1話 森を移動ー4
時は戻り、健吾はサマエルが帰って来るまでの準備として、クラミの運動をある程度の所で切り上げさせると、一旦カードに戻して確認をする。
名前:クラミ
種族:神狐種
階級:第1段階【子狐】
魔法:種族魔法:2階位初級まで
四大元素魔法(装備品による効果):2階位中級まで
装備
耳:多感覚増幅リング(五感増幅(中)の効果付きイヤリング【審判:サムネイト】)
牙:妖狐の牙(多機能牙。用途を思い描く事で四大元素の現象を具象化出来る。【炎獣の焔】【氷鬼の氷手】【風神の涙】【岩龍の鱗】)
首:翻訳の首輪(言語翻訳機能付きの首輪【知恵の首輪】、【識者:賢人】ローラ)
体:風の毛皮(触ると冬暖かく、夏涼しい毛皮【風の毛皮】)
爪:毒の爪、癒しの爪
目:鑑定眼(初期段階の状態の道具なら大凡の使い方が瞬時に分かる眼。更に魔力を流すことで魔力に応じた解析も可能。【識者:賢人】ローラ、【魔眼の器】)
特徴:魔導生命体
素材が九尾の狐を元としているため、最終形態は九尾の狐に成長する。
マスター:神代健吾
(……見た感じわからんが、然りげ無く魔力が上がってる?それに脳内データでは最初の頃よりホンの少しだけ大きくなったか?これが成長促進の効果って所か……。魔法も中級を使える様に成ってるってことは、テクノで色々と楽しめた変化の能力をもう少しで使えるって事かな?たしか、アレって狐魔法の4階位中級だった記憶があるからな。ここではしらんけど。まあ、今はサムエルと他の奴らの出迎えだな。フィールドを戻して置くか……)
そして、しばらくして向こうから見える影が近づいて来たのを確認してから、フィールドを戻……そうとして思いとどまった。
今消せばサムエルが消え、もしかしたら状況がわからなくなる可能性がある。
更には護衛の奴らも消えて身の守りが無くなる。
なのでフィールドはそのままに出迎える事にした。
そして、数十分後。
健吾のメガネに捉えられる距離(言っても森の木々が邪魔でほぼ真上)まで近づいた三人の内の二人は、驚くべきことに健吾には見覚えがありすぎる人物達だった。
それは、学校で生徒会に所属する健吾と同い年の是枝凛奈と、同じく九条ライラ。
しかし、どういう訳か九条ライラの方はどう見ても血の気が引いていて、顔が青白くなっており、苦しげな表情で眠っている。
しかも、服の下から少量ずつではあるが、血が滴っている。
(あの蒼白な顔色の原因は、何処かで魔物に襲われて、大怪我をしたってことで……さっきの攻撃は、その時のどちらかの魔法かな?……っていうか、いい眺めだけど……ちょっと目のやり場に困るな)
そう言ってその九条ライラを泣きながら看病?している是枝凛奈の方を見る。
その姿はというと……なんとも色っぽい服装というより、下着姿だった。
上下共に清楚な感がする純白のブラジャーとパンツのセット。(視力を上げた状態なので、暗がりでもはっきりと見える)
どう考えても、九条ライラの血止めに使っている服は是枝凛奈の服だ。
恐らく何か持ち物に血止め用の物がないか、焦って魔法での止血をするのを忘れているのだろう。
健吾の記憶では、確か是枝凛奈の家は九条ライラのお隣さんで、九条家が剣道と拳銃を合わせた近代格闘技の名門で、是枝家は是枝財閥の関係で各種護身術を習わされていると(生徒会長の先輩と伊藤未来の情報網)聞いたことがある。(因みに二人はご近所さんという以上に親睦があり、共に互を思いやる様な行動を取ることが多い。(これも生徒会長情報))
そう言った事もあり、双方とも怪我の応急処置には心得があるはずだ。
それを忘れている所を見ると、大事な家族同然の親友が大怪我をした事で、頭が真っ白になり、何をしたらいいか分からない状態なのだろう。
しかし、今の自分の格好を、本人は気にしてないのかもしれないが、その身長に似合わない胸の隆起が、男の欲望を刺激しているのだ。
ハッキリ言って目の保養も良い所だ。
しかし、こんなところまで来て、そういう事を考えていると知られたら、流石に不味いので、なんとか平静を保つと……。
「……お前ら、是枝さんに九条じゃんか!?何で二人がこの世界にいるんだ!?ってか、何があったんだ?!」
欲望を撥ね退け、二人に向かって健吾はそう叫ぶ。
「……その声……!?も……もしかして、神代君?嘘!?」
降りてくる途中でその聞き覚えのある声に驚く凛奈。
そして、同時に瀕死のライラを救う希望が湧いてくる。
何と言っても、ライラと健吾は、そこそこ親しい喧嘩友達。
そして、ライラは否定しているが、凛奈はライラの想い人が健吾ではないかと思うくらい、仲がイイのを知っている。
そして、今の状況を説明すれば、健吾なら手を貸してくれる可能性が大いにあるということも……。
(良かった、これが見知らぬ男性ならもしもの事も想像してたけど、神代君なら大丈夫……とは言えないけど、多分無茶な要求はしないはず。なんたって伊藤さんっていう彼女がいるんだから。……仮にされたとしても、今の状況では文句も言えないけど土下座でもして頼み倒せば結構甘い彼なら助けてくれる可能性は高い!)
