表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/7

1話 森を移動ー1

 扉の先にあった景色は、一言で言うと森だった。

 しかし、単に一言で……というだけで、健吾が知る神社の裏手の森とは圧倒的にスケールの違うジャングルではあったのだが。

 そして、見渡す限りの光景に言葉を失って数秒。

 こんな場所では望遠鏡の意味が無いと思った健吾は、危険なのは分かっているが細心の注意を払いながら前進した。

 その間にも周りの木のザワめきがいやに煩く聞こえたりしていたのだが、例のイヤリングの魔道具の影響だと思い、先へと進む。

 生憎木々が想像を絶する高さなので、昼か夜かも分からない程に日光が届かない。

 その為薄暗い視界の中での視覚と聴覚を頼りにする移動となった。

 そうして歩くこと30分程度。

 微かな物音と共に何かが目の前に躍り出たかと思えば、赤兎馬ほどの大きさの巨狼だった。

 確かこいつはテクノガイアで見たことのあるデータのそのまんまだとしたら、皇帝狼エンペラーウルフという狼だったはずだ(運営のネーミングセンスを疑ったのは記憶に新しい)。

 その狼が健吾の前で「ハ…ハッハ‥…」と言ってヨダレを垂らしながら食事を見つけたことに喜んでいるようだった。

 それに対して健吾は、戦闘の練習の良い実験台が手に入ったと口元を歪めているが、狼にはそんな事は察しがつく筈も無く、後ろ足で地面を掻いて、何と話しかけてきた。


「お兄ちゃん、この森では見ない顔だね?僕は人間で言うこの【王狼の森】のこの辺り、森の南側を統括してる狼の子供だよ?人の呼び方では【南大狼君なんたいろうくん】っていう狼種の子供だね。美味しそうな匂いに釣られて来たんだけど……もしかして戦う気満々?」


 王狼の子供を名乗った狼はそう言いながら大きな頭を横に傾げて問うてくる。

 その問いに驚きながら、健吾は別の意味で重要な事を確認していない事を思い出した。

 それは、この世界の健吾の戦闘方法についてだ。

 狼は今だ問いかけに夢中で、戦闘態勢には入っているが、こちらの反応を待っている様だ。

 対して、健吾は未だこの世界の召喚士の戦闘の方法を分かっていない。

 この世界では地球のインターネットのような戦闘時にターン制になるような特殊なフィールドに変わる制度があるか分からない。

 しかし、生贄を捧げるなどの項目がある以上その隙を作る必要があるとは思うのだ。

 だが今のところ頭の中にそういう戦闘行為の画面が現れる気配がない。

 もしかしたら……だが、このまま行き当たりバッタリで戦闘を開始せねばならないのだろうか?

 しかし、このままジッとしていても仕方ないので、取りあえず狼の注意を会話で逸らしながら生贄召喚の準備を始める健吾。

 何故なら召喚士の戦闘にその行為は必須だからだ。

 つまりは生贄召喚が必要のない【愚者】のシリーズの内、上位召喚体へと繋げることができる【愚者:聖職者:信者】と【愚者:人種:農民】の3体ずつの生贄自体の召喚である。

 画面の説明によると、今の所の健吾の一度に戦闘フィールド上に配置できる生贄の数は6体。

 勿論、通常時に一定条件の素材でガーディアンとして召喚した魔導生命体はその限りではないが、戦闘フィールドで生贄召喚をする場合は、現時点での戦闘開始の初めのターンは6体が限度らしい。

