1話 森を移動ー2
「お、美味いなこの肉!単に熱が通ってるだけなのに、何でこんなに程よい旨みが染み出してるんだ?」
「それは、多分魔力が篭った肉だからそういう風に味わえるんだと思うよ?僕がパパに出して貰った肉を鑑定してみたら今の僕の魔力では鑑定できない程の良質の魔力が篭った肉だったから。その魔力のお陰でパパの魔力が上がる際の感覚が旨みとして出ているんだよ」
太陽の光も届かない薄暗い中での食事は些か気分を安穏とさせるが、漂ってくる肉の匂いに耐え切れずに食事を開始した健吾とクラミ。
食事を開始し、肉を一口食べた健吾の呟きとも取れる感想に律儀に反応し、意見を出してくれるクラミ。
なんというか、あまり獣と会話している感じでは無いのだが、実際に目の前にいてテーブルの反対側で肉をフーフーと言って少し冷ましたあと、噛みちぎりながらハグハグと食べている姿は獣の食事そのままだ。
「ふ~ん?けど、魔力がどのくらいで良質とかは俺にはさっぱりだぞ?」
「そんな事僕にも分からないよ?けど、この目で視れない事が、イコール保存魔力が高い良質の肉であることは間違いないよ?一応この眼はそう言う風に出来てるんだから。って、そんな事はパパには説明書があるんだから一々僕に言われなくても分かるんでしょ?」
「あ、そういや肉のカード毎にも説明が書いてあったな。まあ、食材に使用した肉の魔力がどの位あるのかはもう手遅れだが、これから説明書きを見てからなるべく高い魔力のカード肉から使って行くことにしよう」
「あ、じゃあさ?これから取りに行く野菜とかも一応調べてみてよ。もしかして野菜にも魔力が篭められているかも知れないし」
「ああ、そう……っていうか、それなら今ある野菜のカードの説明でも分かるんじゃないか?」
クラミが言って来た言葉に納得しかけるが、そもそも野菜なら何でも良いのであれば今ある物を一応調べる事くらいは出来るはずだ。
調べるだけで使用する訳では無いのだから。
そして、野菜のカードを調べていると、こちらは自然と言うべきか、カードに魔力量の表示が一切なかった。
「……?肉には魔力が有るのに、野菜には無いのか?なら、野菜は純粋に味を楽しみ為の物と、栄養を摂取するだけの物って事かな?」
「そうなるのかな~?まあ、他の食材とかにも魔力がある物は多いだろうし、一般的な食事にどれくらいの魔力があるかで、これからの食事事情も変化するんじゃないの?」
「だな」
こんな風に適当に会話をしている間に肉を食い終えた健吾とクラミは、調理器具をカードに戻したあと、早速食材探し(クラミ曰くデート)をするべく行動を開始する。
具体的には健吾の食事によってどの位魔力が上がったのかの検証をしながらの食材探しだ。
それには先ず、健吾の戦闘画面の活用法を上手いこと考えなければ行けない。
「……じゃあ、今から探しに行くわけだけど、お前は俺の召喚魔法の事をある程度認識してるのか?」
「それは何とも言えないよ?言ってみれば、パパが分からないことは分からないからね。単にパパが忘れていても僕が忘れていない可能性が出来て、便利ってだけだよ。それに、その戦闘画面?ってのを見れるのもパパだけだしね?」
「成る程……」
「あと、パパの魔力で命が繋げてるって事なんだけど、別にパパの頭の中身がそのまんま分かるって事じゃなくて、一応カードに戻った時に知識と記憶が更新?されるみたいだよ?……後はわからないから、パパが説明書を見て知識を得てくれた後、僕や他の子達も一緒だけど、カードに戻してくれればその時点の知識は得られると思うよ?」
「……了解……」
どうやら本格的な説明書の読破をしなければならない様だ。
それに、説明書で書かれていない事柄もそこそこあるので、常に実験は必要と言うことである。
しかし、この事は逆に健吾の未知の物への探究心を刺激させる材料になった。
それからは、本当に手探りの実験の開始だった。
先ずはどうやったら戦闘画面になるかを検証。
これにはそこそこ応用を利かせる事が出来た。
具体的には虫であれ、動物であれ、生きている物であれば、その動物を視界に納めて生贄召喚に必要な戦闘用触媒炉を出すことが出来れば戦闘を開始できるようだ。
そして、その動物及び植物との距離が広ければ広いほど、健吾の戦闘フィールドも大きくなるようだ。
また、ある程度の距離なら、目標にしていなくても敵が現れた時点で戦闘行為が継続されるらしい。
従って、健吾の戦闘画面の発動条件は視界の中に標的が居る事と戦闘を行うことができるフィールドが展開できる魔力の容量が合わされば戦闘開始となるようだ。
「……っし、取りあえず今そこのウサギを標的にしたから後は生贄召喚の方法を色々検証したいから、お前は少し其の辺の餌に成りそうな動物を魔法の練習台にして遊んでな?」
「は~い」
そう言ってクラミは健吾の横から離れ、適当に辺りをぶらつきだした。
本当は一緒になって戦闘したほうが経験的にも積めるのだろうが、今は健吾の検証に付き合っている間にもクラミ自身が敵を倒して魔力を吸収したほうが良いと思い、健吾は指示を出した。
これは先ほど調べてクラミ自身にも確認したが、クラミはガーディアンである以上、個人の魔力もある程度は高める必要があり、その為の魔力肉(マンガ肉)の摂取なのだとか。
「じゃ、俺は俺でウサギ相手にオーバーキルの実験を開始しますかね?……今回は相手が大人しいから生贄が殺される事が前提の召喚は無理だから、ワンターン・キルに近い戦闘法の実験をしようかな?」
そう言って健吾は目の前に現れた戦闘用触媒炉に生贄となる【愚者:人種:農民】をベースに成長促進のカードと【妖剣マサダチ】のカードを魔法陣にして与え、【愚者:妖怪:妖剣士】にして待機させる。
その次に【下位戦闘フィールド:魔沼】を召喚し、健吾とウサギのいる今のフィールドのみ妖怪の棲み易い沼に変える。
ゲームの時と同じなら、こうする事で健吾の配下の者たちは勿論、相手にもフィールドの影響が身体能力に出ていたはずだ。
そう思って健吾は自らの陣地に居る妖剣士を見ると、確かに体に纏っているモヤが濃くなっているのが分かる。
更に健吾は【愚者:拳人】バルトを召喚し、それに先ほどの【成長促進】のカードと魔法カード【進化の光】を使って【闘人:鬼族】バルトにして待機させる。
後は【愚者:ゾンビ:魔族】を4体召喚して健吾自身の傍に護りの生贄として配置し終了だ。
「……っし、後はこのまま何もせずに居たらどうなるかだな?ゲームでは相手がパスを選択するか、考察時間の一分を過ぎれば同時にこちらのターンに成っていたが……」
ドガ!