そう決心した凛奈は、降りきったと同時に健吾の元へ歩み寄り、即座に土下座をして頼み込む。
「お願い!神代君!ライラが魔物に襲われて、大怪我して死にそうなの!血も止まらないし、出血の所為で心臓の動きも遅くって……多分、不整脈も出始めてる!一刻も早く止血して、輸血か何かで血を補給しないと間に合わないの!……必要なら、私の体(血)を使っても良いから、ライラを助けて!……お願い!」
未だに泥濘み成っているのに、綺麗な肌が汚れるのも、手入れされているであろう綺麗な長い髪が汚れるのにも構わず土下座をして頼み込む凛奈。
そんな凛奈に、健吾は心底慌てた。
「お、おい、是枝さん。別にそんな事しなくて良いから、取りあえず顔を上げて、服を着てくれ。目の保養になるって言いたいが……ハッキリ言って、目のやり場にも困る。それに、そろそろ暗くなって冷え出すと思うから、今の状況で、君まで風邪ひいたらダメだろ?」
そう言って健吾は脳内画面を開き、生活用品のカードの中から誰でも着れるような少し厚手のワンピースの洋服を出して実体化し、凛奈に渡す。
「ほれ。これ着てろ」
「……分かった。…ありがと」
泣きながら差し出された服を頷いて受け取り、その場で着る凛奈。
流石に着替えシーンという訳でも無いので、着るのを見届けた後、健吾は一応の確認をする。
「んで、取りあえず聞くけど……九条は怪我と、それによる出血で血が足りないってだけで、伝染病や病気の類じゃないんだな?」
「ん……、背中を斬られるまではピンピンしてたから、それは大丈夫」
健吾の問いに首肯し、涙を拭く。
そして、それを聞いた健吾は早速このフィールドの効果を利用し、回復の魔法カードが術者意外にも効果を及ぼす事が出来るのかを実験する。
仮に他人には無理なら、フィールドを解いてから、魔道具を作れば良いだけの話だが、いい感じの実験の舞台が出来て凛奈には悪いが、利用することにしたのだ。
「……っし、んじゃ先ず傷口を出すぞ?」
そう言って、血止めに使っている凛奈の服を避けると……。
「……うわ……。こりゃすげえな……傷口が抉れてやがる……是枝さん?下手したら、傷は残るけど……」
「わかってる!けど、死ぬよりはマシ!ライラも仕方ないって言う!もし言われても私が説明する!だから、早く!」
「お、おう……分かった」
凛奈の迫力に気圧された健吾だったが、気を取り直しすとそう言って頷き、治療がどの様に行われるのか分からない健吾は、取りあえず上半身の衣服を全て剥ぎ取り、序でに使い物に成らなくなったなった布で周りの血を拭き取る。
そうする事によって、必然的に彼女の裸体が顕になる。
しかし、ここで思ったよりも白くて綺麗な肌だなと思ってじっくりと眺めて居ては色々な意味で信用を落とすことになるので我慢することにした。
そして……。
「んじゃ……やってみるぞ?」
と言って脳内画面の魔法カード【天使の口付け】と【女神の祈り】を使用する。
説明をすると、【天使の口付け】は死なない限りどんな怪我でも一瞬で治り、傷も跡が全く残らないという、外科的な治療用のレア魔法カード。
そして、【女神の祈り】は傷等には効果はないが、血液が足りないのや、内蔵の損傷といった、所謂内科的治療用のレア魔法カード。
その二つを同時に使用した結果、天使が寝ているライラの上に先ず降りてきて、文字通り、ライラに口付けをして、その直後背中の傷が綺麗に消える。
「……嘘……傷口が一瞬で?……信じられない……」
放けながら治療?を見ている凛奈の脇で、次の工程が行われる。
次に現れたのは、これまた文字通り女神の様な女性で、その体に向かって祈りを捧げるように両手を組むと……。
「……今度は、血色が良くなってる?……助かった……?」
そう、凛奈が呟いた様に、女神が祈りを捧げてからしばらくすると、蒼白だったライラの顔に生気が宿り、ほんのりと赤みが差し、表情も苦しげな物から、穏やかな表情になっていった。