 そして、6体を召喚した直後、自動的に頭の中に生贄召喚の戦闘用触媒炉が目の前に表示される。

 どうやらこの戦闘用触媒炉が出ることが召喚士の戦闘開始の合図のようで、その確認が出来た事でやっとこの世界での初めての戦闘という実感が出てきた健吾。


「それがな?俺は今まで戦いをしたことが無いから、どうやって戦ったら良いか分からないんだ。だから、先手を貰えるかい?」


「あはは。先手を貰うって時点で戦う気満々だよ、お兄ちゃん。……良いよ?僕も久しぶりの狩りだから、そのくらいのハンデは上げるよ。……どうぞ?いつでも良いよ?」


 意外と話の分からる子供だったので些か拍子抜けの感があるが、健吾にとっては好都合。

 そして、宣言通りに健吾は動く。

 己の見える範囲の半分より手前側が、自分のモンスターの初期召喚フィールドとの説明通り、信者と農民を狼の前に召喚し、攻撃をさせる。


「おっと!」

「……」

「……」


 目の前に突然現れた獲物の攻撃を軽々と躱す狼。


「今度はこっちの番だね?トウ!」


 そして狼一声発すると、前足を一薙攻撃してきた信者と農民を一気に屠る。

 簡単に倒されたのは虚しいのだが、こちらの信者と農民は只カードに戻るだけなので痛くも痒くもない。

 そして、先ほど相手に攻撃された事により、生贄召喚が可能となった。

 ここからが漸く戦闘実験の開始だ。

 先ず、屠られた信者の代わりに【愚者:犬種】ポチと【愚者:猫種】タマを召喚し、狼に充てる。


「ウワ!また出た……よっと!」


 そう言って先に出ていた農民2体と信者の1体がまたしても一薙の内に屠られる。


「ねえ!!こんなのばっかり!他に無いの?そろそろ飽きたよ!?」


「いやいや、早すぎだろ!?まだこれからだぞ?!」


 どうにも弱い奴らの相手ばかりでストレスが溜まって来ているようだ。

 こちらとしては、上位の召喚まであと少し。

 狼が暇そうにしてるので、先ほど召喚したポチとタマを嗾ける。


「さっきの子達だ!エイ!」


 そう言ってまたしてもいとも簡単にカードに戻す狼。


「ねえ!そろそろ狩りがいのあるやつ出してよ!……でないとお兄ちゃんに直接攻撃するよ!?」


「まあ、慌てるな!こっちにも準備があるんだから」

「そ~?何かあるんなら早くしてよね?面白い戦い方だから殺すのを待ってあげてるんだから」

「分かった」


 健吾はそう言うと、最初に召喚していた農民を一体生贄にして触媒炉に叩き込み、【悪魔騎士:悪魔族】サブリナを生贄召喚する。

 更にそのサブリナに魔法カード【魔剣デビルソード】を装備させ、更に【魔装グレムリンメイル】で防御力を上げる。

 そのなんとも格好の良い獲物に狼も嬉しそうに


「お!?これは倒し甲斐ありそう!!」


「その前に、もう三体追加だ!」


 健吾はそう言って、サブリナの前面に農民を3体配置する。


「もう、そいつらには飽きたよ!?」


 吠えながら狼は召喚されたばかりの農民を一瞬で屠る。


(よし、これで1段階終了!)


 ここで漸く一段階目の特殊召喚の条件が満たされた。

 新しく加わったカードの中には特殊な条件召喚の必要な物が幾つかあり、【愚者】が一定数屠られて初めて生贄なしで特殊召喚出来る召喚体のリストがあった。

そしてリストを見て分かったのだが、どうやら健吾の魔力で召喚できる範囲の召喚体でないと初めから召喚リストに載らないようだ。

 どうしてそんな事が分かるのかは、リストの中に白く表示されている者と黒く成っている者があり、黒く成っている者には【魔力不足】やら、【素材不足】やら理由が表示されている。

 どうにも分かりやすい説明で、何かしらの意図が見え隠れするが、今のところ便利な事に変わりないので気にしないことにした。

 そして、今のところの健吾の魔力で特殊召喚できるリストの中の一体が【魔術師:ハイエルフ】だ。

 表示されている条件の中には、屠られた数によって階級が決まり、5体初級、10体で中級、15体で上級といった具合に生贄の数が多ければ多いほど階級の高い召喚体をリストから特殊召喚できるようだ。

 実は他にも特殊召喚の為のトラップカードや強制的にフィールドを作り変えてしまうフィールドカードもあるのだが、今の健吾には魔力的な無理があるらしく、その殆どが黒く表示されていて使うことができない。

 そして、今サブリナと狼が睨み合っている間(一方的に狼が舌なめずりをしてるだけ)に今の段階で可能な、条件付きのその特殊召喚を使ってエミリーを見習いからでは無く、初めから【上級魔術師:ハイエルフ】として、エミリーを召喚する。

 更に健吾は【魔力増幅の書】という魔法カードをエミリーに装備させ、威力が大きくなるようにする。


「行くよ!!」


 掛け声の下、ガキン!!っとサブリナが大きな騎士盾で応戦している後ろに魔法陣をベースにした移動法でエミリーを特殊召喚で配置し、一時魔法で時間を稼がせる。


「……」

「あ、痛い!……一旦仕切り直しだね!」


 エミリーの無言の魔法で少し狼が引いて時間が出来たので、その間に更なる召喚の準備をする。


 今魔法を使って効果を挙げたエミリーをベースに【愚者:妖精種】ブームを4体戦闘用触媒炉に叩き込み、その生贄となった素材が魔法陣を成して、エミリーの上空に移動する。

 そして、その魔法陣が光り輝いたあと、その下のエミリーも同様に輝き、光が収まった後には画面上に【魔導師:ハイエルフ】エミリーと描かれたデータカードが現れ、フィールドに金髪碧眼の美少女が魔道士風の装いで現れた。

