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小見川城の戦い (四)

 小見川城正門前に駈けつけた里見義康は右方向から水野本陣に突っ込んでいった。その時、義康に付従っていたのは僅か六騎の者だった。


 水野本陣は勢いよく突っ込んできた義康らに乱される形となり、混乱しかかったが、水野勝成の采配はさすがで、上手く落ち着かせて義康らを取り囲もうとしたのである。しかし、井田火矢隊が勝成の命で左手の城壁から引いてきたため、再び混乱した。井田胤徳は本陣へ戻れと言われて引いてきたのであるが、引いて来てみると、そこには里見義康が突っ込んできており、状況も分からず右往左往するばかりであった。主を討たせてはならじと、義康の後を駆けてきた里見兵が、数を増やして義康を守りながら、槍を振り上げている。僅か六騎であった義康達は、少しの間に四百名にまで膨れた。まだまだ数を増やしていく。


 「場を見れぬやつよ!やはり胤徳は戦下手じゃ! 」


 水野勝成はいら立ちを隠さずに怒鳴った。野戦で守りに入ると士気が落ちる。この乱れた状況では突撃を仕掛けた義康隊が、兵数では劣るものの有利な状況となる。それに義康隊はどんどん数を増やしていく。水野本陣は防戦一方で、もはや陣を保てなくなっていた。


 「いかん! 」


 水野勝成は慌てていた。義康がここまで鋭く強く当たってくるとは思っていなかったのだ。一当たりしてきた義康隊を受け止めて距離を保ち粛々と引いて行く算段だった。それがこのままでは引くに引けなくなってしまった。下手に背を向ければ全滅の恐れがある。弓隊は乱戦となれば意味をなさない。いわば戦力的に意味のない井田隊を抱える事になってしまっていた。

 勝成は邪魔な井田隊と鉄砲隊を後方に下がらせ、自ら率いる一隊で里見兵と対峙する。


 「井田弓隊、西郷鉄砲隊は城兵が出て来ぬように抑えよ! 」


 井田胤徳と西郷康員に命を下し、勝成は槍を振るっていた。




 【どこだ? 水野勝成は何処だ? 奴を屠ってしまえば我らの勝ちじゃ 】


 義康は騎乗のまま辺りを見回し水野勝成を探す。

 一方の水野勝成も自ら乗り込んできた義康を討たんと探していた。義康の危険を顧みない戦の仕様に、嫉妬を感じていた。それに義康を討ち取ればこの戦は勝てるのである。


 お互いを探していた二つの視線がふと絡みあった。


 「水野勝成殿か? 」


 「いかにも。里見の御大将か? 」


 義康は頷く。二人は騎乗したまま向かいあった。間には雑兵はいない。一騎打ちの舞台は整ったのである。


 里見義康、水野勝成、共に得物は朱槍である。お互いに右に馬首を向けゆっくりと回る。

 最初に仕掛けたのは勝成だ。穂先を下げた状態から槍を斜め下から掬いあげるようにした。それを「がしっ」という音と共に柄で受け止め、義康は鋭い突きを勝成の胸板めがけて繰り出した。勝成は上体を弓なりに反らしてかろうじて躱す。

 勝成の態勢が崩れたのを見逃さずに、すかさず槍を振り下ろす義康。勝成はこれまた辛うじて受け流す。そして義康の突き。

 勝成は防戦一方である。勝成は義康の攻撃の僅かな間を捉えて、距離を取った。


 「なかなかやるではないか 」


 水野勝成は僅かに微笑みながら義康に言う。


 「勝成殿もな。戦上手とは聞いておったが、なるほどじゃ 」


 義康も答えながら微笑み返している。二人とも次の一手で雌雄を決するであろうと思っていた。

 じりじりと間を詰めて、互いの隙を伺っていたのであるが……。


 「援軍じゃ~っ! 勝成様! 松平信吉様が来てくれましたぞ~っ! 」


 どこかで叫ぶ声が聞こえたのであった。


 

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