更に、それからしばらくし傍観していると。
「……ん……ん?ここは?……!そうだ!あの魔物共……グホ!」
「ライラ!ライラ、ライラ!……良かった……ほんっとうに良かった……。あのまま死んだら、私どうしようかと……」
起き上がったライラに喜びのあまりタックルのような勢いで抱きつく凛奈。
その時、あまりの衝撃に上品とは言えない呻き声が漏れるが、クラスメイトや道場の門下生が居ない今(気を失っていたので、前後の状況が分かっていない)気にする必要はないと、苦笑するだけに留め、抱きついて来た凛奈を安心させるべく、背中を摩りながら謝るライラ。
その際、場所についても聞く。
「……心配かけてすまん。……っというか、ここはどこだ?さっきも聞いたが、あの魔物共は……?……!か、神代!?」
安心させようと、凛奈の背中を摩ってやっていると、目の前に学校での顔見知りであり、喧嘩仲間であり、仲のよい友人の神代健吾が、ニヤけた顔で自分を見ていることに気付くライラ。(因みにライラと凛奈は、健吾と違って、ある理由によって魔力を体内で活性化させたり、放出したりは普通に出来るので、健吾の様なメガネなしで今の程度の距離なら互の顔は見える)
「よう!おひさ……っていうか、文化祭ぶり?お前らもこのオンラインシリーズやってたんだな?優等生のお前らがこんな大衆向けのオンラインゲームやってたのは驚いたけど、噂を信じて行動してたとは、更に驚いたぞ?おまけに大怪我までして……。ま、目の保養にはいいけどな?しかし……以前見た時よりは少しは成長したか?思ったよりは大きくなったな。まあ、以前の様な全然ない無乳よりは、微乳って感じのそっちの方が俺好みだけど?」
そう、今は先ほど剥ぎ取った衣服を纏ってない状態。所謂上半身裸。
しかも、血などの汚れは先ほど拭き取って綺麗に成っているライラは、下手なモデルよりも遥かに美人で色気のある色白美少女だった。
しかも、無駄に高性能なメガネを着けている健吾は、その美肌に一切汚れが見えないので、綺麗な肌だなと感心していた。
先程は急ぐであまり見ようとしても見れなかったので、この際だからとおちょくるネタに良いやと思ってじっくり見てやる事にした健吾だった。
「……?」
しかし、肝心のライラには、そんな風に健吾に言われてもなんの事か分からない。
そして、これくらいはサービスしないとダメかな?と思う凛奈も、あえてライラの状態を指摘せずにいた。
そして、ニヤニヤしているままの健吾の様子に気になって自分の状態を上から順番に確認するライラ。
そして……。
「……!!……な!な、何で裸なんだ!?っちょ、ちょっと、凛奈。もう分かったから、離してくれ!ここに獣がいるんだ!早く隠さないと、襲われる!」
自分の状態に気づいたライラだが、何故か両腕を仲間の筈の凛奈にガッチリホールドされ、隠すことも出来ない状態になっていた。
「……神代君?もう(離しても)いい?」
「り、凛奈!?」
そして、何故か親友に売られている事に驚くライラ。
「……ん~、もうちょっと目の保養にそのままで。……因みに九条?」
「なんだ!」
「案外体、綺麗だな。胸……触っていい?」
「……へ?……え、っと……あ、その……」
健吾の言葉に、途端に顔を真っ赤にさせて狼狽えるライラ。
そして、健吾の言葉を真近で聞いた凛奈は少し唖然として当人を伺い見るが……。
(……あちゃ~、あの顔は100パーからかいの顔だわ。……まあ、こんな狼狽えた可愛いライラの顔を見れただけでも良しとしますか)
と思って、そろそろ離してやろうかと思ったが、次の健吾の行動が開始されていた。
「沈黙は肯定って事で……遠慮なく」
そう言ってライラの体(胸)に手を伸ばす健吾。
「……」
そして、覚悟を決めたかのようにギュッと目を瞑るライラ。