 そして、その体からはかなり大きな青白いものが立ち込めていた。

 そしてエミリーは、現れて直ぐの状態にも関わらず、目の前で一触即発の状態のサブリナと狼に気が付くと右腕を狼に向け詠唱をし、魔法を発動。


「風の王、天空の覇者、魔を統べる者。嵐を起こして電撃を放つ。雷魔導《電雷波でんらいは


(え?ゲームでは幾ら上位召喚とはいえ詠唱なんかしてなかったはずだぞ?!これが異世界の召喚術って奴か?)


 健吾がそんな疑問に駆られている間にも、エミリーの魔法は紫の波動となり、狼へと放たれる。


「え?!いきなり?!ちょ、待っ……ぎゃああああ!!」


 哀れ狼。

 今まで獲物だと思い込んでいた者であ召喚体どもの一体、エミリーの指先から迸った電撃でその身を焦げ付かせる結果となった。


 ズウーーン!!と地響きと共にエンペラーウルフはその場に倒れ、物言わぬ獣と化す。


 そして、ひと仕事終えたエミリーは健吾の方を向き、微笑みながら近づき、膝を付いてこうべを垂れる。

 改めて見た感じ、清楚な黒髪の大和撫子でスレンダーなタイプが好みの健吾のタイプではないが、色白で男好きのするボン・キュッ・ボンのモデル体型。

 黄金に輝く金髪が流れる様に風に靡いている。

 更に顔もこの世界の基準こそ分からないが、健吾の感覚では明らかに絶世の美貌と言えるくらい整っている顔立ちだ。

 そして、ゲームに出てくるエルフにあるような長い耳もキチンと反映されている辺り、この世界を作った創造主は通ということだろうか?

 そんな風に観察していると、徐にエミリーが立ち上がって


「あの~、マスター?宜しいでしょうか?」


 と言ってきた。

 これには健吾は詠唱の時以上に驚いた。

 何しろアニメや漫画の召喚術師の召喚獣は、錬金術師のホムンクルスとは違い、簡単に生み出したり生贄にしたりする性質上、会話が出来る様には成っていないのだ。

 その為、魔導生命体が召喚出来る様に成るまで会話は諦めていたのだが……これは嬉しい誤算かもしれない。

 しかし、いつまで驚いていてもダメなので、自己紹介を兼ねた説明と、会話が出来ることに説明をして貰う事にした。


「ああ、いいぞ?……一応自己紹介をすると、俺は神代健吾。今の所は戦闘中に限り、君ら召喚体のマスターになるみたいだ」


 健吾が簡単な自己紹介をすると、エミリーは慌てた様に居住まいを正し。


「いえ、こちらこそマスターの魔力だよりの召喚体ですので、使って貰えるだけで十分ですわ。……それと……」


「?なんだ?」


「いえ、もし宜しければ今後も何かあればドンドン召喚して欲しいなと思っただけですわ。他の方達も大勢いると思いますから、気に入ってくれればで結構ですが……」


 エミリーが少々自身なさげに俯きながら訴える。

 その仕草に健吾は苦笑しながらも、先ほどの戦闘の内容に満足度出来ていることを告げる。


「ああ、それなら大丈夫だ。一応さっきの巨狼をあんな一撃で簡単に倒した実力は認めるから、また何かあれば頼むかもしれない。まあ、他の奴らも試して見るから時間は掛かるだろうがな?それに、今は無理だけど必要な材料が揃った時、場合に依れば魔導生命体として従者になって貰う可能性もあるから、その時はよろしく」


 その健吾の返答に、エミリーは満面の笑みを浮かべ


「分かりました。では、そろそろこのフィールドの効果も消えるようですので、また次の戦闘で使ってくれるのを期待してますわ」


 と、何かの儀礼の様な礼をしてカードに戻ろうとする。

 しかし、ここで健吾は重要な事を聞いていないことに気付き、戻る前に質問する。


「あ、ちょっと待った」


「??なんでしょう?」


「さっき思ったんだが、どうして召喚体が会話が出来るんだ?俺としては会話が出来るってことは生贄として使いづらいんだが?」


「ああ、その点なら大丈夫です。我々召喚体は皆今のわたくしの様に、上位種になって初めて会話が成立するのです。それまでは只の生ける屍と言える物なので、余り気に病む必要はありません。逆に生贄に捧げて貰えなければ上位種になってお話が出来ないのですから、他の方達に聞いてもドンドンやってくれと言われるでしょう」


