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反乱軍を支えし者

一六一二年九月


●駿府城

 「大御所様、里見の薦野頼俊が里見義康に反旗を翻しました 」


 「ほう。とうとう動いたか。で? こちらからはどの様に手を入れている?」


 南光坊天海と家康が茶を飲みながら話している。


 「先に五千貫ほど預けて兵を揃えさせました。薦野頼俊は数名の武将を里見家から引き抜き、また土豪もいくつか従えておるとのこと。とはいっても七千程の兵だそうで」


 「ふむ。七千ではすぐに潰されるぞ!? 少し兵を送ってやるか? 」


 「いえ。信濃の真田、後藤も力を蓄えております。更に播磨では織田秀則率いる織田家が再興されました。西でも豊臣方は意気盛んです。兵は温存しておくがよろしいでしょう」


 「では、いかがする? 」


 「そうですなぁ。江戸、駿府の兵は動かしたくないのは述べた通りで。ここは負け続けの水野勝成などに下総から寄せさせるのがよろしいのでは?」


 天海は里見家が本気で薦野頼俊を潰しに来れば、すぐに反乱は押さえこまれてしまう事を読んでいる。ならば、反乱軍潰しに集中できないように下総攻めを行う策だ。反乱軍が持ちこたえれば持ちこたえるほど里見の力は弱くなる。長引けば反乱軍が膨れる可能性もある。


 「水野勝成なぁ。負けてばかりで験は良くないが……。誰か戦上手で勝成の寄騎をさせるに良い者はおらぬか? 下総の兵を集めると、勝成に預けてある五千兵を入れて一万ほどか」


 家康は地図を広げ思案する。こういう時、天海は家康の思考の邪魔をしない。じっと待つだけだ。これが本多正信であれば、ああだこうだと口を挟み、度々、家康に怒鳴られるのだった。

 この時分は本多正信は江戸城にいて徳川当代・秀忠を支えている。天海は家康に従い駿府に居るのである。


 「やはり常陸から出すか。水戸は常陸の里見勢を牽制させる。先の戦で援軍に向かった松平信吉を再度向かわせ、加えて下館の水谷勝隆もじゃ。信吉が二千、勝隆が二千、総勢一万四千。十分であろう」


 天海は大きく頷き、賛意を示す。


 「さすが大御所様。良き手にございまする。里見は三万程兵を擁しておるでしょうが、薦野頼俊を抑えなければならず一万程で下総を守るでしょう。先程、大御所様が仰られた通りに勝成が大将では験がよくございませぬ。ここは信吉殿が大将ではいかがで?」


 松平信吉は病弱気味で家康の覚えは良くはないが、戦の采を振るう才能がある事が小見川城の戦で分かったのである。人望があり大将として適役ではないかと推した天海であった。


 「うん。それがいい。信吉が大将、副将に水谷勝隆じゃ」


 家康は信吉を支える副将に文武に優れる水谷勝隆を当てた。


 二人の談合によって徳川方の下総攻めが決まった。




 長田義房は薦野頼俊を操るのは本多正信だろうと思っていたが、実際は南公坊天海であった。

 天海は薦野頼俊を支えるために更に二千貫と鉄砲五百を密かに送る。


 家康は信吉軍には戦の準備をさせ、頼俊が大きな動きをした時に合わせて出兵するように命じた。頼俊が押さえられてから兵を出せば下総での勝が薄くなる。それに下総の戦は頼俊が動きやすくするためであり、本気で里見家と構えれば大きな戦となってしまう。負けぬように、里見家が全力で攻めてこない程度の勝戦が望ましかった。


 大きな戦となれば江戸からも兵を出さねばならない。信濃勢が関東に下って来るだろう。それは得策ではない。


 (まあ、どうせ薦野頼俊は潰れよう。里見の力が弱められればそれでよい。里見家の圧力が弱まれば、信濃や大阪に身を入れて対処できるからな)


 大きな背中を丸めて茶をすすりながら思う家康だった。

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