「「「……」」」
辺りが静寂に包まれた、次の瞬間……。
「ばーか♪」
ピンっとライラの真っ赤になった先端にデコピンをかます健吾。
「あ痛!」
目を瞑っていた事で敏感になっていた部分を弾かれ、その痛みに思わず叫ぶライラ。
「あはは!すっかりその気に成ってたな?お前案外俺に気があるのか?クックック……あ~スッとした~」
「……え?……冗談……?」
「はは、あったりまえじゃん。確かに俺は見苦しい巨乳よりは形のいい微乳や美乳が好きだが触る相手は選ぶし、同じ触るなら目の前の文句を言ってくるお前より、先ほどのお願いの関係上、是枝さんのを触る方がお得じゃん?サイズも揉みがいのあるサイズだし?……因みに、揉ませてって言えば揉ませてくれる?」
初めのセリフはライラに、後半は凛奈に向けての質問。
その際にライラはあからさまに顔を怒りと羞恥で染めていたが、凛奈が「落ち着いて、ライラ。後で説明はするから」と言って黙らせていた。
そして、質問を受けた凛奈は、苦笑交じりに、ライラを抑えながら応える。
「……ええ、構わないわ。「り……」良いから。こちらはお願いを叶えて貰った。なら、今度はそちらの要求を叶える番……って言っても、別に要求はしないんでしょ?」
「ああ、流石に同じ学校の奴にこんな状況のこんな場所でそういうお願いをしたら、後で関係がどうなるか分かったもんじゃない。それに未来の事もあるしな。あいつがこの世界へ来たら、話し合ってから合意の上でなら火遊びもしたいって気はするが、今はする気は無いよ。……男としては目の前の人参をお預けにしてる様で勿体無くはあるが、後々の事を考えたらその勇気は持てんわ」
「お前ら、何の話をしているんだ!分かるように説明しろ!」
健吾の分からない者には分からない言い方が感に触った様で、遂に怒鳴り上げるライラ。
「……もう離していいかな?神代君?序でに私と同じ様なので構わないから、服をくれる?服を着させる序でに説明するから」
ライラの怒鳴りを無視し、そう健吾に尋ねると……
「……ああ、是枝さん。もう十分楽しめたし、堪能したから、早く服着せてやってくれ。……ほれ」
凛奈の問いに、そう笑顔で答えると、健吾は凛奈に渡した時の様に、生活用品の中から適度なサイズの服を選び、凛奈に渡す。
「分かった。……ライラ、これ(着て)。その後、何があったか説明する」
「……分かった。……神代は向こうむいてろ!絶対見るなよ!?」
「へいへいほ~♪」
「……」
呑気な健吾の応対に、物凄い形相で睨みつけるライラだが……。
「まあまあ、ライラ。理由は話すから、あまり彼を怒らない。私たちがこうして無事なのは、彼のお陰なんだから」
「……!?な、なんだと!?どういうことだ?!凛奈。全然意味が分からん。分かるように説明してくれ!」
「うん……、実は……」
そうして、ライラが渡された服を着ている最中に、大まかな状況説明をする凛奈。
「……」
その説明に、呆然として、呆けるライラ。
そして、全てを聞いたライラは……。
「それじゃー、あたしたちは神代に恩が出来たというわけか?……しかも、命を救われるという尋常じゃない様な恩が……」
「ええ、そう。私の家でも、ライラの家の教えでも、人から受けた恩には相応の礼で報いろっていう言葉がある。ただ、現実では……ってここも言ったら現実なんだけど、地球ではそうそう命の危険がある事が無かったし、そういう状況には私たちの家の関係上なる事は先ずなかった。けどここでは違う。さっきみたいに何時何処で襲われるか分からないこの世界では、この受けた恩はそれなりの価値がある。だから、神代君次第だけど、彼には返そうにも返せない位の恩が出来た事になる。そして、説明したようにさっきの私たちを助けてくれた彼の召喚獣は私たちから見ても驚異的な力が有った。……だけど、ライラも知っての通り、召喚士には致命的な欠点がある」
