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小見川城の戦い (一)

 一六一一年一月


 水野勝成は兵の鍛錬や旗下に入る大名達との談合を終え、家康にいよいよ小見川城に攻め入る旨を伝えた。家康は了承し、更に援軍として松平信吉を向かわせることにした。松平信吉は常陸・土浦を四万石で治めており、二千兵を引き連れての援軍である。小見川城の城主であった藤堂正高は名誉を挽回したいと参陣を直訴したが、認められなかった。正高は秀忠に預けられる形となっていた。


 この時点での水野軍は、関宿二万石の松平忠良、市川大野城一万五千石の西郷康員、船橋小野田二万石の井田胤徳の小大名が勝成の従える将で、勝成の直卒兵と合わせて一万兵。松平信吉の兵を加えると一万二千兵となる。

 井田胤徳は先年、勝成の居城・矢作城が奪われた戦で援軍に駈けつけ、矢作城を守っていた。しかし勝成が井田胤徳を城に置いたまま臼井城に撤退してしまい、矢作城に取り残された苦い過去がある。そのせいで里見領に近い宮和田城を保てなくなり、船橋・小野田城に移封となっていたのであった。当然、胤徳は水野勝成に対して良い印象は持っていない。

 ちなみに矢作城は豊臣秀頼旗本の片山久安が治めている。実際は里見家が後見しているので、久安の同意を得て義康は兵を入れたのである。



 一方、大塚賢介の配下である里見忍びの者により、臼井城に兵が集まり小見川城を攻めるとの知らせが、里見義康の元へもたらされていた。

 鳥居成次は水野勝成の動きに合わせて常陸国内の徳川勢力が動くかもしれないため参陣することはできない。そこで家臣の中山照守を使ってやって欲しいと義康へ送った。

 義康は小見川城に黒川権右衛門、中山照守、竹田権兵衛を入れ五千兵で守らせる。矢作城に義康が一万兵で入り、すぐにでも小見川城に迎えるように構えた。義康には池引内匠助が付従う。

 水路では銚子に竜崎弥七郎を待機させた。


 こうして、両軍とも準備は整った。



○常陸国水戸城


 城主・徳川頼宜の御付家老・水野重好は水野勝成らの小見川城攻めが行われる事を知らされた。江戸城にいる主・頼宜に代わり水戸城を預かる重好は、これを好機と見ていた。先年から常陸の領内を蝕んでいる里見家の者どもを懲らしめる機会にならないかと思案する。剛の者と知られた水野勝成である、激しい戦となるであろう。とすれば常陸国内の里見領を攻めたとて援軍は来れないだろうと思っていた。

 水野重好の狙いは水戸城に一番近い多良崎城である。多良崎城には千葉重胤が千ほどの兵を擁し守っている事は調べていた。重好もまた戦の準備を進めたのであった。


 水戸城で動員できる兵は凡そ五千兵。城に千兵を置いて行くとして四千の兵を出せる。単純に敵方の四倍ほどの兵力で十分に勝機がある。


 水野重好は期の熟するのをじっと待つのであった。




一月二十日

 水野軍一万兵は臼井城を出陣する。先鋒は西郷康員、中備に井田胤徳、後備に松平忠良でそれぞれ二千兵を率い、最後尾は大将・水野勝成四千という布陣だ。相変わらず鉄砲は少なく千である。

 昼前に小見川城前、遠巻きに水野軍は陣を構えた。


 勝成は逸る将達を抑え、明日早朝よりの攻撃とし、陣を固く守るよう指示を出したのであった。攻城戦では慌てると上手くいかない事を知っている勝成であった。


「さて、明朝からの城攻めですが、西郷殿は鉄砲で正門を激しく攻めて下され。その間に井田殿は脇に回り何処でも良いので火矢を打ち込み火の手を上げるようお願いたす。忠良殿は井田殿の援護を。」


 諸将は頷いた。

 勝成は西郷率いる鉄砲隊の攻撃で正門に敵を引きつけて置いて火矢を放ち、そこから城方の守りを崩そうというのである。火の手が上がれば更にそこに注意の目が向き、隙をついて壁を乗り越え城内に入り込めるのである。小見川城は里見家の物となり日が浅い、当然、改修などは十分ではない。



 小見川城内では、城前に布陣した水野軍を前にして、即座に臨戦態勢へと入る。正門を守るのは竹田権兵衛、率いるは二千兵。その後ろに中山照守が千兵で、守りにくい塀の低い左手に黒川権右衛門が残りの二千兵を率いた。本丸を守る将はいない。水野軍の動きに対応し城への侵入を防げば、義康が駆けつけてくれるはずである。本丸などで戦況を見る悠長な事をする気がなかったのである。敵に侵入された時に将のうちの誰かが本丸を守ればよいと談合は済んでいた。


 緊迫した空気に包まれて小見川城の夜が過ぎていくのであった。

 

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