「……な!?」
「な、何があったのパパ?」
健吾が感想を呟いてる時に、ドガっという何かが近くの物に当たった音とバキ!っという木の破砕音がしたと思ったら、健吾の認識範囲外からの魔弾での攻撃がフィールドに影響を与えてきたらしい。
それを少し離れた場所で聞いたクラミも何事かと聞いてきた。
しかし、これには健吾の頭もパニックになった。
なにせ、ゲームでは一旦戦闘の状態に入れば他所からの介入は不可能で、周りからは認識されないはずだったからだ。
なのに健吾の望遠システムを使った凡そ500メートル先の石ころを見分けられるだけの視力の感知外(森の視界上今は精々50メートルが山だが)からの何者かの攻撃。
慌てない方が可笑しいだろう。(健吾は忘れているが、先ほどの説明書の検証で、認識していなくても敵が現れた場合は戦闘継続なので、別に不思議な事態ではない)
まあ、結果的には検証の良い材料になった訳で、健吾が認識できていない範囲外からの物であっても攻撃されたと言う認識があったから生贄の召喚が可能になった事が幸し、上位者を召喚できるので良かったのだが。
「クラミ!お前の今できる魔法の中で、感知タイプの魔法があったらさっきの攻撃の発生源を調べてくれ!誰かの戦闘の流れ弾って可能性もあるから、閃光弾みたいな奴で頼む!」
「分かった!さっきの食事と今の運動で少し使える魔法が増えたからその中に有るみたいだからやってみる!」
クラミがそう言うと、後ろ足を地面に着けて前足を上に掲げると、何かの魔法の詠唱を始めた。
「我クラミの名の元に命ずる。大気に漂う獣の精霊よ、我の意思に従い標的の居場所を示せ【狐魔法】《追尾炎」
クラミの詠唱の後に、その上から魔法陣が浮かび上がり空からきつね色の光が上がる。
しかし、それも一瞬の事で、光はすぐに消えてしまった。
恐らくまだクラミの魔力が低いせいで相手の魔力の抵抗力に負け、魔法が作用する時間が少ないのだろう。
しかし、今ので健吾の脳内にはハッキリと大凡の位置は確認できた。
予想よりも遠距離だが、十分に召喚エリアの範囲内だ。
そして、範囲内だと分かったらやれることは多い。
更に、今のは明らかに攻撃(恐らく魔法による物)だった。
よって、敵(?)の出方が分からないならこちらからやってやることにする。
なのでこれから健吾は守りと敵の捕縛を召喚体に任せることにした。
今回の敵は見えない距離にいるのでは空を飛べる者が良いという判断で、勝手知ったるゲーム世界のデッキで、堕天使デッキの上位者を使ってみることにする。
先ずは先ほど都合よく生贄に用意した【愚者:ゾンビ:魔族】4体を使って悪魔族下位種の最上位【プチデビル:悪魔族】サマエルを生贄召喚。
更に魔法カード【進化の光】と【成長促進】、魔力保存量200万と書かれたカード肉を同時に魔法陣の中に入れ、サマエルの上に被せ急成長させる。
実はこれ以上に魔力保存量の多いマンガ肉もあったのだが、恐らく健吾の魔力がまだ低いため、制御できないのが原因で黒く表示されていた。
今のところ扱える魔力量はこの200万のマンガ肉迄のようだ。
そうして、成長して魔法陣から現れた堕天使の中の上位種【デーモン:黒翼種:悪魔族】サマエルと書かれたデータが画面上に表示された2枚の翼を生やした美青年は、健吾の方を向いて命を尋ねる。
「マスター、ご命令を」
その問いに健吾は頷き、先ほど光った対象並びに仲間の様子を確認するのと、戦闘状態で人間と魔物なら人間を助けてくるように頼む。
「ああ、要件は簡単だ。あっちに誰か戦ってる奴が居ると思うから、確認してくれればいい。もし苦戦してたら援護も頼む。そんで、戦闘が終わって恩が売れたら連れてきてくれ。色々と交渉したい」
「了解しました」
健吾の要求に一つ頷くと、その2枚の翼を羽ばたかせ、戦闘を行っている気配の元へと飛んでいった。