「ああ、召喚士の存在するのはテクノガイアだが、あの世界の召喚士は、己の身体能力は鍛えることが出来ない。……だから、あたし達はその不足分をカバーする事でしか、恩に報いる事が出来ない……って事になるな……」
凛奈の説明に、ライラは諦めた様に苦笑しながら借りを返す方法を考える。
「ええ。……若しくは、体で満足して貰うか……ね?ライラ?」
「……ああ!その通りだ!悔しいがそれしかない!……ああ、もう!何でこんな事に!」
あまりの事に頭を抱えるライラだが、現状では文句も言えない。
そして、致命的な指摘を凛奈にされる。
「まあまあ、なってしまった事は仕方ない。この際、学校でいやらしい目で見てくる他の奴らや、それこそ野党やホームレスの類でなかっただけマシだと思わないと……。はっきり言って、嫌いじゃないんでしょ?っていうか、好きな部類でしょ?彼の事」
「……」
図星を刺されたのか、押し黙るライラ。
その事に苦笑していると、不意に健吾から声が掛かる。
「お~い、まだか~?是枝さんみたいに胸がそこそこあるんならまだしも、九条はあんまり大きくないのに、そんなに時間掛からんだろー?俺も少々聞きたいことがあるし、そろそろ寝床を確保しないと時間的にやばいし、なるべく急ぎたいんだけど~?」
「……」
「ラ、ライラ?怒らないで?ね?」
健吾の言葉に、先ほどよりも尚悔しげな表情になったライラを、必死に宥める凛奈。
そして、着ること自体は済んでいるので、こちらを見る許可を出す。
それから、自分たちに聞きたいことはなんなのか聞く。
「……も、もういいよ?神代君。……で?そっちの話って?私たちで分かることなら、幾らでも応えるよ?恩人に対して、それ位の情報提供は当然だから」
「ああ。その情報ってのもそうだが、俺が聞きたいのは二人がこの世界に来た経緯だ。俺はブログの噂を信じてガチャを引いて気づいたら……だけど、君らはどうなのかと思ってな?」
健吾の質問に、首を傾げながら凛奈が応える。
「?……私達は噂なんて知らない。唯いつも通り生徒会の雑用が終わって、その後二人で互の道場に顔を出した後、今日は私の部屋の番だったから私の部屋で一緒にカプセルベッドに入ってログインしただけ」
「ああ。それから、一時間少しか?したら急に視界が暗転し、気付いたらこの森に居たんだ。……因みに一緒に入ったとは言っても、凛奈の部屋に置いてある二つのカプセルベッドに別々にって意味だからな?変な性癖だと思わないでくれ?」
「……それを聞かなかったら、俺はお前らが同性愛嗜好者だと勘違いしてる処だ。……因みにお前らはノーマルか?」
「ええ、安心してくれていい。性癖という点では至って普通。まあ、幾ら普通とは言っても、好きでも無い男性よりは、お互いの方が断然良いって位は双方とも想いは通じ合ってはいるだけ。けど、素敵な男性が現れたら、互いにライバルになるかもしれないけど、今のところはその心配はない。……だから、こんな風な事もするよ?」
凛奈は少し艶をだした声でそう言うと、徐にライラの服の中に手を入れ、無遠慮に揉みしだいた。
「あ……こら、凛奈。……ん……ちょ、そんな……事した…ら、勘違いするだろが!」
「アイタっ!」
胸を揉んでいる最中だったので、気がつかなかったのか、ライラの拳骨をモロに頭に落とされ、両手で叩かれた部分を摩る凛奈。
しかし、その際、ライラには見えないように、健吾の方を見ながらペロッと舌を出して微笑む凛奈がいた。
どうやら、目の前で見てる健吾にサービスしているようだ。
しかし……。
(……まさか、計算してやってるのか?それだとしたら大した玉だが……。っていうか、あいつらは普通にしてたけど、仕草の一つ一つがヤケに艶かしいな。本気で俺たちと同い年か?九条はまだしも、是枝は実は背が低いだけで、二十歳位行ってんじゃないのか?)
