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俺のどこかで聞いた冒険  作者: ファンタG
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第四話 鰯の頭も信心から

熾烈な死闘を繰り返す勇者に訪れた、束の間の平安! だが、呪われたその宿命からは逃れることのできない勇者。安息よさらば! 再び地獄の日々へ戻る勇者に、神はその慈悲を垂れたもうのか? 行け、勇者よ! さわやかなレモンクリームが舌へ濃厚に絡むプレミアムレモンパンもお勧めだぞ!

「おいしいですね、このメロンパン♪」

「海老名と言えばメロンパンだと、海原雄山も言っていたくらいだからな」

 プレミアムメロンパンをかじりながら、俺は答えた。富良野産メロンと練乳の豊潤な香りが鼻孔に澄み渡り、クッキーのような表面のサクサク感と中身のふんわり感が織りなす絶妙なハーモニーに、時を忘れて酔いしれる。目を閉じれば、一面のラベンダー畑が脳裏に浮かんでくる。こうした名産品との出合いこそ、旅の醍醐味というものだ。

 さっきまで世も末の顔色だったレムリアの機嫌も、すっかり回復したようだ。亡き親父が臨終の際に残してくれた、「女には甘いもの食わせとけば万事うまくいく」という言葉が大いに役立ってくれた。

 美しい夕焼けを大きく伸びをした俺は、程よい頃合いだと考えてこの場を締めくくることにした。

「さて、腹も満たされたし、そろそろ帰る……わけにはいかないよなぁ、やっぱり?」

 蔵人(クラウド)とレムリアの氷点下の視線に気づいた俺は、そんなに見つめられると照れてしまうんだよということを理解してもらうため、はにかみながら頭を掻いてみせた。

「何のためにここまで来たんですか!」

「そう、それをもう一度、君たちに真剣に見つめ直してもらうため、あえて俺は悪者になったんだ」

 チャララチャッチャッチャーン。

 今の効果的な台詞で、アビリティー「誤魔化し」のスキルがLv.4になったようだ。こういう日々の絶え間ない研鑽が着実な成果につながることを、俺は決して忘れない。

「さぁ、姫を助けに行くぞ! ……と、その前に教会でセーブしておかないと、今までの物語がパーになってしまうな」

「やられる気満々だな」蔵人(クラウド)の視線と言葉がアイススパイクと化して俺を貫いたが、勇者の燃えたぎる熱いハートの前では無駄なことだ。

「相手ドラゴンだぜ。ヘルゲンの町を跡形もなく破壊するような奴相手に、3人合わせてレベル10の俺たちが立ち向かおうっていうんだから、それくらいの備えは必要だろ?」

「ヘルゲンってどこだ?」

「いや、俺もよくは知らんが、それくらいの強敵だということだ」

 もっともらしくうなずいてみせると、蔵人(クラウド)の肩を軽く叩いてやった。仲間とのスキンシップも、勇者に求められる無数のスキルの一つだからな。

「さて、じゃあ教会に行くか」

 俺たちは海老名サービスエリアを後にして、手近な教会に向かうことにした。勝手知らぬ旅先の土地だが、スマホがあればいとも簡単に住所が分かるから、便利な時代になったものだ。

 ナビに従いてくてくと歩き続けた俺たちの前に、やがて、一軒の怪しげな教会が現れた。

 なんというか陰鬱な雰囲気を醸し出す古めかしい教会で、近所に魚屋でもあるのだろうか、異様に魚臭い。教会に出入りする連中の顔も、魚みたくのっぺりしているのは気のせいだろうか?

 教会の看板に目を止めたレムリアが、それを読みあげてくれた。

「え~と、ダゴン秘密教団っていうみたいですね、この教会」

「秘密教団の割にナビ検索に出てくるとは、不思議なものだな」

 まぁ、世の中には「東京」と名乗りながら千葉にある観光名所もあるくらいだから、そんなものなのかもしれない。

 教会の扉を開けて中に入ると、これまた暗澹として薄気味悪い礼拝堂と邪悪感全開のご神体の前に、神父の服を着た男が立っていた。こいつもまた、一見すると魚みたいな面構えだ。

「てゆーか、こいつ完全に魚だろ?」

「高知のゆるキャラじゃないですか?」

「いや、全然ゆるさを感じない」

 三者三様の感想をつぶやいてみた時、カツオ人間がおもむろに口を開いた。

「よく参られました勇者よ、今日はどのような御用ですかな?」

 見た目はかなりアレな感じだが、中身はどうやらまともらしい。俺は、神父の後頭部に見える魚の断面をあまり見ないよう注意しながら話しかけた。

「復活の呪文を書きとめたいんだが」

「分かりました。ご神体に祈りを捧げなさい」

 俺たちは、多分シド・ミードがデザインしたのであろう前衛的なフォルムの彫像の前にひざまずいた。

「おお、ダゴン神の声が聞こえます…」

 エラをパクパクさせながら、神父が言葉を継いだ。

「ゆうていみやおうきむこうほりいゆうじ…」

「それは『もょもと』の復活の呪文じゃないのか?」


 こうして俺たちは、激戦に次ぐ激戦も繰り返した壮烈な旅の履歴を記録した。これでもう、後顧の憂いはない。

 ドラゴンよ、恐れ慄くが良い。次回ではおまえの魂に、生まれてきたことを後悔するほどの真の恐怖とは何かを教え込んでやろう。

 ここから先は人家もない崖沿いの一本道だから、もう寄り道できないんだよなぁ…

 読んでいただきありがとうございます。

 東京界隈でない方にご説明しますと、海老名サービスエリアは東名高速にあります。大体いつも駐車場は凄い混み具合で、ひどい時は夜中の2時なのに電光掲示板に「混雑」と表示されることも…(;^_^A メロンパンは絶品ですので、立ち寄られた際にはぜひお試しください。

 それでは、よろしかったらまた次回もお付き合いくださいませ。

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