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小見川城の戦い (五)

 小見川城に松平信吉率いる二千兵が水野勝成の援軍に現れた。

 城正門前で里見義康隊に押されていた水野兵達は、「どっ」と湧く。


 一騎打ちの最中である里見義康と水野勝成も、それを互いから目を離さずに肌で感じている。

 勝成が率いる兵は、今やお荷物的な弓兵、鉄砲兵を除いて凡そ六千兵。里見義康隊は総数では八千兵だが、まだこの場に辿り付けていない者も多く、今は四千兵ほどであろう。そこに勝成に援軍二千が現れたのである。戦況は一気に義康不利となる。



 「ふふふ。どうする? 形勢逆転だな 」


 防戦一方であった勝成は不敵に笑う。


 「はん? 何がじゃ? その方に援軍が現れた。して、こちらに援軍が来ないとでも? 」


 対する義康は少しも動じることなく堂々としている。そして「ぐっ」と槍を突き出した。戦況が有利になると思った勝成に心の余裕が生まれ、その余裕が隙を生んでいた。勝成は義康の槍を躱しきれずに肩口を抉られた。勝成の鎧の肩宛てが飛び地に落ちた。


 「くっ! おのれっ! 」


 痛みのためか勝成の顔が歪む。


 確かに水野勝成は歴戦の強者である。場数では里見義康の上をゆく。双方、槍を得意とするが、純粋な技術は互角か勝成が上であろう。だが実際の一騎打ちでは義康が一方的に攻め、勝成は防戦一方だ。

 これは将の格の差である。将の格では、はるかに里見義康が上である。己の技量を頼みに周りを顧みずに、兵を駒とし戦場を駆ける勝成と、先を見据え、家臣を家族と思い、家臣と共に先を見据える義康の度量に大きな差があった。


 義康は槍を大きくふりかぶり勝成に叩きつけた。勝成は槍の柄で防ぐが受け切れずに態勢を崩し落馬した。義康は馬上から勝成を見下ろす。


 「水野殿。未熟なり! 」


 義康は一言残し、止めを刺すことなく、乱れている兵達の中に槍を振りまわし入っていった。


 「お、おのれっ! 里見義康っ! 」


 落馬し、得物の槍も何処かに落としてしまった勝成は去っていく義康を睨む事しかできなかった。



 里見隊と水野隊の戦況は、松平信吉が駆け付けたために水野隊が有利になり、里見隊は押されている。しかし、決定的に勝敗が決しないのは、後から次々と里見隊の兵が増えるからだ。


 「殿~っ! こちらにも援軍が! 弥七郎が来ましたぞーっ! 」


 池引内匠介が叫んで、竜崎弥七郎が来た事を告げる。

 弥七郎は松平信吉を利根川越えさせてしまった後、すぐに舟を寄せ、信吉を追いかけて来たのであった。弥七郎の引き連れた兵は三千あまりである。


 竜崎弥七郎の登場で勝敗は決した。水野隊は押され、敗走したのであった。



 こうして激しい戦であった「第二次小見川城の戦い」は里見方の勝利に終わった。無事に城を守りきった義康は敗走する水野隊を追うことなく勝鬨を上げた。



 戦後の論功行賞では城を守りきった黒川権右衛門、竹田権兵衛がそれぞれ二千石加増された。中山照守に関しては陪臣であるため主君である鳥居成次が下総国内で二千石の加増となったが、成次は後に常陸国に残った伊藤刑部長安と中山照守にそれぞれ平等に千石づつ与えたのであった。


 鳥居成次が「後に」二人の将に加増したのは、すぐにはできなかったからである。

 というのは、その頃、常陸国では……

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