第八話 未来から来た男
乱戦の最中、かけがえのない仲間たちとはぐれてしまった勇者! 友は無事なのか? 気もそぞろの勇者は己に鞭打って旅路を急ぐ! その前に、死の淵より蘇りしあの男が立ちふさがった! 果たしてその正体は、敵か味方か? そして、勇者はどのようにして荒れ狂う海を越えるのか?
ギルがメッシュの酒場に舞い戻った俺は、早速レムリアの姿を探した。ほどなく、店のカウンターの奥で高さ60cmはある巨大パフェをぱくついている彼女を発見した。
「あ~、勇者さま、遅いですよ!」
「悪いなレムリア、ちょっといろいろあってな」
お土産のプレミアムレモンパイを彼女に手渡すと、俺は事の顛末をレムリアに語って聞かせた。
情報屋を訪れた際に暗殺者に襲われたこと、その暗殺者を倒すために蔵人が自らの命を犠牲にしたこと、そして夏の夜の一夜の出会いと別れをふんだんに盛り込んだ愛と感動のラブストーリーを熱く話したところ、レムリアの円らな瞳が大きく見開かれた。
「え!? 蔵人さんそこにいますけど……」
良く見ると、レムリアの更に奥には見慣れた金色のツンツン頭が座っていた。
「おお、無事だったか心の友よ!」
蔵人はドライマティーニのグラスを傾けながら、そのグラスの中身よりも冷たい眼差しで俺を温かく出迎えてくれた。
「一人だけルーラで逃げ出すとは……」
「悪い悪い、バシルーラと間違えたんだ」
俺の心の底からの真摯な謝罪を前にして、頑なだった蔵人の心もほぐれたようだ。瞳の色は相変わらず何も変わっていない気がするが、まぁそういうことにしておこう。
「良くあの状況で無事だったな、蔵人」
「奴の標的はあんただったらしい。あんたが姿を消したら奴も消えた」
また、一人、俺の勇者たる魅力の虜になった者を生み出してしまったのか……。「美しさは罪」、とイギリス諜報部のジャック・バンコランが言っていた気がするが、こうなると卓抜した俺の美貌にも困ったものである。
「それはまぁ良いとして、どうやって船もなく金の鍵のある南の小島へ渡るかが問題だな」
この厄介な懸案についてしばし沈思黙考する俺たちの沈黙を、蔵人の更に奥の方から響いた素っ頓狂な声が打ち破った。
「J・ザルゴ、知ってるよ!」
「あれ? いつ生き返ったんだJ・ザルゴ?」俺の至極当然極まりない質問に対して、レムリアが回答を示してくれた。
「王様から貰った褒美で、蔵人さんが生き返らせてあげたんです」
一見するとクールで自閉症かと勘違いされるような男だが、仲間を思いやる気持ちは、この勇者たる俺に比肩するくらい厚いようだ。やはり俺のような人徳者のそばにいると、自然と感化されるものなのだろう。
「で、何を知ってるんだJ・ザルゴ?」
「旅の祠を使えば、あちこち移動できるよ!」左手で顔を洗いつつ、右手でフリスキーモンプチを摘まんだ猫人間が答えた。
なるほど、そんな移動手段があるのか。最悪の場合にはコンソールコマンドを打ち込んで移動しようと考えていたが、どうやらそれを使えば何とかなりそうだな。
「旅の祠はグランドハイツ稲荷前城の西の方にあるよ!」
余念なく毛づくろいに勤しむJ・ザルゴの言葉を受け、俺は一同に宣言した。
「よし、その料理を片付けたらそこへ向かうぞ。ここの会計はよろしく、レムリア」
西へ行脚すること5時間、道中骸骨やら包帯男やらとの戦闘に少々疲れ気味の俺たちは、ようやく目指す旅の祠へ到着することができた。
「意外と遠かったな」
「あぁ」蔵人のぼやきに、俺は相槌を打った。
「羽田-成田間でも、もう少しアクセス時間は早いよな」
この旅の祠の立地条件では、エリアのハブ空港になることは厳しそうだ。近隣にも目立った町はないし、遅かれ早かれ不採算で閉鎖されるだろう。
そんな地域経済の行く末を案じながら、俺たちはみすぼらしい祠の中に入った。J・ザルゴの話によれば、この中に「旅の扉」というものがあってワープできるということなんだが、中を見渡す限りそれらしき物は見当たらない。
またタンスの裏や冷蔵庫の隅あたりから調べるかと考えていた俺の前に、部屋の奥から雪だるまのような体型の奴が近づいてきた。青と白でカラーリングされた服を身にまとい、鈴付き首輪と腹のポケットがチャームポイントの男である。
「何だおまえは?」
俺の問いかけに、雪だるまは野太く高い声で返事を寄越した。
「ぼく、ドラゑもん~」
「土左衛門でも何でも良いが、旅の扉を知らないか?」
雪だるまは腹についたポケットをごそごそまさぐると、中から一枚の扉を引っ張り出して誇らしげに言った。
「はい、『どこへでもドア』~」
高さ2mにもなる扉を納めていたポケットの不思議も気になるところではあるが、本題は金の鍵の入手であることを忘れてはいけない。自制した俺は雪だるまから扉の使い方を訊き出すと、ドアノブをつかんで言った。
「金の鍵のある南の小島へ!」
……ふと、「竜王の城へ!」と言って扉を開けたほうが良かったんじゃないかという気持ちに囚われたが、小さなことは気にしない・大きなことは考えないがモットーの俺である。
この扉の向こうに、輝かしい栄光に彩られた俺たちの足跡が、今、刻み込まれるのだ。
待っていろ竜王! まだ装備は依然銅の剣と皮の鎧なので、もう少し良い装備になるまで待っててくれ。
読んでいただきありがとうございます。
殆ど推敲せずに文章を打ち続けていますので、表現が豊かになったり乏しくなったりむらがあると思いますが、その辺はご愛嬌ということでご容赦ください。
では、よろしかったらまた次回もお付き合いくださいませ。