心の声を聞かれたら、講義されそうな想像をしていると、凛奈が健吾の方へと何かを言いたげに向いていた。
「?どうした?是枝さん?」
「あ、いえ……っていうか、これから一緒に行動しないといけない恩人に苗字で呼ばれるのも変だから、出来れば名前で呼んでくれない?……ライラも、いいでしょ?」
「……ああ、それくらいは構わない。流石に命令口調は嫌だと言いたいが、先ほどの説明ではそれも致し方ない。仮に体を要求されても、命があるだけマシだと思わなければならんからな。……こんな事で凛奈が嘘を吐くとは思えんし」
そう言って、本当に悔しそうに名前で呼ばれるのを了承するライラ。
「ははは……。……で?それとは別にして、何か俺に聞きたいことがあるんじゃないのか?これ……凛奈……ちゃん?」
「凛奈でいい。健吾……さん?」
「いや、せめて君で頼む」
「OK。健吾君」
「ライラは健吾様な?」
「何であたしだけ!?」
「ははは、冗談だ。ライラも好きに呼べばいいよ」
「……なら、あたしは健吾と呼ばせてもらおう。さん付はなんかムカつくから」
「ハハハ……、まあ、いいけどな?……で?さっきの続きだけど?凛奈?」
「ええ、私達の場合はさっき言った経緯で、この森に来て、アイテムも使い果たして魔法……ああ!?そうだ、魔法があったんだ。あの時も魔法の事を思い出してれば、回復魔法で少しはマシだったのに……まあ、今に成って気づいた所で、あの状況では変わり無いか。どちらにせよ、そこのお兄さんに助けて貰わないと、私達の力ではあの場に居た魔物を殲滅するのは無理だっただろうし……」
今頃に成って、自分の回復魔法という治療手段が有ったことを思い出す凛奈。
そう、凛奈もあまり使わないので得意では無いが、キチンと回復魔法を使えるのだ。
しかも上級のを。
しかし、気が動転し思いつかなかったのも事実なら、あの場では再びライラを治療して二人に為ったところで、あの大型のゴリラを相手には少々分が悪かったのも、また紛れもない事実。
そういう理由で、もう終わった事と考え、気を取り直して健吾に聞きたいことを聞く。
「……コホン。っと、続きを言うと、アイテムを使い果たした後は、魔法で水分補給をしてから、ゲームが正常に戻るのを待ってたんだけど……何時まで経っても元の場所に戻らないから、二人でこのあたりを散策してたの。そしたら、周りを取り囲まれて、後はライラの体力が限界に達して……それで魔物の攻撃を受けて今に至る」
「……ふ~ん?……まあ、そっちの経緯は分かった。俺はさっきも言った様に、ブログで噂されてる真相を確かめてたら、変な建物の中に居て、そこを出たら、この森だったって理由だ」
「その噂って?」
「ああ、実はな?」
それから、健吾はある程度の者なら知っている噂の事をそのまま伝える。
そして、それを聴き終えた二人は……
「「……」」
無言。
まあ、当然だろう。
言うなれば、莫大な金の掛かる異世界(ゲーム世界)行きのチケットを時間を掛けて手に入れ、そして自ら死ぬかも入れない旅に出ようとしているのだから。
「ま、まあ……健吾君の血迷った行動のお陰で、私達が助かったと思えば、感謝しなくちゃイケナイ事?なんでしょうね?……私には暇人の血迷った行動にしか思えないけど……」
「同感だな……っていうか、健吾の家って何か会社でも経営してるのか?それ程の金を無駄にしてまで出来る程の資金は、普通の家では無理があるぞ?凛奈の是枝財閥の資金力でも、それだけの金を使うとなると、色々な場所に書類を提出して経済コンシェルジュからの許可を受けないとダメな額だ。……なあ?」
「ええ」
「……ってことだが、……どうなんだ?健吾」
ライラの確認に首肯した凛奈の反応を受け、質問された健吾は……。
「ああ、それに関しては心配ない。……心配してないって言うかもしれんが、それは置いといて」
と、ジェスチャーを交えて言ってから……。
「お前らは他人の生活に大して興味が無いだろうから知らないと思うが、俺はちょっとした事情があって、最近……というか、高校入ってからくらいに金には困らない生活になったんだ。その気になれば女の子を囲う生活も可能なほどにな?……まあ、ライラは学校での俺の話を知ってると思うけど、伊藤未来って俺の幼馴染が、そんな事を俺がしたら泣くかもしれんし、オヤジ達も何を言うかわからんから、まだやる気は無いけどな?」
そんな風に、健吾が言った内容を吟味し、そしてその金に困らない生活の基準が気になったライラは、興味半分で聞いた。
