多良崎城の戦い(五)
多良崎城を攻める水野重好の背後から雄叫びをあげて迫ったのは、鳥居成次の命を受け多良崎城の援軍に駈けつけた伊藤刑部長安の軍勢であった。その数は僅かに六百八十兵。中根城を出て援軍に向かった時は七百名であったが、途中で水野重好の息のかかった土豪の待ち伏せにあい二十名ほど数を減らしていた。土豪たちにとって徳川も里見も後からやって来た者達であり、どちらにも強い思い入れはなかった。重好の命に形ばかり答えただけだったのである。
「よしっ!間に合った。」
駆け付けた長安は城門すら打ち破られていないのを確認し、兵達に一呼吸入れさせる。
(千葉殿、頑張っておられるな。儂も気張りますぞぃ。)
長安は多くの里見の者達が思っていた様に「千葉重胤」と言う人物を計りかねていた。ひょっとして、すぐにでも開城し城を明け渡してしまうかもしれないとまで思っていた。しかし千葉重胤は守将の役割を果たそうとしている。長安は同じ時期に直参と陪臣の違いはあれど里見家に仕えるようになった重胤が頑張っている事が分かり嬉しかった。
一方の水野重好はというと…。
「うぬっ!援軍がきおったかっ!」
援軍の到着は重好も想定していたが予想より大分早かった。
(土豪の奴らめ、役に立たぬ。この戦が治まりしは覚えておれ。)
重好はこの戦の後で土豪たちに臣下となるよう強く求め、従わぬ場合は処断する意を固めたのであった。
伊藤刑部長安の軍勢に背後につかれた重好は慌てたが、無様な姿は見せられぬと己を鼓舞し千兵を伊藤体に、すなわち背後の守りを固め、残りの兵を全て城門に向けさせた。
「おのれら!進めーっ!城門を打ち破れーっ!」
援軍の到着で更に城門への攻撃が強まってしまったのであった。
○三の郭
目前で城門が叩かれる音が激しく響いている。
郭を守る曽谷時頼は郭内の二百兵を集めて指示を出す。
「皆の者!すぐに敵兵が雪崩れ込んでくる!そこより後の百名は二の郭内に下がれ!」
兵達がどよめいた。それを静まらせるように曽谷時頼は続けて言う。
「お前たちの得物は弓じゃ。雪崩れ込んでくる敵兵と乱れては討たれるばかりじゃ。ならば引き、二の郭に敵が迫ったならばの壁の上から敵兵を狙い撃て!さあ、行けっ!」
半数の百兵が二の郭に引いて行った。
残った兵達の手には一軒もの長い竹がしっかりと握られている。その鋭く切られた竹の先端は城門に向けられていた。竹を握る兵達は城門を打ち破らんとする音を間近で聞き、恐ろしくて仕方がない。だが曽谷時頼と六名の時頼配下の者は平然としている。その姿を見て雑兵達も落ち着くのであった。
【ばきぃっっ!】
乾いた音が響き、とうとう門扉が破壊された。




