む。


「分かった、魔力って奴がある程度篭められたモノなら通過は可能って事だな。……じゃあ、今度はそこから普通にこちら側へ来てみてくれ。それが普通に可能なら、少し奴らを使って実験がしてみたい」

「……?どうする気?」


 意味が分からず、取りあえず言われた通りに草原の方へ入……ろうと魔力を纏ったまま足を踏み入れたら、そのまま入れた。


「……入れたね」

「ああ。なら、もう一度そのまま向こうへ行って、今度は魔力を纏わずに入ってきて?」

「分かった」


 そして、また言われるまま森に出て、魔力を体内に制御してから草原へ……入ろうとすると、今度は入れなかった。

 先ほどと同じように、何か見えない壁で遮られている感じだった。


「……ダメみたいね……。……で、今度はライラの番ね」


「気をつけろよ?ライラ」

 

「……!?……もしかして、またお前はくだらん悪戯を考えてるのか?何時も何時もあたしがそれにどれだけ……」


 不意な健吾の心配する声に、物凄い嫌な感じがしたライラは、思わず問いかける。

 それもその筈で、健吾は学校で事ある毎に喧嘩友達としてライラをからかって楽しんでいるのだ。

 まあ、以前健吾の所為でごく少数ではあるが、人前で下着姿を晒された(更衣室ではない。当然ながら少ないながら男子も居る前でだ)過去を持つライラとしては、健吾の悪戯は余り喜ばしものではない。

 しかも、その事でそれまで年不相応にクールな面しか伝わっていなかった者たちに、歳相応の慌てる様を見られた結果、程よく親近感を得られ皆に好意的に見られるようになったライラからすれば、腹立たしいがボコボコにするまでの事は出来ないのだ。

 まあ、適度に罵詈雑言を言い合う程度には喧嘩をしてる間柄ではあるし、嫌いにもなれない。

 そして、凛奈の言うとおり家の関係で立場が下の者に多く接する事のある関係上、学校でもそういう感じの者の見方をして上から目線をするので一般生徒との壁のあるライラにとって喧嘩友達の健吾は、どちらかと言えば男子としては好きな部類には入る異性なのだ。