「ふ~ん?因みに財産でいうとどれくらい有るんだ?」
その言葉に、健吾は狂った金銭感覚で、相手の考えを気にしないまま当面扱えていた金額を応える。
「う~ん、あまり真剣に計算したことは無いけど、多分お前らの家よりも多くなってるんじゃないかな?確か、……株の必要最低運用資金だけ言うと、10兆位だな。家絡みの会社関係込になるとまたわからんけど」
「「……ぶっ!……ちょ、兆!?」」
健吾の返事で、それまで無表情で微笑んでいた凛奈でさえ吹き出した。
ライラに至ってはその綺麗な美貌を驚愕に染めていた。
何故なら、それは二人の家の財政と殆ど変わらないどころか、遥かに多額の貯蓄額なのだから。
そして、更に二人に驚くべき……呆れる返答をする。
「そんで、金に困らなくなったら急に欲が出てきたんだ。具体的にはさっき言った様に、ちょっとしたゲームの噂の真相を確かめたくなったんだ。……そして、それを実行できる金も有ったからな」
「「……」」
驚きの貯蓄額に少し戸惑う二人。
そして、先に気を取り直した凛奈が、自分の予想を話す。
「では、健吾君の話を統合すると、そこのどう考えても悪魔にしか見えな召喚体であるお兄さんの魔力が可笑しいくらい高いのは、この世界に来た影響も少しはあるってこと?そして、さっき私やライラに渡してくれた服は、そのガチャの品物だと?更に、便利すぎるくらいのその魔法は、その方法でこの世界に来た恩恵?」
「ああ、そう思う」
凛奈の問いに首肯する健吾。
「……じゃあ、次にカードだけど。……健吾君は、もう全てのカードと役割を把握してる?」
「いや、無理だな。何といっても数千枚以上という数があるんだ。種類にしても小分けにはしてあるが、流石に全てを管理するのは無理だ。しかも、詳しくはまだ検証中だしな。どうにも説明書の内容が途切れ途切れでな?それに、俺自身未だにこの世界の召喚士の力を把握できてないから、それも検証中だ」
凛奈の質問を、当然と言うように否定する健吾。
それも仕方ない。
なんせ、愚者のカードだけでも数百種あるのだ。
種族的に見ても、人種から始まり、魔族、獣族、亜人、龍から、機械に至るまで、多種多様。
これを把握しきれという方が無茶だろう。
だからという訳でも無いが、二人に協力を頼む事にした。
「……だから、お前らも何か提案してくれれば、色々と分かってくるかもしれないから、気がついた事は言ってみてくれ。因み、色々な材料の消費はあるから、成るべく無駄な出費は避けたいから、そこらへんは考えてな?一応、検証の結果、持ってるカードを掛合わせて新たな物を作ったり、生活用品を作ったりも出来る」
「じゃあ、消耗品を作るのはどういった物なら大量に作って大丈夫?」
「それは……あくまで今の段階では……だが、主に肉系の食料品だな。肉はこの森の関係上嫌というほど手に入ってる。その際に牙とか爪とかも手に入ってるから、そういう系統の物が要りそうな装備品は恐らく大量生産可能だ。だから、さっきお前らが倒した魔物と、サマエルが倒したのをそこに持ってきてるみたいだから、消耗品の材料は結構あると思う」
「……では、次に生活用品同士をかけ合わせて、新素材を作る事は可能?」
「恐らくはな?」
凛奈の様々な問いに時に首肯し、時に意見を言う健吾。
そして、次に聞いてきたのはライラ。
「じゃあ、斬撃や打撃を軽減する装備は作れるか?……どうもさっきの事が頭から離れないんだ。気がつかなかったのも不覚だが、それでもまともな装備なら、少しはマシだったはずだからな」
「ああ、それなら恐らく今ある素材でも、あと数人分は作れる。……俺も話を聞いたら、今の装備に斬撃に耐えれる効果を追加したくなったから、丁度いい。……待ってろ?……サイズは……うん、あまり変わらなそうだな?」
言葉の最後の方には明らかに体を見たあとの反応があったが、ライラは「むぅ~」と唸るだけであった。
恐らく、助けて貰った事で、この程度の嫌がらせは気にしないようにしたのだろう。
まあ、健吾としても、反応が面白いからからかうのであって、相手にされなかったらそもそもからかう事もしなくなるが……。
「んじゃ、ちょっと待ってろ?今やってみる」
「お願い。……そうだ、健吾君?」
「……?なんだ?何かいい案があるなら、なるべく纏めて頼むぞ?」
折角脳内での作業をやろうとした矢先、不意に呼び止める凛奈に少しだけ不快そうに眉を顰めて何事か聞く。