「……成る程?謂わば召喚体達にも召喚される為の争いがあるってことか?」

「そうとって貰って構いませんわね?……そうそう、そこの魔物はどうするのです?知恵があり、人の言葉を解する程に魔力のある獣なら召喚士とはいえ食べれば少々の自己強化が出来るのではないですか?」

「そうなのか?」

「さあ?」


 突然のエミリーの発言に健吾は問いただすが、本人は分からない様子だ。

 まぁ、そんな時の説明だから、読めば良いのだが。


「……ふむふむ……」


 説明によれば、健吾の様な召喚士は、魔力が上がれば上がるほど固有の戦闘フィールドが広がり、戦闘時に生贄を一度に召喚できる数が多くなるという。

 そして、主の魔力に応じた実力が生贄にも反映され、只の生贄でさえ体力が上昇し、消えにくくなるのだという。

 更に、魔導生命体ホムンクルスの実力も、召喚士の魔力が大きな実力の向上に関わっているらしい。

 その恩恵としては、街の中を仮定して身体的に貧弱な人種の人型召喚体で、肉体で生計を立てる様な職を例にすると、1段階【見習い】の段階でさえ街中の鍛錬をしていないチンピラ程度になら容易く勝ててしまう程なのだとか。

 だが、生憎と召喚士自体の身体的な向上は皆無。

 魔力が上がろうと、体内の魔力を筋力に変換出来ない召喚士は、身体能力の向上は魔道具に頼らなければならない。

 しかし、魔力が上がればガーディアンの強化にも繋がるので、魔力は上げておいたほうが良いとの事。

 魔力の量を示す数値は無い。

 それを知るには魔道具を開発するか、ガーディアンの実力を図る他にない。


「……なるほど、何にしても良いことばかりでも悪いことばかりでも無いってことか。まあ、マンガ肉は結構たくさんあるから、取りあえずカードにしたらどうなるかの確認だけでもしようか。……じゃあ、しばしのお別れだ」


「はい」


 そう言って健吾はエミリーが【見習い魔術師:ハイエルフ】のカードに戻ると、それを手にとってデッキ画面に戻す。

 更に、他のカードも戦闘画面からデッキ画面に戻すと狼に近寄り、手を触れる。

 すると狼は突然光の粒子になり、気がつけば5種類のカードが戦闘画面の中に残っていた。

 なので画面上でその5種類のカードを『取得する』と健吾は説明を読む。


「お!これはマンガ肉だな。……摂取魔力量合計100万。これ一つだけだと良いのか悪いのかわからんな。それと……?大狼たいろうの牙と、大狼の爪、大狼の毛皮。これは恐らく何かの触媒用の物なんだろうが、これはなんだ?【子獣のこじゅうのたましい】?説明は?……子供獣型の魔獣ガーディアン用の魂。この魂一つに付き一体の子供魔獣のガーディアンを作成可能。ただし、仮にドラゴンのガーディアンを作成する場合は反応せず、カードが消失する。更に、作成元が何であれ初めは子供サイズのガーディアンしか作成不可。しかし、そのガーディアンに魔物の肉を与えると、肉の質によって魔物が成長する。ただし召喚クラスによって成長にも限界はあり、同時に戦闘で実戦を経験させないとそれ以上の成長はない……か。」


 そこまで読んだ健吾は、カードの中の魔獣カードの中で、良さそうな魔獣が居るか物色を始めた。

 そうして画面上で選り分けた物を見つめて数分後。


「よし、この【九尾の狐:神狐種】クラミを初めてのガーディアンとして育てようか。丁度昔のアニメの妖怪の狐が蔵馬だったから良い感じに切れ者になりそうだし」


 健吾はそう言ってクラミに【子獣の魂】を使うと決め、可哀相ではあるが、クラミのカードと子獣魂のカード、成長促進のカード(これは一体につき一つしか与えられない。謂わばゲームで言うところの成長センスを保持した状態で生まれてくるのと同じ)と上位カードの代わりに複数入っていた中のレアカードの一種【魔導の器】を脳内土鍋に投入し、掻き混ぜる。