 そういう経緯もあり、こういう状況の健吾の下手な心配する言葉は、反って疑念を招くのだ。


「ははは、別になんにもしないって。疑り深い奴だな……」

「日頃の行いの所為だろ!」


 そうして次に実験をしたライラは、結果としては凛奈の場合と全く同じ。

 ただ、凛奈程の体の輝きは無かった。

 しかし、凛奈の光が体全体を覆っていたのに対し、ライラの光が手足などの攻撃を繰り出す箇所に限定されていると言った違いだった。

 そして、健吾に至っては全くダメ。

 だが、これは半ば分かりきっていた事なので、三人とも気にしていなかった。

 その後、いよいよ魔道具を創るわけだが、三人の一致した意見で何かあったとき用に回復用のアイテムを創る事になった。


「……じゃあ、今から作るけど……キチンと護衛を頼むな?」


「ええ」


「特にライラは」


「だから、何であたしだけなんだ!……もう!わかったから、早くしろ」


「へいへい」


 一頻りからかった後、健吾はそう言うと、先ずフィールドを解除する。


 そうすると、乱立する木々の影響で、辺りは再びほぼ暗闇に墜ちる。

 そして、これからが本題だ。

 周囲を二人に護衛して貰いながら行うのは魔道具作り。

 作るのは【癒しの水晶】という治療用の魔道具だ。

 これの材料は激レアカードばかりなのだが、主な用途が治療関係の魔道具にしか使えないので丁度いい。

 ということで脳内画面に土鍋を表示して魔道具作りの準備だ。

 そこからライラに使用した魔法カード【天使の口付け】と【女神の祈り】と魔法カードの効果の受け皿となる【聖なる水晶】を纏めて放り込む。

 そして一分ほど掻き混ぜて、出来た中に【聖職者:人種】ミケランのカードを入れてひと煮立ち。

 そうして完成したカードは、SPレアとほぼ同等の輝きを放つ物だった。


「……っし、これで怪我した時用のアイテムは完成。これは誰でも使用できる筈だから、念の為凛奈に渡しとく」

「わかった」


 そうやって出来た魔道具を凛奈に渡し、次は3人の防具と武器。

 先ずは先ほど考えていたライラの魔銃。

 【機械:武器種:グロック銃】をベースに、【力:魔力:皇帝】のカードと【魔導の器】を土鍋に入れて掻き混ぜる。

 そうすることで簡単にライラ用の魔道具の出来上がる。

 そして、魔剣も同様で【力:魔力:皇帝】のカードと【魔導の器】、魔法カード【草薙の剣】という、如何にも日本の昔話に出てくる様な神剣そっくりな名前の剣を投入し、土鍋に入れ掻き混ぜる事で簡単に完成する。

 続いて凛奈の魔法書だ。

 実は案外これが一番面倒な作業だ。

 先ず大量にある魔法紙カードを10枚程と魔導の器を投入し、魔法の書というアイテムを先ず作成する。

 そして次に、そのカードをベースにクラミの牙に使用した物と同じような効果のアイテムを次々に投入する。

 これらは結構大量にあるので材料の在庫を心配する事もあまり無い。

 そうして、完成した魔法書は【万能なる魔法の紡ぎ手の残した遺産】という、何故か別種のカードになっていた。

 その効果も大概で、大凡の現代人なら考えうる科学知識の現象を再現できるという説明があった。

 これに凛奈の知識が加われば、本当に鬼に金棒状態だろう。

 まあ、便利な魔道具になるのは良いのだから深く追求はしないが。

 そして、次は防具。

 まあ、これは案外簡単だ。

 何故なら、既存の魔法カードとアイテムを掛け合わせれば、今できる段階での最上の防具が出来るから。

 先ず健吾の異世界仕様の召喚士の服をカードに戻し、それをベースに制作を開始。


 その際、Tシャツ姿になった健吾の姿を見て、凛奈が


「あら、健吾君ってほんとに鍛錬とかしてないみたいね。……ライラ、この世界で落ち着いたらいっそのこと彼を鍛えてみる?このままだと何かあった時に彼を人質にされかねない」


 というと、ライラも……。


「……同感だな。ふふ……そうなれば、今から鍛えるのが楽しみだ。今まで悪戯された分、しっかりと鍛えてやる。クックック……」


 と、怖気の走る会話をしていた。


(……聞かなかったことにしよう。うん、そうしよう)


 そう考え、健吾は作業を再開する。

 ベースの服を取りあえず土鍋に投入し、そこに新たに【斬龍の皮膚】を掛け合わせ、斬撃軽減(大)の効果をその効果に新たに付け加える。


 そして次に二人の防具。

 ライラの防具は基本軽装の剣士なので、【聖剣姫】装備セットをベースにする。

 これは、説明によると鎧全てが軽い上に、個人の魔力の成長に合わせて無限に性能がアップする効果があるらしいから。

 これに先ほどの召喚士の服にも使っている【愚者:拳人】バルトと【機械:機械人形ゴーレム】、【鋼龍の皮膚】を合わせた打撃軽減(中)の効果に斬撃軽減装備とを付け合せて、更に異世界仕様の召喚士のズボンに付けている魔法ダメージ軽減(大)の効果を加えた物をライラに渡す。


「ほい、これがお前の装備だ。一応斬撃と打撃を大幅に軽減させる物と俺のズボンにも付けてる魔法軽減の効果も付けてるから、そこいらの装備よりはマシな筈だ……店にあるのがどの程度の物かは知らんけど」

