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俺のどこかで聞いた冒険  作者: ファンタG
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第五話 怒りの鉄拳で危機一髪

神への祈りを捧げ、再び死出の旅路へ突き進む勇者一行! 固く結ばれた絆がつなぐ彼らの前に現れるは勝利の美酒か、あるいは敗北の苦渋なのか? 神々よ照覧あれ、今、一つの時代に幕を閉じる決戦の火蓋が切って落とされる!

「ようやく着きましたね、ドラゴンの洞窟に」

「ああ、そうだな」

 使命に燃えた瞳がまぶしいレムリアに、俺は、全く気乗りしない返事を与える。

 一体夜中の何時なのだろうか? 今にも大粒の雨が降り出しそうな混沌とした闇夜の中で、俺たちが掲げる松明だけが、押し寄せる暗闇の侵略を必死に防ごうとしている。

 山肌に沿って吹き下ろしてくる風は徐々に勢いを増し、もう少しこの場に留まればレムリアのスカートの中身を拝めそうなのだが、そんなことより俺には気になることがあった。無論、この強風の中でも微動だにしない蔵人(クラウド)の髪型に意識を惹かれているわけではない。

 この漆黒の世界の中、間違いなく、俺たち一行以外の生き物が身を潜めている。

 そしてその気配は、着実に俺たちへ目指している。

 蔵人(クラウド)が鋭い視線で俺に目配せを送る。さすが4番ファーストを名乗るだけあって、奴も気が付いているようだ。

 俺に行け、ということか。よし、勇者の男気をその両目にしかと焼きつけるがいい!

 木の葉を踏みしめて迫りくる足音に対して、万全の心の準備で身構えた俺は、尋ねた。

「大人3人でいくらだ?」

「90ゴールドになります」

 これまでの道中に退治してきた、スライムやらゴーストやらマハラジャから巻き上げたなけなしの小銭を受付係に手渡す。アディオス、俺の小銭たち…

 勇者の金払いの良さを披露した見返りとして軽くなった財布にせつなさ爆発中の俺へ、受付係が営業スマイルで紙を手渡してきた。

「ありがとうございます、こちらはパンフレットになります。洞内には他のお客さまもいらっしゃいますので、ご迷惑になりませんようお静かな探索のご協力をお願いします」

「まぁ、なるべくそうするよ」

 もらったパンフレットを早速広げてみる。

「ドラゴンの間は、と……あったあった、階段を下りて左右左の順に曲がればいいみたいだな」

「他にもいろいろありますね~。この『ちょんの間』ってところにはどんな怪物がいるんでしょう?」

「そこは気にしないでいい」入洞料で素寒貧になった俺には、せつなさを上乗せするだけの場所に過ぎない。

 パンフレットを畳んだ俺は、蔵人(クラウド)とレムリアの目を見つめた。内なる決意と湧き立つ闘志を秘めた真っ直ぐな良い目をしている。リーダーたる俺の、「俺の分まで頑張ってくれ」という切実な想いをしっかり受け止めてくれた戦士の眼差しだ。

 二人の両肩に手を回して肩を抱いた俺は、二人のやる気を更に高めるべく激励の言葉をかけた。

「しっかり頼むぞ。死んでも生き返らせる金はないから」


 ……1時間後。

 俺たちはついに、ドラゴンの間に到着した。道中誰も口を利かなかったのは、迫りくる強敵との決戦への緊張のせいだったのだろう。

「この扉の向こうにドラゴンがいる、みんな、覚悟はいいな?」

 頷く二人が、胡散臭いものを見つめるような視線を俺に送っているような錯覚を覚えた。やれやれ、勇者ともあろうこの俺にも、緊張を感じるという心が残っているらしい。

 銅の剣を握り直してそんな思いを振り払った俺は、渾身の力を込めて颯爽と扉を蹴破った。

「覚悟しろ、ドラ……ゴン?」

「ほあたーっ!」

「……誰だこのおっさん?」

 目の前には、ちょっと残念な人しか着ないであろうオレンジ色のつなぎに身を包んだ小柄な男がいた。いや、よく見ると腕と服の両横部分に、太くて黒い一本線が入っている。

 男は全身で絶え間なくリズムを取りながら、軽快なステップで行きつ戻りつ動いていた。

「……燃えよ、ドラゴン……」

「いや、あれは死亡遊戯だな」冷静さを取り戻した俺には、蔵人(クラウド)のつぶやきを訂正してみせる心の余裕を持ち直した。

 緊張を強いられる極限の戦いの中で、最も大切なのはゆとりの心なのだ。伊達にゆとり教育を受けてきてはいないことを、今、まざまざと見せつけてやろう。

 銅の剣を正眼に構え直した俺は、相手の弱点を探るべく奴を凝視した。

 なにせ相手はジークンドーの達人だ。あの奇妙な動作と怪鳥音に惑わされてチャック・ノリスも敗れたほどの男である。ここは慎重に間合いを取り、できるならどんどん間合いを広げてぼくもうお家に帰りたい…

「ほぉーっ!」

 そんな俺の心の叫びを無視した奴は、傍らからヌンチャクを取り出して両手で広げて見せた。

「あちゃーあちょーふわぉあたー!」

 目にも止まらぬ速さでヌンチャクを振り回し始める。連接された棍が凄まじい勢いでびゅんびゅん風を切り、俺の中で帰りたいという希望が決意に変わった瞬間、ぼこっという鈍い陥没音とともに奴の顔面へ棍が炸裂した。

 一瞬時間が止まった後、ゆっくりと大の字に倒れゆく奴に向かい、俺は高々と、勝利の栄光に彩られた我が銅の剣を掲げてみせた。

「……良い勝負だった」

「あ、姫の居場所、訊きそびれちゃいましたね」

「なに、次回には分かるさ」




 読んでいただきありがとうございます。

 ウィキペディアのヌンチャクの項目を見ると、ブルース・リーの使ってたヌンチャクは棍がゴム製だったそうです。ずっと本物だと思っていたので、軽いショックを受けました(;^_^A

 よろしかったらまた次回もお付き合いくださいませ。

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