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小見川城の戦い (三)

 小見川城内は侵入した水野の兵達で乱れた。すぐさま中山照守率いる騎馬兵が駆け付け、侵入した兵達を討ち取っていく。


 「者ども、慌てるでない! 侵入せし兵は寡兵ぞっ! お主らの腕であらば恐れる事はない! 」


 中山照守が叫び、騎馬兵を上手くまとめ上げているお陰で、一時は騒然とした城内も落ち着きを取り戻す。しかし、戦況は攻め込む水野方が優勢であり、籠城方はかろうじて凌いでいると言った具合であった。井田隊は城壁を挟んで対峙していた中山隊が黒川隊の援護に回ったために、好き放題に火矢を打ち込んでいる。もっとも火矢による被害は出ていない。

 黒川隊への援護が功を奏し、侵入した敵兵を駆逐し、また再び井田隊に対峙する中山隊は大忙しである。その間にも隙を見せれば水野兵が塀を乗り越えて来るのである。




 その頃、家康に水野勝成の小見川城攻めに援軍せよと命じられた松平信吉は利根川を渡河していた。利根川には竜崎弥七郎率いる百首水軍が構えていたが、利根川拡張工事の進んでいない内陸方面から渡河したのである。信吉の動きを察知した弥七郎は河川上から大筒を放ち、信吉の渡河を食い止めようとしたのであるが、大筒に怯む事のなかった信吉隊は利根川を渡ってしまったのであった。



 里見義康も矢作城を出て、小見川城へ急いでいた。小見川城下の石高はさほど旨味のある物ではないのであるが、秀頼より宿老・板倉昌察に与えられた地である。里見家としてなんとしても守らねばならない。


 「殿! 小見川城は水野方に攻められて激しい戦になっております! 」


 物見による報告が義康にもたらされる。義康は馬の腹を蹴飛ばし先を急ぐ。


 「者ども、騎乗の者は我に続け! 徒の者は遅れても構わぬ! 石田新兵衛、そなたは徒の者を率いて参れ! 」


 そう言って、自ら足の速い騎馬兵二千余りを率いて小見川城へ急ぐのであった。里見義康は普段は家臣の力量を信頼し、家臣達に手柄を上げさせるように自らは後方に控えて戦をするが、ここ一番の時は先頭に立ち兵を率いる。治める土地が房州という、どちらかと言うと重要ではなく京からも遠い地であるがために、武田信玄、上杉謙信、徳川家康らと比べると地味に見えているが、将の質ではそれら歴代の名だたる武将たちにも引けを取らない物を持っていたのである。唯一それを認めていたのは「豊臣秀吉」であった。


 義康の耳に大きな喚声が聞こえる。小見川城が見えた。城壁に水野の旗が蠢き、戦の激しさが伝わってくる。


 「者ども! 我らは右手より槍を付ける! 続けっ! 」


 義康は疲労の色が見える馬を優しく一撫ですると、再び腹を蹴り、水野本隊に向けて駆けていった。この時、義康に付いて来れた兵は千余り、千兵は馬が潰れたりして遅れた。その者達も追々義康の後を追うであろう。


 「お主ら! 殿に続け! 殿を一人にするでないぞ!」


 池引内匠助も里見義康を守らねばと必死で、従える騎馬武者どもを鼓舞するのであった。




 水野勝成はいち早く里見義康が駆け付けた事を知っていた。


 「うぬっ! 思ったより早かったな! 井田殿に本体まで引けと伝えよ! 」


 勝成は、当初より、援軍が現れた時は戦が不利に展開することを読んでいる。援軍に駈けつける者達は得てして戦意が高い。それに援軍される立場の…ここでは小見川城籠城兵達…者達の士気が上がり息を吹き返すのである。戦上手の経験に富んだ勝成はその事をよく知っていた。

 戦は引く時が難しい。敵に背を向ければ、勢いに乗った敵に用意に討ち取られる。大きな痛手を受けての敗走ではないので士気は高く保てるが、上手く引くには殿を務める将の力量が大事となる。

 水野勝成は義康と一当たりして、引き時を見極めるつもりであった。

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