「……ありがとう」

「……お、おう!」


 あまりに珍しいライラの感謝の言葉に、一瞬戸惑う健吾だが、返事をしてから次の凛奈の魔道服を制作する。

 これも先のライラの防具と大して差はない。

 丁度良い具合に聖剣姫セットと同じタイプの魔道師服セットがあったので、それに先のライラの防具と同じ様な効果を付けた物を作るだけだ。


「ほい、凛奈」

「ええ、ありがと。……どうしようか?」


 健吾が装備を渡すと、先に受け取っていたライラと顔を見合わせて苦笑する。


「……?どうし……ああ、そういうことか。悪いな」


「……ええ、流石にさっき見られたから大して問題ないかもしれないけど、男の子の方には少しくらい気にして欲しいからね。私にしても、ライラにしても、健吾君にこういう場所で助けられた借りがある以上、立場的に求められたら嫌とは言いづらいけど、健吾君の方にはそうはいかない事情があるでしょ?」

「まあな……。分かった。獣に成らないように、向こうを向いてるよ。付け終わったら言ってくれ」


 凛奈の言葉に苦笑しながらではあるが、事情を察した健吾は、二人に背を向けて次の準備に掛かる。

 その間に凛奈とライラは貰った服を脱いで下着姿になってから、貰った装備を付ける。


「……これは凄いな。あいつがどう思って制作したかは知らないが、所々に細かい魔法陣の様な模様と見ていて飽きないデザインが施されている。これは一つの芸術作品としても価値が有るぞ?」

「……そういえば、ライラは小さい頃から叔父さんに付いて武具展を見て回っていたんだっけ?私と知り合ってからはあまり行ってないようだけど」

「ああ。その知識は今も忘れてないさ。伊達に武家特有の特殊技能があるわけじゃないからな?」


 凛奈の質問に笑顔で頷いたライラは、凛奈に同意を求める。


「ええ、流石に他人の家庭事情を調べるような事を一般人の健吾君がする事はしないから、彼も知らない様だけど、私たちの家庭事情を知れば、さぞ驚くでしょうね。……まあ、彼の資金力には流石に驚いたけど……」


「ああ。まさか兆を超える資金を持ってるとは思わなかったな。……しかし……」


「ええ。彼の話から、ここが異世界であることは確定的になったし、それを差し引いても、もし地球に帰ることが出来たら、この世界の事を少し調べて見る必要があるわ。……ただ……」


「あたしの家と、凛奈の家の家族が、どういう行動を起こしているかで状況は変わる……か」


「そういうこと。ゲームの世界の標準時間差が、この世界の物と同じなら、大凡まだ現実世界では2時間が良いところだけど、それも分からない。もしも逆の時間差なら、私たちが部屋から消えたことは既に騒ぎになってると思うし、それで向こうからの迎えが来る可能性もある。……まあ、仮にそうなってたとしても、現実助けが来てないという事実は否定できないから、今は健吾君のチートで死なない対策を立てつつ、彼の欲望を刺激しないように……けど、何時でも応えられる心づもりはしておくという事で居ましょ?」


「……そうだな。あいつもこの状況の所為か、学校でいる時よりからかいのレベルは低いから、少しは気にしているようだし、もし求めてきたら、混浴位は考えてやっても良いか……」


「ふふふ……それでライラは我慢できる?なんなら、私は席を外しても良いわよ?」

「な、な、何の事か分からんな!」

「お~い!まだか~!」


 二人が話している間に痺れを切らした健吾が待ちきれずに二人に声を掛ける。

 いつの間にか健吾は再び近くの魔物を標的にフィールドを展開していた。

 その事に苦笑しつつも、対応が早いのは良い事だと思うことにし、返事をする。


「もういいわ。……それじゃ、準備も出来たことだし……、いざ出陣?」

「いや、それは無いだろ」

「ああ、ちょっと違うと思う」


 凛奈の少し抜けている発言に、珍しく意見の合った二人であった。

 そうして、異世界に来て初めての夜を迎える事になる三人であった。


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