「御免。一応だけど、魔法を籠めて作用するような、所謂魔道具の原型的な物を作れるのなら、拳銃みたいなもの剣みたいなのと、魔法書みたいな物を作ってくれない?私の魔法は、その殆どが詠唱が発動キーになってるけど、物(魔道具)があれば、それに魔力を籠めれば結構な威力で使い勝手も上がると思うし、ライラの魔剣と魔銃にしても、魔力で形成するのより、道具に魔力を篭めるやり方の方が、恐らく使い勝手もいいと思う」
「ふ~ん……って、お前ら!まさかゲームの発動キーになる詠唱全部覚えてんのか?めちゃくちゃ長い文章もあるぞ?それにこの世界で魔力を篭めるってどうすれば良いか分かってんのか?無駄に凄い奴らだな……」
何故か普通に魔力を篭めるや、発動キーがどうとか言っているから、スルー仕掛けたが、健吾の目の前の美少女にして、才女のお二人は、無駄に記憶力と感覚神経が発達しているようだ。
実は健吾が魔力のナンタラを必要としない召喚士を選んだ理由は、この無駄に長い詠唱と、体の魔力変換という特殊な感覚がどうにも上手く出来ない為の物だ。
そして、この感覚が上手く行くプレイヤーは、各種魔導を使う職業の数少ない最上位レベルにまで達することが出来るのだが、そのような者は極僅からしく、見事に出来た者は、オンラインファイナリストとしてIDが殿堂入りしている。
勿論、魔法やスキルを使うだけの場合なら、普通に個人画面の魔法欄及びスキル欄にそれぞれ固有の詠唱が載っているので、それを選択し使うことで魔法を使用することは出来るが、それも上位レベルまで。
各魔法職の最上位魔法になると、全て詠唱を唱えるなり、手や足の中の中国拳法で言う気功の様な物を使って発動しないと扱えない仕様に成っている。
因みに出来なくても上位までなら普通に行けるのだが、凝り性な健吾はどう考えても到達できないモノには進むことはせず、あえて最初の間は最低ランクの使い勝手である召喚士を選んだ。
その結果が今のチートである。
「まあね?私もライラも、家庭の道場でそこそこ鍛えられてるから、見た目よりは運動神経も体内の感覚伝達の効率も良いよ?……ね?ライラ」
「ああ。そして、お前程度の頭では、覚えられない詠唱も、全て記憶している。……という事で、遠慮なく頼む」
「……分かった」
何やら失礼な事をライラが言った様に気がするが、文句を言うと揚げ足を取られかねないので、黙って言われた物があるかどうかを検討する。
そして、魔法カード関係を見ていると、ちょうど良さそうな物を見つけた。
(グロック25口径の自動小銃をモデルにしてる、【機械:グロック銃】をベースに、【力:魔力:皇帝】ってカードを使って魔銃に変換すれば、ライラ用の魔道具の出来上がりだな。……にしても、俺の服や靴はそのまんま使える物だったから分からなかったけど、こうして色々と見たら、まだまだ面白い発見があるな。……っと、他にもあるから、チャッチャと作ろうか)
健吾は色々と考えるのを止め、兎に角物を作ることにする。
最初に手掛けるのは、先ほど考えた魔銃。
それを作るのに、戦闘画面のままではあるが、出来るかな?と思って脳内土鍋を出そうとして……どうやら出来ないようだ……。
「……悪い、二人共」
「?どうしたの?」
「なんだ?やはりお前自身の物では無いから、やりたくないという事か?それなら見当違いだぞ?これはお前ん護衛をすることになるあたしたちの戦力増強の為の物だから、惹いてはお前自身の為のことだ。試しに作っておいて損はないぞ?」
健吾の謝罪に勘違いを起こすライラ。
そして、健吾はそれを慌てて否定する。
「いやいや、そうじゃない。なんか、今やってみたらカード自体を実体化するのは出来るが、脳内でカードを掛合わせて新たな物を作成するのは、このフィールド内では出来ない様なんだ。……恐らく、魔道具を作るのなら、そのまま魔法カードを使ったり、召喚体を使う方が効率的に良いから、互いに干渉する物は出来ないようになっているんだろ。……だから、一旦フィールドを元に戻……の前に、戦力は多いに越した事は無いから、唯一の魔導生命体であるクラミだけ出しとくか……《実体化》」
説明の後に、クラミを呼び出す健吾。
そして、健吾の声と共に、手に持ったカードが光輝き、その直後、以前よりホンの少し大きくなった狐の魔導生命体、クラミが再びこの世に顕現した。
そして、その狐を見た瞬間、二人は……。
「「か……可愛い!」」
と、叫ぶのであった。