 それから約5分。

 中で挙がっていた悲鳴が収まった頃、土鍋の下から茶色のカードが一枚落ちてきた。

 カードには【妖狐:子狐:魔導生命体】クラミと書かれてあった。

 健吾はそれを拾うと、説明を読んで一つ頷き実物化クルトと念じる。

 そうする事で目の前に魔法陣が現れ、その中から一匹の子狐が光の粒子と共に出てきた。


「クゥ~ン……」


 出てきた子狐は健吾の足に擦り寄って喉を鳴らして甘えてきた。


「……なんか庇護欲をそそられる気がするのは何故だ?……っと、コイツに食わせる飯と強化のカードはどうなってんだ?」


 一応ガーディアンの作成に成功したような健吾だが、このままでは恐らく簡単に死んでしまうので、何かしらの強化をしないと行けない。

 肉は後で上げるとして、他の装備品を見繕う。

 なのでまた色々とカードを物色する健吾。


「……【妖狐の牙】の材料は……お、有ったな。……ふむ、結構今ある材料でも強くなりそうだ。そんで知恵の首輪に風の毛服。……毒の爪と癒しの爪ってのもあるな。以外に万能なガーディアンが出来そうだ」


 それらを一つずつ土鍋に投入し、作成していった。

 それから一旦クラミをカードに戻し、装備品を装備画面で付けてやる。

 そして出来上がったクラミの表示上の装備データがこれだ。


 名前:クラミ


 種族:神狐種


 階級:第一段階【子狐】


 魔法:種族魔法:魔力不足により1段階初級のみ


    四大元素魔法(装備品による効果):魔力不足により1段階初級のみ


 装備


 耳:多感覚増幅リング(五感増幅(中)の効果付きイヤリング【審判:サムネイト】)


 牙:妖狐の牙(多機能牙。用途を思い描く事で四大元素の現象を具象化出来る。【炎獣の焔】【氷鬼の氷手】【風神の涙】【岩龍の鱗】)

 

 首:翻訳の首輪(言語翻訳機能付きの首輪【知恵の首輪】、【識者:賢人】ローラ)


 体:風の毛皮(触ると冬暖かく、夏涼しい毛皮【風の毛皮】)


 爪:毒の爪、癒しの爪


 目:鑑定眼スキャニング・スティグマ(初期段階の状態の道具なら大凡の使い方が瞬時に分かる眼。更に魔力を流すことで魔力に応じた解析も可能。【識者:賢人】ローラ、【魔眼の器】)


 特徴:魔導生命体


 素材が九尾の狐を元としているため、最終形態は九尾の狐に成長する。

 

 マスター:神代健吾


「……これで装備品は揃え終わたが、肝心の魔力がどの程度あるのか分からんな。……まあ、幾ら高いといっても基準が分からんから何とも言えないが」


 そう、健吾はまだ、戦闘も一度だけで他の者の魔力がどの程度あるかは知らない。

 召喚体なら知ってるのかも知れないが、先ほどのエミリーの様子から考えて、知らないと見たほうがいいだろう。


「まあ、考えていても何だしカード肉を調理でもして……って、俺調理できないぞ?もしかして調理できなかったら肉が食えないってのも有り得るのか?」


 急に食事のピンチになってきた健吾は、取りあえずクラミのカードを画面表示から実体化させる。


「《実体化クルト》」


 そうした事で目の前に魔法陣が現れ、先ほどの子供の狐が色々と装備した状態で現れた。

 その後、その狐に冗談半分で「お前って調理道具があれば料理出来たりするか?」と言ったら……


「パパが用意してくれた装備のお陰で、生活に必要な魔法は全部使えるから、道具があればできるよ?」

「いきなり会話成立?!」


 これには流石の健吾も驚いた。

 てっきり子供サイズの時には会話は無理だと思っていたのだ。

 しかし、健吾は忘れているが、キチンと装備品に翻訳の首輪をしてあるので会話が成立した所で何の不思議もないのである。


「?なんか犯しい?パパ。……て事より、早くご飯にしようよ!僕お腹すいた!!」

「……あ、ああ。そうだな、俺もそろそろカードになってるアイテムを食えるか確かめたい所だし。…よし、マンガ肉を選択して……《実体化クルト》」


 いきなりの会話成立に驚いている健吾を尻目に早速飯の要求をしてくるクラミ。

 その言葉に急かされ、「まあ、食欲があるのなら良いか?料理も出来るって言ってたし」と、もはや言われるがままの召喚術者に成り下がってしまった健吾。

 その後、言われた通りに調理器具一式をカードから実体化させる為に魔法陣を起動させる。

カードを選択し、魔法陣から出てきた調理器具は、所謂魔道具と呼ばれる様な全自動魔力感応型のキッチン付き器具であった。

 一般家庭にあるようなホームキッチンの性能を組み合わせたようなそれは、この世界ではどんな位置にある魔道具なのか健吾には分からない。

 そして、その上にマンガ肉二つを載せると、クラミがその前にやってきた。


「じゃ、今から焼くね?っていうか、魔力を篭めれば誰でも出来るみたいだね、この道具を使えば」

「?そんな事が分かるのか?」

「うん、パパがくれたこの眼のお陰で色んな事が分かるよ。僕自体の魔力がまだあんまり無いからわかる範囲には限りがあるけど、こんな器具程度なら問題ないみたいだよ。……ってことで、早速切って焼いて食べられるようにするから、パパはそこで待っててね?」

「おう!」


 それからは面白い事が起こった。

 キッチンに載せた肉が突然空中に浮き、その状態で先ず初めに二つの肉の双方の中心に鉄の芯が入れられる。

 そして、キッチンの火力放出口から炎が出てきて鉄の芯を熱して徐々に温めていき、更に外側から万遍も焼き始めた。

 恐らくこうする事で中外の両方から熱が通る仕組みのようだ。

 そして、それらを行うクラミはキッチンについてあるレバーの様な物に前足を触れさせているだけで行っているのだ。

 その後、全体に火が通ったマンガ肉の片方を健吾の前のテーブルに置き、片方をもう一つのテーブルに置く。


「あ、パパ?あと野菜もあったら出して?無かったら僕がそこらの植物から貰って来るけど……」

「ん?ちょっと待てよ?確か野菜系も色々とあった様な……」


 そんな風に呟きながらカードを表示させて見繕う。

 そうして細分化されたカードを見た結果、何とも悲しい事が分かった。

 何と!カード肉は数千枚という枚数が有るのに、野菜のカードが数十枚しかないのだ。

 その事をクラミに伝えると


「……じゃあ~今度どうなるか分かんないから、パパの野菜は置いとこうか?パパのカードに成ってたら腐ることってないんでしょ?カードだし」


「……っと、そうみたいだな。説明にそう書いてるから間違いないと思う。っていうか、生まれたばかりなのに何でそんなに自我がはっきりしてて、更に俺の事も結構理解してるみたいだし」


 クラミに言われた説明書を読んだあと、ふと疑問に思った事を尋ねる。

 健吾自身は自分のサポートを普通にしてくれる事で助かるのだが、それと不思議に思うというのは別問題だ。

 そして、健吾の質問に「あ、それは簡単だよ!」とクラミが答える。


「だって、僕はパパの魔力を媒介にした魔導による召喚生命体だよ?確かに生まれたばかりの今はそれほど知識も無いけど、これから一緒に行動すればそれに応じた経験も加わるから、知識としてはパパが二人いるのと変わらない事になるはずだよ?僕の頭にそう言う命令系統?魔導回路?ってのが組み込まれて逆らえない様にされてるんだ」


「へ~?なんか知らんが便利なこった。……で?飯の話に戻るけど、野菜は貰ってくるって言っても時間が掛かるだろ?それに幾ら装備で強化してるとは言え、生まれたばかりのお前の戦闘力に期待するほど俺もバカじゃないぞ?何かあったら大変だから、一緒に探しに行こう。そんで今は肉を食おう。折角焼いてくれたのに覚めちまう」


「うん!分かった。じゃ~、肉を食べた後はパパと一緒に食材探しのデートだね♪」


「デートって……お前って僕って言ってるし、オスじゃないのか?それにその子狐の姿だと、デートってより散歩だぞ?」


 健吾のオス発言にクラミは調理器具の上からテーブルの上にピョンっと飛び移ると、尻尾を逆立てて抗議する。


「む~!僕は女の子だよ!?それに動物にとったら散歩はイコールデートなんだからね?!僕は良いけど、他の飼い主がいる動物の子達にそんな言い方したら襲われるよ?」


「お、おう……。気をつけるよ……」


「分かれば良いんだよ。っさ、そうと決まったら早速肉を食べてデート行こ?」


「りょ~かい……」


 何故か主従が逆転している感覚に陥った健吾であった。





 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